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第一章 運命の悪戯
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唐突ですが、俺はオメガとして産まれちゃいました。
圧倒的な数がいる、ベータに産まれてくれれば良かったのに。とよく母に言われてましたよ。
アルファもオメガも数が少ないから、俺もせめてベータだったら、とか思ってましたけど。
だって、普通に女性に備わってる機能を、わざわざ発情期に体の中に作り出すオメガという性が、俺にはよくわからないから。
だから、兄には馬鹿だ馬鹿だと、よく言われたんだろうか。
自分の境遇を、しっかりわかっていないから、俺は馬鹿なんだろう。
俺は侯爵家の次男であり、片田舎から嫁いだ母の二番目の子だ。兄はアルファだったから、期待を裏切った気もする。
国の中枢で働けるのは、一握りのアルファ。俺なんて、何の役にもたたない。
だから、要らない子どもなんだろうなっていうのは、わかってたんだけどさ。
アルファに比べたら、頭の出来なんて雲泥の差で。父も母も兄も、早々に俺を田舎に送って、居ない人間にした。
祖父さんは好きだ。俺の性について何にも言わない。
こんな田舎じゃ学べるものも学べないと、家庭教師を付けてくれたくらいに優しい人だ。
で、学ぶうちにオメガに対しての、相当な偏見が有るって知った。
男なのに子どもが産めるってだけで、迫害があるのが当たり前。みたいな感じに。男なのに男を誘う。誰もオメガに産まれたいと思ってオメガになってるわけじゃないのに。
発情期のフェロモンっていうのは、アルファに対して相当強烈なものらしくて。理性を奪って勝手に誘ったオメガが悪いって言われる。
たとえその時に子どもが出来てたとしても、アルファには何の責任もないとされて。オメガは打ち捨てられる。
だから男の人が妊娠してても、誰も手を貸さない。女性には手を貸すのに。おかしいな、っては思ってたんだよね。
助けてもらえるオメガは、後ろ盾のしっかりあるアルファと番になってるオメガだけ。それ以外は迫害対象。
まぁ、だからか。俺が屋敷から出してもらえなくて、家庭教師を付けてもらってたのは。
いつ発情期が来るかもわかんないし。そんな状態で外歩いてたら、下手したらベータでさえ誘ってしまう。
一応貴族の子供ではあるから、そこは祖父さんが守ってくれてたんだろうな。とか思う。
そうは言ってもこの国、エルザルーン国の南端に有るこのザルドでは、魔獣被害が絶えない。だから俺も外に出ざるおえなくなったわけで。
一応領主なんだよね。祖父さんが。
隣国のアルザラドとは、国境が近いことも有るし。魔獣退治には双方から騎士を出すんだけど。
俺一応屋敷の中で、剣も習ってたんだよね。
で、頭の出来はどうにもならなかったんだけど、剣は振ってみると面白い。身体を動かすのは楽しすぎた。
育っていくにつれて、筋肉も育ったわけですよ。
誰が見ても、俺をオメガだとは思わないっていう風貌に育ってしまったわけだ。
別に俺もオメガとして生きたいわけじゃなかったし、身体を動かすことで祖父さんの助けになるなら、今まで助けてもらった恩返しできるんじゃないかって考えた。
俺が十五歳になるころには、抑制剤もしっかりしたのが開発されてて。これが有れば、俺はオメガだと気付かれないんじゃないかな、ってさ。
たとえ気付かれたとしても、たとえ性欲処理をしたい人間がいたとしても、こんなに筋骨隆々な男、誰も抱こうとは思わないだろう。ってのも有った。
アルザラドの辺境の街になってるアザッドは、同じ魔獣被害に合うから、互いに協力体制がしかれてる。
だから名前だけは騎士団長なんだけど、アルザラドの騎士たちと会うのはだいたい魔獣退治の時のみ。
他は祖父さんとか副団長とかが色々と……うん、色々とやってくれている。
だって俺わっかんねーもん。
脳筋だ脳筋だと言われながら、抑制剤飲んでその他大勢のベータに成りすました、名前だけ騎士団長。
隣国含めた街を守ってるって立場だから、わかんないことには口を出さない。
名前だけの団長でも、良いじゃないか。魔獣はその分多く倒してると自負してる。
領主の孫だから、ただの騎士って扱いに出来なかったってのはわかってるから。
俺が団長になる前までの団長は、王都に呼び戻されて戻って行ってて。いきなりポッと出てきた俺が団長になります。とか言われて、副団長が団長になるもんだと思って、彼を慕ってた騎士たちに恨まれても、そりゃ仕方ないとか思っちゃうけど。
うん、まさか魔獣だらけの森の中に、入り込まざるおえない状況にもってかれるとは、思わなかった。
これはもう俺死んだ?死ぬんじゃない?
まぁね、俺が死んだら副団長は団長だよね。
祖父さんに恩返ししたいとか考えて、騎士になるなんて言わなきゃ良かったのかなぁ?
