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地球滅亡予定日まで 残り6日
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由利と完全に二人きりの生活となり、甘い関係を味わってはいるのだが、
行く宛もないので完全に避難民だよな……。
ボロボロの毛布みたいなものを昨日貰ったが、2人で寝るにしろかなり寒い。
最近は寒さも厳しくなり朝晩は非常に冷え込む。隕石衝突予定日を前に凍死しかねない状況だ……。
「失礼だけど、君たちご両親は?」
そう言って寒さに打ち震える僕たちに声をかけてきた25歳ぐらいのスラッとした体形の女性だった。
このご時世では考えられないぐらい、化粧もきちんとできており、アイロンがかけられているかのような服装をしている。
煤けて(すすけて)ボロボロな僕たちとは対照的だった。
「いえ、僕たち2人だけです。僕たちの両親はここ最近の火事で亡くなりまして家も無い状態です」
それぞれ両親は全く違った死を遂げたのだが、本当のことは分からないだろうから便宜上の嘘を吐いた。
「それは失礼なことを聞いてしまったわね……。本当にごめんなさい」
声をかけてきた女性は口元に手を当てて、その後深々と頭を下げてきた。
「大丈夫です。気持ちの整理、ついてきましたから……」
本当を言うと全くついていなかった。どちらかと言うとこの20日ばかりは悪い夢の中にずっといるような気分だ。
夢であって欲しいけど覚めてくれないまま毎日を必死に生きている感じなのだ……。
由利が現世と僕を繋ぐ最後の頼みの綱ともいえるのだ。
「君たちは行く宛があるの?」
「親戚も九州にいるので距離としては頼れません。友達も連絡が取れないし、どうしているのか……」
由利も小さく頷いて僕に同意した。
テロリストが学校に襲撃した後に生き残ったクラスメイトも今はどうしているのか分からない……。1人でも多く生き残っていて欲しいけど……。
「そうなの……まだ高校生ぐらいでしょ? 大変だね。良ければどうかな? ここだけの話なんだけど、君たちのような不幸な子供たちを集めているんだ」
「え? どういうことですか?」
「私たちは慈善活動をしていてね。恵まれない家の無い子供たちを支援しているんだ。
そこでは君たちのような子たちが仲良く暮らしているの。
ここよりもずっと暖かくて、ご飯も毎食提供されるわ」
そんなうまい話があるのか? と思ったが、正直火事で家が焼けて寒さで打ち震えている極限の状況だ。試しに行ってみるだけの価値はあるような気がした。
「何か怪しいような気もするけど、由利はどうしたい?」
僕は小声で由利に聞いてみた。
「寒さがしのげるなら、ちょっとぐらい良いかな……」
由利は朝の寒い時間なんて唇が紫色になっているぐらいだ。
“大丈夫だよ”と由利は言っているが限界が近いと思う。
このままでは隕石の衝突予定日の前に、栄養失調による餓死が先か? 氷点下で凍死が先か? というマッチレース状態だからな……。
「分かりました。お願いします」
女性はニッコリと笑った。
「良かったわ。私は柏瀬綾子。よろしくね。ささ、こっちよ」
木の周りでうずくまったり、寒さで震えて完封摩擦をひたすら続けている人たちに対して少し申し訳なさを感じつつ北公園を離れた。
◇
「さぁここよ」
柏瀬さんに連れられて北公園から30分ぐらい歩くと“空木”と言う表札の前に立った――が、信じられないぐらいの大邸宅だ。
このあたりは高級住宅街で僕たちの家から近いとはいえほとんど立ち入ったことが無かったがこうなっていたとは……。
しかし、この空木邸以外は何やら人の気配がしない……。
中には廃墟のようになってしまったところも存在している。
「空木さんのお宅以外はどうしちゃったんですか?」
門をくぐって広い庭を歩いている間に柏瀬さんに聞いた。
「略奪に遭ったのよ。警察が取り締まってくれなくなってから、各地からこの一帯に殺到してきてね。警備会社の人もあまりの件数の前に対処しきれなくなったのよ。
だからたとえ高級住宅街であってもその例外では無いという事ね」
地球に隕石が衝突予定日になる前に人間社会が崩壊しそうだ……。
例え隕石が逸れたとしても社会的復興はかなり時間がかかりそうに思えた……。
「逆にこのお宅はどうして大丈夫なんですか?」
