81 / 84
《65》とろける(2)
しおりを挟む
「俺と本当に結婚してもいいなら、サインして欲しい」
コト、と置かれたボールペンを躊躇なく掴む。
「はい。もちろんです」
どうして用意周到に婚姻届が用意してあるのかとか、離れていた期間の間の出来事とか、海外での生活はどうだったのかとか。
話したいことはたくさんあったが、それよりも大和との強固な結びつきが欲しくてペンを走らす。
鞄から印鑑を取り出し、朱肉をつけて印を押した。
「大和、私と結婚してください」
花が咲いたようにふわりと微笑む。
もう逃げない。もう迷わない。自信のなかったちっぽけな深谷瑛美はもういないのだ。
「躊躇わない、んだな」
「だって、ずっと大和のことだけを愛していました」
「一年も離れていたのに? 連絡すらせず、再会してほとんど会話もしていないのに? 俺が海外で最低な男になっていたらどうする?」
「どんな大和でも、愛せる自信があります」
そう答える瑛美は真っ直ぐ視線を向けて、くしゃりと破顔した。
「それに、それを言うならお互い様ですよ。私がとんでもない悪女になっていたらどうするつもりだったんですか?」
「んー。再指導かな」
「あははっ」
大和のスパルタ指導を思い出して、肩を揺らして笑う。この一年間がむしゃらになって頑張っていたけれど、大和ほど厳しい指導者はいなかった。
「瑛美は……俺がいない間、どうしてた?」
「ずっと大和のことを考えて、大和のことを想って……大和を追いかけてました」
「俺を追いかける?」
「大和の隣に立って、胸を張れる自分になりたくて」
「…………それで今は?」
黒瞳が揺れている。そんな大和の憂いを断ち切るように、堂々とはっきりと言葉を紡いだ。
「世界中のみんなに、大和は私のものだーって言いふらしたいです! どんな美女でも、ギネス記録を持つ人でも、ノーベル賞を受賞した人でも、負けない自信があります」
「ふっ、なんだそれ」
大和の表情が明るくなる。それを見ていると、大和が喜ぶ言葉をたくさん言いたくなる。
「大和のことを大好きな気持ちは誰にも負けませんし、誰であっても勝ちます!」
「すごい自信だな」
「大和を好きになって、こんなに変わりたいと思ったのは初めてでした。……私、大和じゃないと駄目、みたいです」
「もう俺から逃げるなよ。……というか逃さないけど。婚姻届は俺の手の中だからな。もう瑛美は実質俺の妻のようなものだ」
指を絡めて手を握る。
もう身も心も全て大和に差し出したい、そんな気持ちになる。
「大和に私のすべてを捧げます」
「うん。俺も瑛美にすべてを捧げるよ」
コト、と置かれたボールペンを躊躇なく掴む。
「はい。もちろんです」
どうして用意周到に婚姻届が用意してあるのかとか、離れていた期間の間の出来事とか、海外での生活はどうだったのかとか。
話したいことはたくさんあったが、それよりも大和との強固な結びつきが欲しくてペンを走らす。
鞄から印鑑を取り出し、朱肉をつけて印を押した。
「大和、私と結婚してください」
花が咲いたようにふわりと微笑む。
もう逃げない。もう迷わない。自信のなかったちっぽけな深谷瑛美はもういないのだ。
「躊躇わない、んだな」
「だって、ずっと大和のことだけを愛していました」
「一年も離れていたのに? 連絡すらせず、再会してほとんど会話もしていないのに? 俺が海外で最低な男になっていたらどうする?」
「どんな大和でも、愛せる自信があります」
そう答える瑛美は真っ直ぐ視線を向けて、くしゃりと破顔した。
「それに、それを言うならお互い様ですよ。私がとんでもない悪女になっていたらどうするつもりだったんですか?」
「んー。再指導かな」
「あははっ」
大和のスパルタ指導を思い出して、肩を揺らして笑う。この一年間がむしゃらになって頑張っていたけれど、大和ほど厳しい指導者はいなかった。
「瑛美は……俺がいない間、どうしてた?」
「ずっと大和のことを考えて、大和のことを想って……大和を追いかけてました」
「俺を追いかける?」
「大和の隣に立って、胸を張れる自分になりたくて」
「…………それで今は?」
黒瞳が揺れている。そんな大和の憂いを断ち切るように、堂々とはっきりと言葉を紡いだ。
「世界中のみんなに、大和は私のものだーって言いふらしたいです! どんな美女でも、ギネス記録を持つ人でも、ノーベル賞を受賞した人でも、負けない自信があります」
「ふっ、なんだそれ」
大和の表情が明るくなる。それを見ていると、大和が喜ぶ言葉をたくさん言いたくなる。
「大和のことを大好きな気持ちは誰にも負けませんし、誰であっても勝ちます!」
「すごい自信だな」
「大和を好きになって、こんなに変わりたいと思ったのは初めてでした。……私、大和じゃないと駄目、みたいです」
「もう俺から逃げるなよ。……というか逃さないけど。婚姻届は俺の手の中だからな。もう瑛美は実質俺の妻のようなものだ」
指を絡めて手を握る。
もう身も心も全て大和に差し出したい、そんな気持ちになる。
「大和に私のすべてを捧げます」
「うん。俺も瑛美にすべてを捧げるよ」
26
あなたにおすすめの小説
禁断溺愛
流月るる
恋愛
