骨董屋の主人

藤野 朔夜

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「梓?どうした?」
「な、なんでもない……」
 恥ずかしくてどうしたら良いんだろう。
 さっきまで抱き締め合ってたのに。そっちのが絶対に、恥ずかしかったはずなのに。
「僕さっきから、勇くんに甘えてるなって、思ったら。こんなに甘えてて良いのかな、とか」
 ポンと勇くんの手が、僕の頭に乗った。
「梓が甘えてくれてるなら、俺は嬉しいよ。そうなりたかったから。梓以外は、甘やかさないから」
 そう言うとこがもう、僕を甘やかしてる。
「梓は俺にだけ、甘えてくれたら良いんだよ。俺は梓が安心して居られる場所を、作りたいから」
 もうもう。なんなんだろう。
 いちいち言葉が甘すぎるよ、勇くん。
 僕に呆れられ無いのは嬉しいけど。
 でも甘えて、依存して。それで勇くんが去って行ったら、僕は怖い。
「僕は、人との距離がわからないから……」
 なのに勇くんは、あっという間に僕の領域に入っているんだ。
 だからもう、居なくなられたら困る。
「俺との距離は、今はこのくらい。これからもっと縮まるって、そう考えてたら良い。他の人間のことまで、考えなくて良い」
 勇くんとの距離だけ、か。
 たしかに僕は、他の人とは多分これからも関わらないだろうな。
 関わりたいとか、思わないから。だから勇くんのことだけで、良いんだ。
 そう思ったら、僕は少し楽になれた。
 どうしてこんなに、気を張ってたんだろう。勇くんは、きっと傍に居てくれる。居なくならない。
 そう信じる。うん。
「居なくならないで、ね」
「ならない。これからもっと縮めたいって、言っただろ?」
 即答される返事に、僕はホッと息を吐く。
 これからもっと勇くんとの距離が縮まるのかぁ。もっと近い距離って、どんなんだろう。
 僕の一番近くに居たのは両親だ。
 両親以上の近い距離は、僕には想像も出来ないから。
 だから、考えてみる。一緒の食卓についてるとことか。そんなくらいしか思い浮かばない。
 想像力皆無も甚だしい。
 そういえば、僕には恋愛なんて出来るわけが無いとか思って、恋愛小説の類は読んだことが無い。読んで、憧れるのが怖かった。
 僕は本当に臆病らしい。
 本の世界に浸ってでも、恋愛気分とか味わっておけば良かった。
 まぁ勇くんを好きになった時点で、普通の恋愛小説じゃ、意味無いんだろうけど。
 でも、男女の恋愛と、変わらないよね。
 ちょっとでも勉強になるかな。恋愛小説。読んでみようかな。
 全部勇くんに任せっきりじゃ、きっと駄目だ。多分僕が自分自身に嫌気がさすから。
 だから僕も、恋愛について知らなきゃ。
 どうして勇くんを好きになった時に、そういう方面の本に、手を伸ばさなかったんだろう。最初からあきらめてたんじゃ、本当に駄目だよね。
 でも勇くんも、本当は言うつもりじゃなかった。って言ってた。
 勇くんも、あきらめてたのかな。
 僕が見てるって、気付いてたのに。
「勇くんさ、最初言う気は無かったって、言ってたよね?」
 どうして言ってくれたんだろう。
 不安に思ったことは、全部口に出せって、言われたんだから。聞きたいことは、聞いて行こう。
 そうしたら、距離は縮まるよね。
「あぁ。俺はあんあまり話すのが得意じゃなくてな。会話の糸口がわからなかったんだ。だから、梓が話しかけてくれて、本当に嬉しかった。じゃなきゃ、あきらめなきゃいけないと、そう思い込んでただろうな」
 臆病者だろ。なんて言ってるけれど。
 それでも僕に告白してくれたんだから、勇くんは臆病なんかじゃ無い。
「ぼ、僕はさ、勇くんのことあきらめなきゃって、そう思ったから。だから、声かけて、見てた茶器引き取ってもらって。もう姿を見れないけど、それで良いんだって、そう思って……」
 あきらめて無きゃ、僕はきっとずっと声をかけなかっただろう。
 だから。
「臆病なのは、僕の方。怖くて逃げて。耳塞いで。幽霊見る時と同じ。見なければ、怖くないなんて、そう思って。だから、勇くんがあっさりと帰っちゃってたら、きっとそこでおしまいだったんだ」