「最新の警備システムを搭載しているのよ。IDを持っている人間以外は外から入ることが出来ないし、仮に許可が無い人が入ってきた場合は私設の警備の人たちが殺到してくるわ。
今のあなたたちは私が許可しているから大丈夫なのよ」
「そうだったんですか……」
「うわぁ! 暖かーい! 生き返る~!」
邸宅の中に入ると由利の眼が言葉通り生き返った。
こんなにも暖房の入った部屋にいるのはかなり久しぶりのような気がした。
特に手足の先に血が通い出したような気がした。
僕たちがいかに文明の利器に頼り切っていたかがよく分かった。
柏瀬さんは、ソーラーパネルや風力発電などで発電しているらしく、この電気が通っていない状況下でも夜であっても燦燦(さんさん)と輝いているのだ――と自分のことのように自慢気に話していた。
家の周りには電子鉄線もある。暴徒が蛾のように光に誘われて集まってきても撃退することが出来るのだという。
この1週間で50人も撃退したらしい……。
こんなところに僕たちが入れるのは夢のような話だった。
「とにかくお腹が減ったと思うのよ。まずはご飯にしましょう」
「はいっ!」
大きな大食堂には驚いたことに僕たちと同じような年頃の少年少女たちが20人ほどいた。
バイキング形式になっており和風、洋風、中華、どこの国か分からないものまで選り取り見取りの食べ物が取り揃えられていた。
「好きなだけ食べて良いのよ。食べ終わったら部屋まで案内するわ」
「やった!」
僕達はトレイをもってダンスするようにバイキングのメニューを見ていった。
恐らくはどこかにか貯蔵してある品なのだろう。少し鮮度が低い魚や変わった味の肉などもあったが、基本的にはとんでもなく美味しく感じた。
「どうかしら?」
僕達が貪るように食べているのを見ると柏瀬さんがスタスタとやってきた。
「こんな料理を味わったのは人生で初めてじゃないかって思います。
少なくともこの半月はまともにご飯を食べることが出来なかったのでとっても嬉しいです!」
「だからってそんなにがっつかないの! だらしない!」
あっ! と思って頬についているお弁当(米粒)を取った。
しかし、由利もそうは言うが口の端にケチャップが付いてるぞ……。
指摘して良いものか迷っていると僕の視線に気が付いてか、赤面しながらナプキンで拭っていた……。
「クリスマスケーキの残りだけど食べるかしら? このままだと捨てるしかなかったから」
「あ、ありがとうございます」
薄いケーキと小さいイチゴではあったが、まさかクリスマスケーキまで食べられるとは思わなかった。
というか、昨日がクリスマスだったという事を今知った。それぐらい悪夢のようなクリスマスを過ごしていたのだ……。
キリストの誕生日の蝋燭の火は家に点いてしまったというぐらいに思えたほどだ……。
「あー、こんなにお腹いっぱいになるまで食べられるだなんて思わなかった~。
ここにずっといたら丸々と太っちゃいそう~」
「由利は多少太っても問題ない気が……」
「……それって胸が無いって言いたいわけ? 体重が戻っても意味が無いって?」
「あ、いや……そんなつもりでは……。痩せ過ぎで体調が悪そうだから気を遣っただけで……」
あたふたと言い訳をして何とか凌ぐ……。どれだけそこに敏感なんだよ…:…。
ただ、由利は12月になる前と比べて10キロ以上痩せていそうだから、それぐらいまで戻しても何ら問題は無い気がする。むしろ今は心配になるぐらいガリガリだからな……。
でも、プリプリと怒るぐらい回復してきたのは良い兆候だ。妙に優しかったり静かだったりするのは逆に僕の精神にダメージを与えてくる……。
「これから施設見学していく? それとももう休む?」
柏瀬さんは僕たちが食べ終わるのを見計らってまた声をかけてきた。
「見学していきたいです」
さっきまであれだけ無気力で動けない感じだったのに、食べて体に力が湧いてきた感じだ。
この大邸宅は豪華な見た目の外観は「一部分にすぎない」という事が分かった。
なんと、地下の施設の方が圧倒的に広く様々なコンテンツが取り揃えられているみたいだ。
今日はもう閉まるようだが、案内図を見ると体育館みたいな場所もあり、ちょっとしたアクティビティも楽しめるようだ。
更には食料の生産工場もあり、どうやらここを案内してくれるようだった。
