FULLMOON

藤野 朔夜

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第十一章

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「僕ね、日本に行くことにした」
  帰ってくるなり口を開いたザークに、リグは唖然とした。
  なんだ、ザークに何が起こったんだ?
  きっと疲れて、憔悴しているだろうと、思ったのに。
  晴れやかに言い切ったザークはすがすがしいほど笑顔だ。
「唐突だな」
  いつまでも呆けてはいられないので、リグはそう言葉を返す。
  本当に、何が起こってるんだ?俺の知らない間に。リグは頭を抱えたくなった。
  昔、ザークがリグの家を出ると言った時と同じくらい衝撃だ。
  否、まだ居場所がわかっているだけ良いのか?日本は島国で小さいから、世界中を自由に飛び回っていた頃のザークを探すより、手間はないだろう。
  が、置いて行かれる気もさらさらないので。
「何でいきなり日本なんだ?」
  今まで、日本には行ってなかったと思うのだが。
「あれ、言ったよね?日本人の友人ができたって」
  ザークは頓着していないのか、あっけらかんと言う。
  お前、アイリスに殺されたのが日本人だと忘れてないか?否、忘れ去ってて良いんだけど。
  なんだ、この敗北感は。
「もしかして、またそいつに会ったのか?」
  だからこんなに晴れやかなのか、と。
「うん」
  すがすがしい笑顔で、ザークは頷いた。
「……」
  なんだ、この敗北感は。
  今までにない強敵が現れた気分だ。
「リグ?リグ、ねぇ、一緒に行ってくれないの?」
  はっとしたら、ザークが泣きそうな不安な顔をしてリグを覗き込んでいた。
  どうやら、返事をしなかったことで、不安にさせたらしい。
  というか、……。
「今度は一人で行くなんて言わないんだな」
  置いて行かれたら、どうしてやろうか、と考えていたのが霧散した。
「僕一人で勝手に行けって言われたら、そうする」
  少しスネた口調。
  なんだ、この可愛さは。
  って、俺は馬鹿か?
「はっ、んなこと言う訳ねぇだろ、いつ行くつもりなんだ?」
  自分を取り戻しつつあるリグに、ザークは「早い方が良い」と答えた。
  多分、ロイやその友人に会いたくないからだろう。
「早く、ね。荷物どうすんだ?向こうの住所決まってないし、こっちで処分してくしかないぞ」
  物には頓着してなさそうだし、日本で落ち着き場所を見付けたら、また買えば良いのだけれど、一応聞いてみる。
「ええーっと、ココが住所」
  ポケットを探ったザークが紙を出す。
  おい、待て。住所?
「タチナがね、日本に来るならどうぞって。部屋は空いているから気にしないで来て良いって」
  なんだ、この敗北感は(三回目)。
  タチナ、強敵すぎるぞ。おい。
「あ、それでね、タチナが恋人紹介してくれるって。僕もリグのこと紹介したいし、一緒に行きたい人がいるって言ったから」
  タチナ、お前には恋人がいたんだな。良かった。なんてリグが思っているとはつゆ知らず。
「うーん、でもある程度の家具はそろってるって言ってたし……服とかそんなくらいで良いか、持ってくの」
  やはり持ち物にはあまり頓着していなかったらしいザークは、なにやら楽しそうに荷造りを始めている。
  今から荷造り……徹夜でもしてやりそうだな、ザーク。とリグは思う。
  そう言えば、世界中飛び回ってた頃も、唐突な思い付きからかいきなり夜中に荷造りとか、よく有った。
  俺は覚えている。この光景を……。
  これはもはや、なにを言っても仕方がない。
「まったく。お前はいつも唐突だな」
  あの頃を思い返して笑ってしまう。
「そんなこと言ってないで、リグもリグの荷物まとめてよ。僕、リグのはやんないからね」
  完全に、固い口調はなくなっている。
  それに、あの頃はどこへ行くとも何も教えてもらえなかったし、こんな風にリグに荷造りを一緒にさせることもなかった。


「僕は怖かったんだと思う。リグにすがって生きるだけの僕が、リグにいらないと言われたらって」
「言ったろ。お前に怨まれてでも、お前がいなくなることに耐えられなかったって」
「うん。だからね、僕は本当にこれから先、リグの為だけに生きようかと。リグにいらないなんて、絶対に言わせないから。傍にいてください。僕を傍に居させてください」
「あぁ、離れるなんて許してやんねぇよ。お前の全てが俺のものだ」
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