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《幕間14》染めたい(4)ひかり視点
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工房のすぐ隣にある日本家屋の屋敷に入る。文太郎に手を引かれて、階段を登っていく。
なんだか夢見心地で、地面に足がついていないような気がした。
ふすまを開けると、昔何度か入室したことのある文太郎の私室があった。組紐を組むための組台や、絹糸を巻きつけるための組玉が無造作に置いてある。
座卓には大量の紙が散らばっている。それらはきっと組紐のデザインの図案が書かれている紙だ。
「ふふ、相変わらず部屋は散らかったままなんだね」
「あー。掃除はしてるんだけど、どうしてもすぐ散らかっちゃうんだよねぇ」
「良い図案が浮かぶと、他のことは全ておろそかにするんだから。変わらないね、文ちゃん」
畳に落ちている紙を拾い上げ、座卓の上に揃えておいた。
後ろからぎゅうっと抱きしめられて、胸が高鳴る。
「今日はひぃちゃんを帰したくない……」
「うん。あ、でも待って……」
鞄の中からスマートフォンを取り出し、メール画面を開く。
「やだ。待てないよ……」
「あっ、ほんとに待って。……ひゃっ!」
ちゅうっと首筋を吸われて背筋がゾクゾクと震える。
なんとか「急用ができたので、明日行けません。本当にごめんなさい」という文字だけ打って、確認もせずに送信した。
洋服の裾から手を入れられて、素肌を撫ぜられる。
「文ちゃん、着物脱ご? しわに、なっちゃう」
「ひぃちゃんが脱がせて?」
「もぅ……」
ひかりは文太郎を立ち上がらせて羽織を脱がせた。
紐を取り、袴を脱がせると次に着物の紐を解いていく。
「プロポーズするから、羽織袴を着ていたの?」
「うん、そうだよ。一番の正装しなきゃって思って」
「ふふっ。プロポーズの場所が工房なのに?」
クスクスと笑いながら、身にまとっていた衣類を脱がせて下穿きだけにする。
「ひぃちゃんも脱がせていい?」
「……うん」
万歳をしてトップスとインナーを脱ぐ。スカートのファスナーの場所がわからない文太郎に、ここだよと教えてあげた。
二人とも下着姿になってじっと見つめ合う。
「ふふ、なんか恥ずかしいね」
「ひぃちゃんとっても可愛いよ」
そっと顔が近づいて、目を閉じると「あっ!」と突然文太郎が声をあげた。
「あ、僕、ゴム持ってない……」
「……」
ひかりは少し間考えて、鞄からポーチを取り出した。
「文ちゃん、これ……」
小袋をそっと文太郎に差し出す。
それを受け取った文太郎から、何やら不穏な空気が立ちこみ始めた。
「……ひぃちゃん、押田さんとするためにこれ持ってたの?」
「……っ」
決してそういうわけではない。
社長の娘として、父からも順番は守ってほしいと常日頃から口酸っぱく言われていたのだ。結婚相手以外の男性と子を身篭らないように、常に気をつけていた。だから自分の身を守る意味で、ポーチの中に避妊具を入れて持ち歩いていたのだ。
けれど、これを文太郎に説明しても、言い訳がましくなってしまう。
どうしたものかと考えを巡らせていると、文太郎に抱きかかえられて布団の上に押し倒されていた。
「ひぃちゃん、男と身体を繋げたの?」
「あ、ぶんちゃん……」
文太郎の声がどんどん低くなる。
両手首を押さえられ、身動きが取れない。ひかりを見つめる文太郎の眼が、嫉妬に駆られてどす黒く染まっている。
(こんな文ちゃん、見たことない。文ちゃんはいつも穏やかに笑っていて、怒ったことなんて一度も見たことがない、のに……)
小さな恐怖心と大きな歓喜が混じって、心臓が早鐘を打つ。
「他の男なんて思い出せないくらい、僕で染めてあげる」
そう言って唇に噛みつかれた。
なんだか夢見心地で、地面に足がついていないような気がした。
ふすまを開けると、昔何度か入室したことのある文太郎の私室があった。組紐を組むための組台や、絹糸を巻きつけるための組玉が無造作に置いてある。
座卓には大量の紙が散らばっている。それらはきっと組紐のデザインの図案が書かれている紙だ。
「ふふ、相変わらず部屋は散らかったままなんだね」
「あー。掃除はしてるんだけど、どうしてもすぐ散らかっちゃうんだよねぇ」
「良い図案が浮かぶと、他のことは全ておろそかにするんだから。変わらないね、文ちゃん」
畳に落ちている紙を拾い上げ、座卓の上に揃えておいた。
後ろからぎゅうっと抱きしめられて、胸が高鳴る。
「今日はひぃちゃんを帰したくない……」
「うん。あ、でも待って……」
鞄の中からスマートフォンを取り出し、メール画面を開く。
「やだ。待てないよ……」
「あっ、ほんとに待って。……ひゃっ!」
ちゅうっと首筋を吸われて背筋がゾクゾクと震える。
なんとか「急用ができたので、明日行けません。本当にごめんなさい」という文字だけ打って、確認もせずに送信した。
洋服の裾から手を入れられて、素肌を撫ぜられる。
「文ちゃん、着物脱ご? しわに、なっちゃう」
「ひぃちゃんが脱がせて?」
「もぅ……」
ひかりは文太郎を立ち上がらせて羽織を脱がせた。
紐を取り、袴を脱がせると次に着物の紐を解いていく。
「プロポーズするから、羽織袴を着ていたの?」
「うん、そうだよ。一番の正装しなきゃって思って」
「ふふっ。プロポーズの場所が工房なのに?」
クスクスと笑いながら、身にまとっていた衣類を脱がせて下穿きだけにする。
「ひぃちゃんも脱がせていい?」
「……うん」
万歳をしてトップスとインナーを脱ぐ。スカートのファスナーの場所がわからない文太郎に、ここだよと教えてあげた。
二人とも下着姿になってじっと見つめ合う。
「ふふ、なんか恥ずかしいね」
「ひぃちゃんとっても可愛いよ」
そっと顔が近づいて、目を閉じると「あっ!」と突然文太郎が声をあげた。
「あ、僕、ゴム持ってない……」
「……」
ひかりは少し間考えて、鞄からポーチを取り出した。
「文ちゃん、これ……」
小袋をそっと文太郎に差し出す。
それを受け取った文太郎から、何やら不穏な空気が立ちこみ始めた。
「……ひぃちゃん、押田さんとするためにこれ持ってたの?」
「……っ」
決してそういうわけではない。
社長の娘として、父からも順番は守ってほしいと常日頃から口酸っぱく言われていたのだ。結婚相手以外の男性と子を身篭らないように、常に気をつけていた。だから自分の身を守る意味で、ポーチの中に避妊具を入れて持ち歩いていたのだ。
けれど、これを文太郎に説明しても、言い訳がましくなってしまう。
どうしたものかと考えを巡らせていると、文太郎に抱きかかえられて布団の上に押し倒されていた。
「ひぃちゃん、男と身体を繋げたの?」
「あ、ぶんちゃん……」
文太郎の声がどんどん低くなる。
両手首を押さえられ、身動きが取れない。ひかりを見つめる文太郎の眼が、嫉妬に駆られてどす黒く染まっている。
(こんな文ちゃん、見たことない。文ちゃんはいつも穏やかに笑っていて、怒ったことなんて一度も見たことがない、のに……)
小さな恐怖心と大きな歓喜が混じって、心臓が早鐘を打つ。
「他の男なんて思い出せないくらい、僕で染めてあげる」
そう言って唇に噛みつかれた。
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