小学校の時に工場見学したようなスチールのラインにロボットがせわしなく動いて次々と業務をこなしていた……。
「ここでは、太陽の光を浴びなくても食料を生産することが可能なのよ。
肉や魚だって作れるんだから――合成肉だから人工的な味わいになってしまうけどね」
製造過程をつぶさに見ていると、粉みたいなものが混ざり合い、ドンドンと肉みたいなものに形作られていく――。
お金と言うのは文字通り“パワー“なのだろう。こうした有事に備える機器を揃えることも、食料を大量生産することも可能になるのだ。
僕たちは幸運にもそのお零れ(おこぼれ)に預かることができるのだ。
「寒さに震えながら缶詰を分け合っていたことを思えば、信じられない待遇です。
本当に感動しました」
確かにちょっと味はヘンにも思えたのだが、そんな贅沢も言っていられない。
今はあらゆる物資が足りない状況なのだ。
特に食料と水と暖房機能は喉から手が出るほど誰もが欲しいはずだ。
「この施設は太陽光発電だけでなく、雨水を循環させその力で小さな水力発電も行っているの。だから暖房も使い放題よ」
「餓死か凍死を待っていた感じだったので本当に夢のような空間ですね……。実はここは天国とか?」
由利は信じられないと言った感じだ。
「かといって僕の頬っぺた引っ張るな。痛いだろ……」
突然僕の頬っぺたを思いっきり引っ張ってきた。
「えへへ。あたしが痛いのは嫌じゃん」
いたずらっ子の由利が戻ってきた。犠牲者筆頭が僕なのだからちょっと勘弁して欲しいけど……。
弱り切っていたことを考えれば嬉しい悲鳴とも言えるけどね……。
逆を言えば栄養失調と言うのはその人のキャラクター性すらも失わせてしまうのだろう……。
「仲が良いのね~。ちなみに隕石が衝突する日には地下に逃げておけば大丈夫よ。
有事に備えて地下部分は核兵器すら耐えることができるようになっているからね。
きっと生き延びることが出来ると思うわ」
「そう言った備えまでしているのは凄いですね……。そして、その日が本当に来ようとしているんだから……」
「空木さんはその代わりかなり変わった方だけどね……」
柏瀬さんの眼から光が消えた。その意味深な発言は何となく分かりたくないような気がした……。
それでも、その日は久しぶりにベッドの上でぐっすり眠ることが出来た。
自宅があった時代にも、どこか深い眠りに付けないそんな日々が続いたから……。
行く宛もないので完全に避難民だよな……。
ボロボロの毛布みたいなものを昨日貰ったが、2人で寝るにしろかなり寒い。
最近は寒さも厳しくなり朝晩は非常に冷え込む。隕石衝突予定日を前に凍死しかねない状況だ……。
「失礼だけど、君たちご両親は?」
そう言って寒さに打ち震える僕たちに声をかけてきた25歳ぐらいのスラッとした体形の女性だった。
このご時世では考えられないぐらい、化粧もきちんとできており、アイロンがかけられているかのような服装をしている。
煤けて(すすけて)ボロボロな僕たちとは対照的だった。
「いえ、僕たち2人だけです。僕たちの両親はここ最近の火事で亡くなりまして家も無い状態です」
それぞれ両親は全く違った死を遂げたのだが、本当のことは分からないだろうから便宜上の嘘を吐いた。
「それは失礼なことを聞いてしまったわね……。本当にごめんなさい」
声をかけてきた女性は口元に手を当てて、その後深々と頭を下げてきた。
「大丈夫です。気持ちの整理、ついてきましたから……」
本当を言うと全くついていなかった。どちらかと言うとこの20日ばかりは悪い夢の中にずっといるような気分だ。
夢であって欲しいけど覚めてくれないまま毎日を必死に生きている感じなのだ……。
由利が現世と僕を繋ぐ最後の頼みの綱ともいえるのだ。
「君たちは行く宛があるの?」
「親戚も九州にいるので距離としては頼れません。友達も連絡が取れないし、どうしているのか……」
由利も小さく頷いて僕に同意した。
テロリストが学校に襲撃した後に生き残ったクラスメイトも今はどうしているのか分からない……。1人でも多く生き残っていて欲しいけど……。
「そうなの……まだ高校生ぐらいでしょ? 大変だね。良ければどうかな? ここだけの話なんだけど、君たちのような不幸な子供たちを集めているんだ」
「え? どういうことですか?」
「私たちは慈善活動をしていてね。恵まれない家の無い子供たちを支援しているんだ。
そこでは君たちのような子たちが仲良く暮らしているの。
ここよりもずっと暖かくて、ご飯も毎食提供されるわ」
そんなうまい話があるのか? と思ったが、正直火事で家が焼けて寒さで打ち震えている極限の状況だ。試しに行ってみるだけの価値はあるような気がした。
「何か怪しいような気もするけど、由利はどうしたい?」
僕は小声で由利に聞いてみた。
「寒さがしのげるなら、ちょっとぐらい良いかな……」
由利は朝の寒い時間なんて唇が紫色になっているぐらいだ。
“大丈夫だよ”と由利は言っているが限界が近いと思う。
このままでは隕石の衝突予定日の前に、栄養失調による餓死が先か? 氷点下で凍死が先か? というマッチレース状態だからな……。
「分かりました。お願いします」
女性はニッコリと笑った。
「良かったわ。私は柏瀬綾子。よろしくね。ささ、こっちよ」
木の周りでうずくまったり、寒さで震えて完封摩擦をひたすら続けている人たちに対して少し申し訳なさを感じつつ北公園を離れた。
◇
「さぁここよ」
柏瀬さんに連れられて北公園から30分ぐらい歩くと“空木”と言う表札の前に立った――が、信じられないぐらいの大邸宅だ。
このあたりは高級住宅街で僕たちの家から近いとはいえほとんど立ち入ったことが無かったがこうなっていたとは……。
しかし、この空木邸以外は何やら人の気配がしない……。
中には廃墟のようになってしまったところも存在している。
「空木さんのお宅以外はどうしちゃったんですか?」
門をくぐって広い庭を歩いている間に柏瀬さんに聞いた。
「略奪に遭ったのよ。警察が取り締まってくれなくなってから、各地からこの一帯に殺到してきてね。警備会社の人もあまりの件数の前に対処しきれなくなったのよ。
だからたとえ高級住宅街であってもその例外では無いという事ね」
地球に隕石が衝突予定日になる前に人間社会が崩壊しそうだ……。
例え隕石が逸れたとしても社会的復興はかなり時間がかかりそうに思えた……。
「逆にこのお宅はどうして大丈夫なんですか?」
「最新の警備システムを搭載しているのよ。IDを持っている人間以外は外から入ることが出来ないし、仮に許可が無い人が入ってきた場合は私設の警備の人たちが殺到してくるわ。
今のあなたたちは私が許可しているから大丈夫なのよ」
「そうだったんですか……」
「うわぁ! 暖かーい! 生き返る~!」
邸宅の中に入ると由利の眼が言葉通り生き返った。
こんなにも暖房の入った部屋にいるのはかなり久しぶりのような気がした。
特に手足の先に血が通い出したような気がした。
僕たちがいかに文明の利器に頼り切っていたかがよく分かった。
柏瀬さんは、ソーラーパネルや風力発電などで発電しているらしく、この電気が通っていない状況下でも夜であっても燦燦(さんさん)と輝いているのだ――と自分のことのように自慢気に話していた。
家の周りには電子鉄線もある。暴徒が蛾のように光に誘われて集まってきても撃退することが出来るのだという。
この1週間で50人も撃退したらしい……。
こんなところに僕たちが入れるのは夢のような話だった。
「とにかくお腹が減ったと思うのよ。まずはご飯にしましょう」
「はいっ!」
大きな大食堂には驚いたことに僕たちと同じような年頃の少年少女たちが20人ほどいた。
バイキング形式になっており和風、洋風、中華、どこの国か分からないものまで選り取り見取りの食べ物が取り揃えられていた。
「好きなだけ食べて良いのよ。食べ終わったら部屋まで案内するわ」
「やった!」
僕達はトレイをもってダンスするようにバイキングのメニューを見ていった。
恐らくはどこかにか貯蔵してある品なのだろう。少し鮮度が低い魚や変わった味の肉などもあったが、基本的にはとんでもなく美味しく感じた。
「どうかしら?」
僕達が貪るように食べているのを見ると柏瀬さんがスタスタとやってきた。
「こんな料理を味わったのは人生で初めてじゃないかって思います。
少なくともこの半月はまともにご飯を食べることが出来なかったのでとっても嬉しいです!」
「だからってそんなにがっつかないの! だらしない!」
あっ! と思って頬についているお弁当(米粒)を取った。
しかし、由利もそうは言うが口の端にケチャップが付いてるぞ……。
指摘して良いものか迷っていると僕の視線に気が付いてか、赤面しながらナプキンで拭っていた……。