 言ってくれたから。僕に会いに来てたんだって。
 だから僕も僕の気持ちを、勇くんに伝えられた。伝えられる時を、勇くんがくれたんだ。
「梓がな、迷惑じゃないって言ってくれたろ?じゃなきゃ俺はきっと、あきらめて帰ってたんだろうな。だから、お互い様ってことだな」
 笑ってくれる勇くん。
 この話、どっちがどうとか、永遠に続きそうだしね。うん。ここまで。
「お互いに初恋だったんだ。手探りだし、多分今みたいな会話、続けたりするんだろうな。けど、そういう会話も、俺は嬉しい。梓となら、多分どんな会話だって、嬉しいんだ。ずっと会話がしたいって思いながら、糸口を掴めずにいたからだろうな」
 優しい手が、僕の頭を撫でてくれる。
 こういうスキンシップもしたことないから、照れる。
 照れたり恥ずかしかったり、色々大変だなぁ、恋愛って。僕の心臓は、ずっとバクバクし続けてる。
「人間の一生分の心臓の動く回数は決まってるって、どこかで読んだんだけど。勇くんと居たら、早死にするってくらいに、心臓バクバクし続けてるんだよ。僕、本当に、どうしよう……」
 どうしようってなんだ。
 勇くんだって、こんなこと言われたら、困るだけじゃん。
 もう、本当に会話能力無いんだ、僕。勇くんも話すのは苦手だ、なんて言ってたけど。僕よりは絶対に会話能力有る。
「それもお互い様だな。俺もずっとドキドキしてる」
 あんなに甘い言葉言ったりしてるのに?
 僕には余裕にしか見えないよ。
「でも梓に早死にされたら困るなぁ。俺はきっと梓が居なくなったら、生きて行けない」
 だっから!言葉が甘いんだって。
 免疫無いし、恋愛したこともないけど、そのくらいはわかるよ。
 というか、免疫無いから、余計に僕はそういう言葉に敏感っぽい?
 勇くんの僕を見る目は優しいし。僕に触れる手も、優しいんだ。
「なんで、そんな恥ずかしいこと、平気で言えるの。僕もう本当に心臓が爆発しそう」
「だから、それは困るって。俺と一緒に生きてくれるんだろ?」
 嫌だもう。本当に。勇くんってなんでこう一々甘いのさ。
「生きるよ。だって、せっかく勇くんと話せる様になったんだから」
 僕だって、負けてらんない。って、勝負じゃ無いけど。
 勇くんが好きだって気持ちは、ちゃんと有るから。だから一緒に生きるって言ってくれる勇くんには、ちゃんとした返事をしなきゃ。
「梓の両親は……」
 うん?どうしたんだろう。
 少し言い淀む勇くん。
「いや、梓の両親は、きっと許してはくれないだろうな。と考えて」
 あぁ!そうだ。僕たち男同士だし。
「俺の両親は亡くなってるから、考えて無かったんだ。ただ……梓の両親に言うには、少しだけでも、俺に自信が出来ないと、無理そうだな、と」
 僕はそんなこと、一切考えていなかった。
 うわー、どうしよう。
「で、でも両親いつ帰って来るかわかんないし。それまでは時間有るし。一緒に考えようよ。僕は勇くんと居たいから、両親に何言われても良い」
 いつ帰って来るかわかんないから、時間も有るかもわかんないじゃん。
 でもでも、両親に何言われても、きっと僕は勇くんから離れるなんて出来ないから。
 だから本心。
「そうか。海外に行っているんだったか。梓が俺と居たいって言ってくれるだけで、俺は頑張れそうだ」
 タマに聞いたのかな。
 今ここで両親が出てきたら、本当に困るけど。
 まぁ、多分それは無いから。
「うん。そう。あの一角に有る海外の小物とか。両親が買って来た奴」
 ほぼ勇くんは見向きもしていなかった、あの小物たち。
 それを見て、勇くんは何でか頷いている。
「骨董と全く違う雰囲気だったから、見て無かったけど。そうか。ああいうのを買って来るんだな」
「そうだよ。中には何に使うのか、本当にわかんないのも有るけど」
 海外で色々と取引をしているから、だから両親は海外に居ることの方が長いんだ。
 この間行ったのは、いつだったかなぁ?両親のサイクルが、本当にわからない。
 連絡を、取るべきだろうか。
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