親友令嬢が婚約破棄されたので、隣国の使者ですが貰っても宜しいですよね?

あらわ 宵

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16(side フィーリア)

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「貴方は私に用があるのでしょう? ああ、大丈夫ですわ。万が一にフィーリアに危害を加えるようなら……黙って無いでしょうから」


 そう言うとバルコニーへと移動してしまった。フェラン皇子は素早く反応してベアトリス様をエスコートしていた。
 従者の立ち位置はどちらに何があっても双方で動けるような中間地点だ。ベアトリス様付きの優秀なエクラだからこそ為せる該当げいとうと考えに至る。

 そして、そのまま残っているカエルム王太子は侍従にお茶のおかわりを指示し、静観並びに監視のの意を示すようで、そういう事かと納得するようにヴァルル王子を見た。元より彼に私を害する余力など無いように感じた。
 暫しの沈黙の後に、私から話そうかと思い始めた頃、今まで黙っていたヴァルル王子は急に立ち上がると深くお辞儀をした。


「本当に申し訳無かった、君の事も国の事も何もかも後先考えずに、己の気持ちを優先し、君は忠告を最後までしてくれたにも関わらず慮れなかった事を、君を不名誉な事で傷を付けてしまった事、本当にすまなかった……!」


 深々と頭を下げるヴァルル王子に少々面食らって驚く。ああ、そうだ、元々彼はそういう人だった。国の頂点に立つ以前に大切な事を理解している人だった。ただ、頂点に立つには少し寛容過ぎた。

 だから政略結婚だろうとなんだろうと幼い頃から親しい間柄だったからこそ、足りない物は補えば良い、支えられるように隣に立てるようにしようと、そう思える人だった。


「……どうして、こうなったかわかっていらっしゃいますか?」

「……ああ、私は人の意見に左右され過ぎていた。自信が無かった。君が評価されるのが羨ましかった。君は完璧に何もかもをこなしてしまう、学園に入ってからそれが対外的にもはっきりわかるようになった。ただ、私は認められたかった。だから彼等や彼女が私の事を常に肯定してくれるのが、嬉しかった……君はずっとその間も私の見落としをも補っていたのに……でも、君なら婚約が白紙になっても一人で大丈夫だと思ってしまった」


 バルコニーへの扉は半分開いており、何やらフェラン皇子がベアトリス様と楽しそうに話しているのが見えた。風が微かに髪を揺らす。
 意外だったヴァルル王子が、学園で行っていた物の……簡単に言うと尻拭いをしていた事に気付いた事。でも、それは私一人で補った事では無い。適材適所を促して行っただけで。ヴァルル王子の言葉はきっと最もで、だけど少し間違っている。


「ご存知だったんですね。でも、ヴァルル王子、私は何でも完璧には出来ませんよ。実際に、不器用ですから淑女の嗜みである刺繍は全く出来ませんし、覚えておりますか? 貴方の誕生日にお渡ししたハンカチですが、あれは本当は王国の紋章である狼でした。でも、殿下は『熊さん可愛い』と賞賛されました。更に私はダンスも苦手です。リズムが取れませんわ。一曲しか舞踏会で踊らないのはその為です。何度頑張っても苦手な物は苦手です。でも、その程度なら上手く隠せます」

「それは……気付かなかった。君は本当に凄いね」


 気を落とし、未だに顔を上げないヴァルル王子。だけど、もう気遣う必要は無いとさえ思う。薄情だとは思うが、少なくともあの時、私は確かに苦痛を味わった。だから全部思いの丈は言ってしまいたいし、今なら言っても良いようだし。


「ヴァルル王子は正直で優し過ぎるんです。勿論、それは美徳でもあります。でも、だからこそ漬け込まれました。一度は国の頂点に立とうとした方です。今後は肝に銘じて下さい。ですが……そんなヴァルル王子だからこそ私は一緒に添い遂げようと思っていました」


 ばっと顔を上げるヴァルル王子。私達は互いに歩み寄る事が出来なかった。ただそれだけなんだと思う。まあ、先に閉ざしたのはあちらですけど。


「フィーリア……」

「今までありがとうございました。これで、私達の関係も終わりました。心置き無く、領地経営に勤しめます。今から凄く楽しみなんですよ。流石、ベアトリス様! 腫れ物令嬢ですが、帝国はそんな私をも引き入れて下さる寛大さを持ち合わせておられます。ああ、元婚約者のよしみですから基盤を確り築いた暁には領地にご招待致しますね!!」


 しかし、もう全て終わった事だ。これ以上、何を言う事も無いし、諭したりする事も必要無い。彼が何を決意して、今後どう動くか何てどうでもいい。

 いや、どうでもいい訳では無いのだけど、もう王族にそこまで関わらなくて良いのだ。私はこれから帝国民として臣下になるのだから。


「……ヴァルル兄様」

「……すまない、役不足だな」

「いえ、大丈夫です。自力でいきます」


 二人が何やら耳打ちしているが、あまり気にする事もなく、カップを持ち新しく入れてもらったが少し冷めてしまった紅茶を一口飲んで、喉を潤した。

 ふと、窓の外を見るとフェラン皇子がベアトリス様の両手をとって向かい合っていた。次に瞬きした時には二人が一瞬にして消えた。
 えっ? と驚くもエクラも動揺してこちらとバルコニーを交互に見ている。
 しかし、ものの数秒、瞬き数度かの内に直ぐにまた二人はバルコニーに現れた。
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