親同士の結婚により、中学三年生の時に湯浅製薬の御曹司・巧と義兄妹になった真尋。新しい家族と一緒に暮らし始めた彼女は、義兄から独占欲を滲ませた態度を取られるようになる。そんな義兄の様子に、真尋の心は揺れ続けて月日は流れ――真尋は、就職を区切りに彼への想いを断ち切るため、義父との養子縁組を解消し、ひっそりと実家を出た。しかし、ほどなくして海外赴任から戻った巧に、その事実を知られてしまう。当然のごとく義兄は大激怒で真尋のマンションに押しかけ、「赤の他人になったのなら、もう遠慮する必要はないな」と、甘く淫らに懐柔してきて……? 切なくて心が甘く疼く大人のエターナル・ラブ。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
15歳差の御曹司に甘やかされています〜助けたはずがなぜか溺愛対象に〜 【完結】
日下奈緒
恋愛
雨の日の交差点。
車に轢かれそうになったスーツ姿の男性を、とっさに庇った大学生のひより。
そのまま病院へ運ばれ、しばらくの入院生活に。
目を覚ました彼女のもとに毎日現れたのは、助けたあの男性――そして、大手企業の御曹司・一ノ瀬玲央だった。
「俺にできることがあるなら、なんでもする」
花や差し入れを持って通い詰める彼に、戸惑いながらも心が惹かれていくひより。
けれど、退院の日に告げられたのは、彼のひとことだった。
「君、大学生だったんだ。……困ったな」
15歳という年の差、立場の違い、過去の恋。
簡単に踏み出せない距離があるのに、気づけばお互いを想う気持ちは止められなくなっていた――
「それでも俺は、君が欲しい」
助けたはずの御曹司から、溺れるほどに甘やかされる毎日が始まる。
これは、15歳差から始まる、不器用でまっすぐな恋の物語。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」
母に紹介され、なにかの間違いだと思った。
だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。
それだけでもかなりな不安案件なのに。
私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。
「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」
なーんて義父になる人が言い出して。
結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。
前途多難な同居生活。
相変わらず専務はなに考えているかわからない。
……かと思えば。
「兄妹ならするだろ、これくらい」
当たり前のように落とされる、額へのキス。
いったい、どうなってんのー!?
三ツ森涼夏
24歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務
背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。
小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。
たまにその頑張りが空回りすることも?
恋愛、苦手というより、嫌い。
淋しい、をちゃんと言えずにきた人。
×
八雲仁
30歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』専務
背が高く、眼鏡のイケメン。
ただし、いつも無表情。
集中すると周りが見えなくなる。
そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。
小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。
ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!?
*****
千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』
*****
表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101
オオカミ課長は、部下のウサギちゃんを溺愛したくてたまらない
若松だんご
恋愛
――俺には、将来を誓った相手がいるんです。
お昼休み。通りがかった一階ロビーで繰り広げられてた修羅場。あ~課長だあ~、大変だな~、女性の方、とっても美人だな~、ぐらいで通り過ぎようと思ってたのに。
――この人です! この人と結婚を前提につき合ってるんです。
ほげええっ!?
ちょっ、ちょっと待ってください、課長!
あたしと課長って、ただの上司と部下ですよねっ!? いつから本人の了承もなく、そういう関係になったんですかっ!? あたし、おっそろしいオオカミ課長とそんな未来は予定しておりませんがっ!?
課長が、専務の令嬢とのおつき合いを断るネタにされてしまったあたし。それだけでも大変なのに、あたしの住むアパートの部屋が、上の住人の失態で水浸しになって引っ越しを余儀なくされて。
――俺のところに来い。
オオカミ課長に、強引に同居させられた。
――この方が、恋人らしいだろ。
うん。そうなんだけど。そうなんですけど。
気分は、オオカミの巣穴に連れ込まれたウサギ。
イケメンだけどおっかないオオカミ課長と、どんくさくって天然の部下ウサギ。
(仮)の恋人なのに、どうやらオオカミ課長は、ウサギをかまいたくてしかたないようで――???
すれ違いと勘違いと溺愛がすぎる二人の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる