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《2》魔力だけ
しおりを挟む額の石は魔力を交換することで色が変化する。魔力を交換する――つまり体液を交り合わせることで、その相性に応じて色が変わる。
成人を迎えた石持ちの貴族たちは定期的に開催される舞踏会――魔力交換相手を探す場で交流を深め、魔力を交換する。
魔力は交換の回数を重ねる度に淡く変色するわけではなく、相性の悪い相手だと濁ることもある。
したがって淡い色味の石持ちは、自分の石が濁らないように相手をよく吟味する傾向があった。女性の場合は特に高飛車な態度をとるケースも多い。
純白の宝石を持つニナメルは、ただ石が白いというだけで忌避されてしまうのだ。
「白石なんて少しでも濁ってしまったらと思うと……僕には恐れ多くて近づきたくありませんね」
「何度魔力交換したら白色になるのでしょう? 是非ともその秘訣をご教授願いたいね」
「まぁ、まるでパールのように艶やかな石をお持ちですこと。余程魔力交換がお好きなのね」
安全安心な領地でぬくぬくと育った無垢なニナメルにとって、舞踏会は戦場のようだった。
――領地ではなく王都ならたくさんの人がいるから、一人くらい石ではなく私自身を見てくれる人がいるかもしれないなんて…………期待した私が馬鹿だったわ。
そんな恋愛小説のヒーローのような男性なんているはずがない。
「白の宝石をお持ちのご令嬢の、腰砕けになる最上の手ほどきを是非お受けしたく存じます」
「私の石は白が混じる橙色です。貴女様もきっとご満足いただけます。是非私と一夜を共にしませんか?」
今日声をかけてきた貴族男性たちも、ニナメルの外面だけの経験豊富さを揶揄うものだったり、魔力を高めたいが為の下品な誘いばかりだ。
皆、ニナメル自身を欲しているわけではない。ニナメルを通して身体の奥底にある魔力を見ているだけだ。そのような下衆な人と魔力交換をする気は毛頭なかった。
ニナメルは少ない誘いを全て断り、ウェーブしたミルクティー色の髪を靡かせて人気の少ない庭園へと向かった。
国鳥である白鳥を模した石像から水が流れ、小川のように四方へ伸びている。
薔薇やライラック、カルミアなどの色鮮やかな花達が咲き乱れて、光に照らされていた。
流石王都で開催された舞踏会だけあって、洗練された神秘的な庭園だった。
「きれい……」
そこは曇った気分も思わず晴れやかになる程の美しさだった。
舞踏会は散々だったけれど、この幻想的な庭園を見れただけでもわざわざ王都まで来た甲斐があった。そう思うことにしよう。
五角形の花を咲かせた薄紅色のカルミアの花を指で愛でる。
「花の色に優劣は無いもの……あなたが羨ましいわ」
無意味に花に話しかけてしまうほど、ニナメルの心は疲弊していたのかもしれない。
会場に戻る気力を失っているニナメルは、宿泊先のホテルからの迎えが来るまで庭園で時間を潰すことにした。
会場から漏れるワルツの音楽が聴こえる。
空を見上げると領地よりも少ないが所々に星が瞬いていた。月がないせいか、今夜はいつもよりもの寂しさを感じる。
心を求めるのなら、石持ち貴族との婚姻は難しいかもしれない。石持ちは同士での婚姻が推奨されているが、決して禁止されているわけではない。伯爵家の繁栄のためにとできれば石持ち貴族を結婚相手にと思っていたが、心を廃するくらいならば石を持たない者と結婚するほうが良い。ニナメルに甘い両親なら、きっと否定することなく頷いてくれるはず。
物思いに耽けながら上を見上げていると、視界の端で会場とは対面にある屋敷のバルコニーから影が落ちたのが見えた。
「え、なに……?」
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