骨董屋の主人

藤野 朔夜

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『だから縛って良いと、俺自身が言っているのだから。若造は簡単に俺の主になれるのう』
 俺自身が望むのだからと、タマは言っている。
 うん。タマって呼んで良いって言われたから、この妖は僕の中ではもうタマだ。
『俺も若造ではなく、勇と呼ぶか。その方が良いな、うむ。ほれ、サッサと俺を指揮下に置け』
 タマは彼にそう言ってる。
 僕より先に彼の名前呼ぶとか、ずるい。
 まぁ、僕が恥ずかしくて呼べ無かったってだけなんだけど。
「梓より先に名前を呼ぶな。タマ、これで良いだろ?」
 え、そんだけ?
 なんか無いの?小説とかで有るような、契約みたいな言葉とか。
 あ、僕はただの小説の読み過ぎか。
『ふむ。誰かの指揮下というのは、なったことが無かったが。あんまり変わりも無いなぁ』
 タマもなんだか不思議そうな顔をしている。
「そこまで変化は無いだろ。普通だ。まぁ俺もタマ以外は居ないから、あんまり知らない」
 そっか、彼もそんなに詳しくは無いのかな。
「名前呼ぶだけ、なんだ」
「それだけで、妖は縛られるから。名前は一番短い呪だ。呪ってのは……あー、俺も詳しく説明が出来ないんだが……。梓は俺を呼んでくれないのか?」
 ポツリと呟いた僕に、しっかり返答してくれる彼。
 な、名前。せっかく知ったし。呼びたい。んだけど。
「あ、……勇、くん……」
 くんとか、要らないでしょ。僕ってば本当に駄目。
「君は無くて良いんだが。まぁ、梓の呼びやすい呼び方から、始めてくれたらそれで良い」
 笑顔を僕にくれる彼にドギマギして。あぁ、もう。駄目だ。恥ずかし過ぎる。
 っていうか、僕ちゃんと返事してない。
 いや待って、僕好きだって言われた?
 あれ?
 一緒に居たいとか言ってもらえはしたけど。ええーっと。ううん?
 でもタマは、勇くんは僕のことが好きだって言った、よね?
「どうした?」
 顔をのぞき込まれて、考え込んでたことに気付く。
 えと、僕はどうしたら良いんだろう。
 ただ彼の傍には居たいとは、思うけれど。言葉にして、それを伝えたら良いんだけど。
 僕を好きだって、思っても良いの?
 それとも単に幽霊とかで気になるから、傍に居てくれるだけ?
 あれ、それは最初で、途中から変わったって言ってた。よね?
「梓?何が気になる?教えてくれ」
 言わなきゃ伝わらない。それはわかってるんだけど。
 恥ずかしいんだよ。
『勇、お主梓にちゃんと気持ちを伝えておらんぞ。微妙な告白とも言えん。男ならしっかり言うとけ』
 あ、タマが言ってくれた。
 助かった……のか?
 あ、でも勇くんは、何かしまった、みたいな顔してるし。
「ごめん。気が逸ってた。ちゃんと言ってなかったな。俺は梓のことが、好きだよ。ずっと守りたいと、そう思う」
 うっわー。面と向かって言われたら、余計に恥ずかしくなった。
 体温が急上昇した気分。
「ぼ、僕は、その、あの……。本読んでるふりで、こっそり見てたりとか、しちゃうくらい、好きです」
 なんだ、僕の告白。
 これは無いでしょー。うわーん。もうなんだろう。僕ってば、言葉選んで選んでこれって、どうしよう。
「知ってた。いつも見ててくれたこと。だから、これからはこうやって、ゆっくり会話して行こう」
 バレてたー。僕が見てたのバレてた。
 は、恥ずかし過ぎる。もう僕自分で穴掘って埋まりたい。
『お互いに意識し合っておったのになぁ。難儀だなぁ。人間は』
 タマはそんな風に言ってるけど。
 タマだって、勇くんが僕のこと好きだって、さっき知ったはずなのに。
「猫は気楽だな」
 勇くん、タマに辛辣な気がする。
 僕には優しいのに。何で?
『おうおう。心が狭いの。梓と俺がずっと一緒だったからと、そんなに怒るな』
 え、そんなことで怒ってるの?
 だから辛辣なの?
「うるさいな」
 図星らしい。
「僕、この思いは絶対に言ったらいけないし、叶わないんだって、そう思ってた」
 僕は何だか饒舌になったみたいだ。
 さっきから、本当に色々しゃべってる。
「どうしてそう思ったんだ?」
 だって、勇くんはそう聞いてくれる。僕の言葉を、聞き逃さないでいてくれる。
 それが嬉しいんだ。
「だって男同士だし。初恋は実らないなんて、どこかで聞いたし」
 言わなきゃ伝わらないんだ。
 だから僕は言葉にするってことを覚えた。
 言えば勇くんから、返事が返って来る。そうわかったから。
「男同士は置いといて、初恋っていうのは、俺もだな。けどな、俺が人から聞いた話だけど、初恋は勝手がわからなくて、自分本位の考えをするから実らないんじゃないのかって。そう言ってた人がいてさ。んで、その人は大学の時に、初めて好きになった人が居たんだけど。その相手が何でも聞いてくれて、不満でも不安でも、全部受け止めてくれるから、今でも一緒に居られるんだって。だからさ、梓は何か有ればすぐに言って。俺がわかるまで、しっかり聞くから。梓がずっと出来なかったことも、俺と一緒にしてかないか?」
 勇くんの回答は、僕にはすごい物だった。
 え、そういう考え方も有るんだっていう。目から鱗って、こういうことなんだろうか。
「その人もさ、梓と同じで、他人を寄せ付けない様な人だった。人より力の強い人だから、余計に他人から離れてたのかもしれないけど。その人、恋人が出来て、ずっとしたことのなかったことが出来たのが、すっごい楽しいんだって。俺もそれほど色々してないし、経験もしてないから。だからさ、一緒に色々やりたい。そんで、梓が不安とか不満とか持ってたら、全部俺が受け止められる様になりたい」
 勇くんの語る人の恋人さんが、どれだけ器の大きな人か、僕には想像もつかない。
 でも、それを勇くんは僕にしてくれるって言うんだ。
 すごいと思う。
 僕のこと、タマから聞いて知ってるだけしか無いのに。そこまで思ってもらえるなんて。僕の幸運は、勇くんに出会って無くなったんじゃないかな。
 でも良いや。勇くんが居てくれるなら、僕はきっと幸せだ。
『ほうほう。言うのう。梓を泣かせでもしたら、八つ裂きにしようかと思うたが、心配いらんか。まぁ、俺は邪魔だろうから、消えておろうか。帰る時に呼べよ』
 そう言って、タマはフラリと歩いて行った。
 骨董屋から出てったけど、大丈夫だろうか。
「タマのことは気にするな。俺には居場所がわかるから。後、俺が帰る時には戻ってもらうから。梓?どうした?」
 ポロポロと零れる涙は止めたくても止まらない。
 どうしよう。勇くんが焦ってる。
 でも、僕はすっごく幸せで。だから涙が出てて。
「ぼ、くは、一生、独り、なんだ、って……」
 あぁ、もうしゃべれないよ。どうしよう。勇くんを慌てさせたくはないのに。
「っ、梓、ずっと俺が居る。一緒に居る。だから、これからは独りじゃない。タマも居るし」
 あぁ、わかってくれたんだ。
 僕が鳴いてる理由。良かった。
 フワリと抱き締められて。他人の体温をこんな風に感じることが出来るなんて。
 それさえも僕には初めてのことだから。嬉しくて。
 あぁぁ、どうしよう。涙が止まらないよ。
 抱き締められてるから、勇くんの服に僕の涙が染みてしまう。
 でも離してなんて言いたくない。僕はこの腕の中に居たい。
 なんて我儘で傲慢なんだろう。
 卑屈で臆病で、そんで我儘で傲慢なんて。僕に良いところなんて、一個も無いよ。
 なのに僕を好きで良いの?一緒に居るって言ってくれるの?
 僕は不安に思ってること、吐き出しても良いだろうか。
 僕の本性を知ったら、嫌いになられないだろうか。
「梓、人間って欲深いって、俺何度も言ってるけど。強欲で良いんだ。梓が欲しいと願うのが俺なら、俺はそんな梓をずっと守るよ」
 あぁ、どうしてだろう。
 どうして勇くんは、僕の欲しい言葉を、こんなに簡単に言ってくれるんだろうか。
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