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《22》月とミドリガメ(6)

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「俺に見た目も中身も釣り合う女って、なに」
「私みたいな平らな日本人顔じゃなくて、もっと華やかな顔立ちで。性格も明るくて活発、な……」

 瑛美が話せば話すほど、大和の表情が鬼へと変貌していく。
 必然と声が小さくなって、肩が縮まっていく。

 はぁと重たい息が聞こえると、大和の膝の上に乗せられて強制的に視線を合わされた。

「すっごくイライラする。だから瑛美からキスして。これはペナルティだから」

 大和のがっしりとした腕が瑛美の体を捕まえる。逃げ出そうと体を捩らせたが、びくともしない。頑固として逃がさないという大和の強情さを感じて、回避は不可能だと察した。

「それ、拒否権は……」
「ない」
「わかり、ました。じゃあ、目を瞑ってもらっても、」
「嫌」

 拒否する声が反抗期の少年の様で、ムッと思いながらも少し可愛いと感じてしまった。
 仕方なく恥をのんで、大和の形の良い唇に己のものを重ねる。

「こんな子供みたいなキスじゃペナルティにならない」

 むす、とむくれる大和に瑛美の中にあった母性が刺激される。

(甘えたな大和、可愛い……っ)

 今なら大和の望むことは何でも叶えてあげたくなってしまった。

 口づけながら、下唇をはむはむと食んでみる。空いた隙間からおずおずと舌を差し込んで、大和の舌を探す。
 ぬるりとした淫らな感触に耐えられなくなって、とっさに顔を離した。

「もう、いいですか……?」
「もっと」

 一旦呼吸を整えて、大和の頬を両手で包み込む。
 堀の深い整った黒眼には、平凡な自分が映っている。まるで本当の愛し合う恋人のような空気感に、緊張する気持ちと歓喜する気持ちが膨れ上がった。

 再びキスをして、今度は勇気を出して大胆に舌を絡める。
 大和はされるがままで、微動だにしない。瑛美を試すかのような振る舞いに、応えたいという思いが沸き起こる。

 大和の熱い口内を味わうように舌を伸ばす。歯列を舐め、上顎を擦り、舌をねろねろと掻き回す。
 自分からこんな風に動いたことなんて今までにない。
 何に対しても小心者で自信がない瑛美は常に受け身だから、自分から積極的に行動することなんてなかった。

 ペナルティ、だから?
 でもそんなことは、唇に触れているうちにどうでもよくなった。

 大和の視線が嬉しい。甘えられて、怒っているのが嬉しい。この蕩けるような熱が心地いい。

「ごめん、瑛美……。もっと瑛美の奥に触れたい。嫌なら嫌と言ってほしい」
「……いやじゃない……です」
「瑛美もしたい?」

 言葉にするのが恥ずかしくてコクンと首を縦に動かす。

「駄目。言葉で言って」
「言わなきゃ、駄目ですか……?」
「駄目」

 弱弱しく眉を下げてお願いしてみたけれど、頑なになった大和は許してくれそうにない。

「大和と……したいです」

 蚊の鳴くような小さな小さな声だったけれど。大和は嬉しそうに頬をほころばせていた。

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