でもさ、考えてもみてくれ。俺ができる事なんて、魔獣退治しか無いんだよ。
それ以外に思い付かなかっただけだろうけど。
何を言われても笑顔で頑張ってきたつもりだったけど。
馬鹿だの脳筋だの言われてきた脳ミソじゃ、何か考えることが苦手過ぎて。
裏で腹黒いやり取りがあるとかどうとか、気付きもしないで生きてきた。
人間には表の顔と裏の顔が有るんだって、教えてくれたのは祖父さんで。俺の騎士団入りを最後まで反対してたんだよね。
今ならよくわかる。屋敷の人間は、俺には表の顔しか見せてなかった。騎士団の騎士たちも同じ。
皆優しい人たちだなぁ、とか呑気に思ってた俺を、今からでも殴りに行きたい気分だ。
結局こんな状況に陥った経緯を考えても、よくわからないとしか言えない脳ミソなので。仕方がないからわかることだけ考えてたんだけど。
そろそろヤバイかも?
本能が警鐘を鳴らしてる。
オメガの本能は、アルファと同じくらいに動物的だ。
抑制剤を飲んでても、その本能は無くならないから、だからこそ誰よりも魔獣を倒してこれたんだとも思っている。
すぅ、と大きく息を吸って。はぁ、と吐き出す。
今までの雑念を追い払う様に精神を統一して……。
相棒の剣を片手に、自然体で立ち上がる。
俺は型を取らない。自然体の方が、身体の動きがスムーズだから。
魔獣の死肉を食らってでも、俺は生き延びて帰ってやる。オメガの本能が動物的だと言うのなら、帰省本能が有ると信じる。
俺は祖父さんに曾孫の顔を見せると約束した。
辺境の地だろうと、一応は領主の家だ。嫁いでくれる女性がいるかもしれない。
最悪俺がオメガの本能で、抑制剤無しにアルファを誘えば良いとも思ってる。祖父さんはそれを許さないだろうが。
でも約束したんだ。だからこんな所で、まだ二十になりたてで、死んでる場合じゃない。
まだまだ序盤だから、身体は簡単に動く。
それでも最小限の動きに抑えて、出来るだけ体力は温存しなければいけない。
それくらいは考えるのが苦手な俺でもわかること。
脳神経伝達よりも早い反射神経だけで動く。魔獣との戦いは、考える時間を取った方が負ける。魔獣の数が多ければ余計に。
幸運なのか、五匹程度だったから、さほど時間はかからなかった。
でもすぐに動かなきゃいけない。血の匂いは他の魔獣を呼び寄せる。
フッと心が北の方角に反応した。こっちだ、と。
来た道はもう覚えていないから、俺はその感覚に従って走り出した。
もう考え事は終わりだ。
俺はこれから帰る為に戦う。
圧倒的な数がいる、ベータに産まれてくれれば良かったのに。とよく母に言われてましたよ。
アルファもオメガも数が少ないから、俺もせめてベータだったら、とか思ってましたけど。
だって、普通に女性に備わってる機能を、わざわざ発情期に体の中に作り出すオメガという性が、俺にはよくわからないから。
だから、兄には馬鹿だ馬鹿だと、よく言われたんだろうか。
自分の境遇を、しっかりわかっていないから、俺は馬鹿なんだろう。
俺は侯爵家の次男であり、片田舎から嫁いだ母の二番目の子だ。兄はアルファだったから、期待を裏切った気もする。
国の中枢で働けるのは、一握りのアルファ。俺なんて、何の役にもたたない。
だから、要らない子どもなんだろうなっていうのは、わかってたんだけどさ。
アルファに比べたら、頭の出来なんて雲泥の差で。父も母も兄も、早々に俺を田舎に送って、居ない人間にした。
祖父さんは好きだ。俺の性について何にも言わない。
こんな田舎じゃ学べるものも学べないと、家庭教師を付けてくれたくらいに優しい人だ。
で、学ぶうちにオメガに対しての、相当な偏見が有るって知った。
男なのに子どもが産めるってだけで、迫害があるのが当たり前。みたいな感じに。男なのに男を誘う。誰もオメガに産まれたいと思ってオメガになってるわけじゃないのに。
発情期のフェロモンっていうのは、アルファに対して相当強烈なものらしくて。理性を奪って勝手に誘ったオメガが悪いって言われる。
たとえその時に子どもが出来てたとしても、アルファには何の責任もないとされて。オメガは打ち捨てられる。
だから男の人が妊娠してても、誰も手を貸さない。女性には手を貸すのに。おかしいな、っては思ってたんだよね。
助けてもらえるオメガは、後ろ盾のしっかりあるアルファと番になってるオメガだけ。それ以外は迫害対象。
まぁ、だからか。俺が屋敷から出してもらえなくて、家庭教師を付けてもらってたのは。
いつ発情期が来るかもわかんないし。そんな状態で外歩いてたら、下手したらベータでさえ誘ってしまう。
一応貴族の子供ではあるから、そこは祖父さんが守ってくれてたんだろうな。とか思う。
そうは言ってもこの国、エルザルーン国の南端に有るこのザルドでは、魔獣被害が絶えない。だから俺も外に出ざるおえなくなったわけで。
一応領主なんだよね。祖父さんが。