「クリスマスケーキの残りだけど食べるかしら? このままだと捨てるしかなかったから」
「あ、ありがとうございます」
薄いケーキと小さいイチゴではあったが、まさかクリスマスケーキまで食べられるとは思わなかった。
というか、昨日がクリスマスだったという事を今知った。それぐらい悪夢のようなクリスマスを過ごしていたのだ……。
キリストの誕生日の蝋燭の火は家に点いてしまったというぐらいに思えたほどだ……。
「あー、こんなにお腹いっぱいになるまで食べられるだなんて思わなかった~。
ここにずっといたら丸々と太っちゃいそう~」
「由利は多少太っても問題ない気が……」
「……それって胸が無いって言いたいわけ? 体重が戻っても意味が無いって?」
「あ、いや……そんなつもりでは……。痩せ過ぎで体調が悪そうだから気を遣っただけで……」
あたふたと言い訳をして何とか凌ぐ……。どれだけそこに敏感なんだよ…:…。
ただ、由利は12月になる前と比べて10キロ以上痩せていそうだから、それぐらいまで戻しても何ら問題は無い気がする。むしろ今は心配になるぐらいガリガリだからな……。
でも、プリプリと怒るぐらい回復してきたのは良い兆候だ。妙に優しかったり静かだったりするのは逆に僕の精神にダメージを与えてくる……。
「これから施設見学していく? それとももう休む?」
柏瀬さんは僕たちが食べ終わるのを見計らってまた声をかけてきた。
「見学していきたいです」
さっきまであれだけ無気力で動けない感じだったのに、食べて体に力が湧いてきた感じだ。
この大邸宅は豪華な見た目の外観は「一部分にすぎない」という事が分かった。
なんと、地下の施設の方が圧倒的に広く様々なコンテンツが取り揃えられているみたいだ。
今日はもう閉まるようだが、案内図を見ると体育館みたいな場所もあり、ちょっとしたアクティビティも楽しめるようだ。
更には食料の生産工場もあり、どうやらここを案内してくれるようだった。
小学校の時に工場見学したようなスチールのラインにロボットがせわしなく動いて次々と業務をこなしていた……。
「ここでは、太陽の光を浴びなくても食料を生産することが可能なのよ。
肉や魚だって作れるんだから――合成肉だから人工的な味わいになってしまうけどね」
製造過程をつぶさに見ていると、粉みたいなものが混ざり合い、ドンドンと肉みたいなものに形作られていく――。
お金と言うのは文字通り“パワー“なのだろう。こうした有事に備える機器を揃えることも、食料を大量生産することも可能になるのだ。
僕たちは幸運にもそのお零れ(おこぼれ)に預かることができるのだ。
「寒さに震えながら缶詰を分け合っていたことを思えば、信じられない待遇です。
本当に感動しました」
確かにちょっと味はヘンにも思えたのだが、そんな贅沢も言っていられない。
今はあらゆる物資が足りない状況なのだ。
特に食料と水と暖房機能は喉から手が出るほど誰もが欲しいはずだ。
「この施設は太陽光発電だけでなく、雨水を循環させその力で小さな水力発電も行っているの。だから暖房も使い放題よ」
「餓死か凍死を待っていた感じだったので本当に夢のような空間ですね……。実はここは天国とか?」
由利は信じられないと言った感じだ。
「かといって僕の頬っぺた引っ張るな。痛いだろ……」
突然僕の頬っぺたを思いっきり引っ張ってきた。
「えへへ。あたしが痛いのは嫌じゃん」
いたずらっ子の由利が戻ってきた。犠牲者筆頭が僕なのだからちょっと勘弁して欲しいけど……。
弱り切っていたことを考えれば嬉しい悲鳴とも言えるけどね……。
逆を言えば栄養失調と言うのはその人のキャラクター性すらも失わせてしまうのだろう……。
「仲が良いのね~。ちなみに隕石が衝突する日には地下に逃げておけば大丈夫よ。
有事に備えて地下部分は核兵器すら耐えることができるようになっているからね。
きっと生き延びることが出来ると思うわ」
「そう言った備えまでしているのは凄いですね……。そして、その日が本当に来ようとしているんだから……」
「空木さんはその代わりかなり変わった方だけどね……」
柏瀬さんの眼から光が消えた。その意味深な発言は何となく分かりたくないような気がした……。
それでも、その日は久しぶりにベッドの上でぐっすり眠ることが出来た。
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