隣国のアルザラドとは、国境が近いことも有るし。魔獣退治には双方から騎士を出すんだけど。
俺一応屋敷の中で、剣も習ってたんだよね。
で、頭の出来はどうにもならなかったんだけど、剣は振ってみると面白い。身体を動かすのは楽しすぎた。
育っていくにつれて、筋肉も育ったわけですよ。
誰が見ても、俺をオメガだとは思わないっていう風貌に育ってしまったわけだ。
別に俺もオメガとして生きたいわけじゃなかったし、身体を動かすことで祖父さんの助けになるなら、今まで助けてもらった恩返しできるんじゃないかって考えた。
俺が十五歳になるころには、抑制剤もしっかりしたのが開発されてて。これが有れば、俺はオメガだと気付かれないんじゃないかな、ってさ。
たとえ気付かれたとしても、たとえ性欲処理をしたい人間がいたとしても、こんなに筋骨隆々な男、誰も抱こうとは思わないだろう。ってのも有った。
アルザラドの辺境の街になってるアザッドは、同じ魔獣被害に合うから、互いに協力体制がしかれてる。
だから名前だけは騎士団長なんだけど、アルザラドの騎士たちと会うのはだいたい魔獣退治の時のみ。
他は祖父さんとか副団長とかが色々と……うん、色々とやってくれている。
だって俺わっかんねーもん。
脳筋だ脳筋だと言われながら、抑制剤飲んでその他大勢のベータに成りすました、名前だけ騎士団長。
隣国含めた街を守ってるって立場だから、わかんないことには口を出さない。
名前だけの団長でも、良いじゃないか。魔獣はその分多く倒してると自負してる。
領主の孫だから、ただの騎士って扱いに出来なかったってのはわかってるから。
俺が団長になる前までの団長は、王都に呼び戻されて戻って行ってて。いきなりポッと出てきた俺が団長になります。とか言われて、副団長が団長になるもんだと思って、彼を慕ってた騎士たちに恨まれても、そりゃ仕方ないとか思っちゃうけど。
うん、まさか魔獣だらけの森の中に、入り込まざるおえない状況にもってかれるとは、思わなかった。
これはもう俺死んだ?死ぬんじゃない?
まぁね、俺が死んだら副団長は団長だよね。
祖父さんに恩返ししたいとか考えて、騎士になるなんて言わなきゃ良かったのかなぁ?
でもさ、考えてもみてくれ。俺ができる事なんて、魔獣退治しか無いんだよ。
それ以外に思い付かなかっただけだろうけど。
何を言われても笑顔で頑張ってきたつもりだったけど。
馬鹿だの脳筋だの言われてきた脳ミソじゃ、何か考えることが苦手過ぎて。
裏で腹黒いやり取りがあるとかどうとか、気付きもしないで生きてきた。
人間には表の顔と裏の顔が有るんだって、教えてくれたのは祖父さんで。俺の騎士団入りを最後まで反対してたんだよね。
今ならよくわかる。屋敷の人間は、俺には表の顔しか見せてなかった。騎士団の騎士たちも同じ。
皆優しい人たちだなぁ、とか呑気に思ってた俺を、今からでも殴りに行きたい気分だ。
結局こんな状況に陥った経緯を考えても、よくわからないとしか言えない脳ミソなので。仕方がないからわかることだけ考えてたんだけど。
そろそろヤバイかも?
本能が警鐘を鳴らしてる。
オメガの本能は、アルファと同じくらいに動物的だ。
抑制剤を飲んでても、その本能は無くならないから、だからこそ誰よりも魔獣を倒してこれたんだとも思っている。
すぅ、と大きく息を吸って。はぁ、と吐き出す。
今までの雑念を追い払う様に精神を統一して……。
相棒の剣を片手に、自然体で立ち上がる。
俺は型を取らない。自然体の方が、身体の動きがスムーズだから。
魔獣の死肉を食らってでも、俺は生き延びて帰ってやる。オメガの本能が動物的だと言うのなら、帰省本能が有ると信じる。
俺は祖父さんに曾孫の顔を見せると約束した。
辺境の地だろうと、一応は領主の家だ。嫁いでくれる女性がいるかもしれない。
最悪俺がオメガの本能で、抑制剤無しにアルファを誘えば良いとも思ってる。祖父さんはそれを許さないだろうが。
でも約束したんだ。だからこんな所で、まだ二十になりたてで、死んでる場合じゃない。
まだまだ序盤だから、身体は簡単に動く。
それでも最小限の動きに抑えて、出来るだけ体力は温存しなければいけない。
それくらいは考えるのが苦手な俺でもわかること。
脳神経伝達よりも早い反射神経だけで動く。魔獣との戦いは、考える時間を取った方が負ける。魔獣の数が多ければ余計に。
幸運なのか、五匹程度だったから、さほど時間はかからなかった。
でもすぐに動かなきゃいけない。血の匂いは他の魔獣を呼び寄せる。
フッと心が北の方角に反応した。こっちだ、と。
来た道はもう覚えていないから、俺はその感覚に従って走り出した。
もう考え事は終わりだ。
俺はこれから帰る為に戦う。
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