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翌日の早朝、ラタは宿を後にした。続いてエオルが荷物を纏め、昼頃、宿を出た。
観光場所も土産屋もない地だ。暇潰しはないが、エオルは敢えて出国を遅らせる。
結局、夜中になるまで町をうろついた。無論、目的があっての行動だが。
「エオル、待ってた」
二度目になる路地裏に、レッタはいた。堂々と月明かりの元に立っている。その顔は少し強張っていたが。
「その感じだと付いてくる気になったみたいだな」
「ここにいても結局一緒だからな」
「じゃあ行くか」
差し出したエオルの手に、レッタの手が重なる。ダンスでも始めるかのように、二人は歩き出した。確りと地を踏みしめ、足跡を残しながら。
「いつも思ってたけど、なんでわざわざ目立つとこに足跡残すんだ?」
無人の道を歩きながら、レッタが言う。ラタとの会話が浮かび、軽く思い出し笑いしてしまった。
「君みたいな子が増えないようにさ。誘拐犯を恐れて子を捨てる親が減るようにってな。まぁ変化はないようだが」
こんな目的を持って地を踏み締めていたなどと、ラタが聞いたら納得しただろうか。なんて、どうでも良いことだが。
噂のポイントまで赴くと、馬に乗って仲間がやってきた。彼らは山内で生活しており、行動の手助けをしてくれる。人々は山賊だと思っているらしいが、悪の要素一つない心優しい人たちだ。
馬に同乗しながら、薄暗い山道を移動する。それから町に降り仲間と別れた。また二人で、目的地を目指し歩き出す。
「なぁ、クロオニの正体ってエオルなの?」
繋がったままの手が、少し強張っている。一応全て説明はしたが、まだ信じられないのかもしれない。
この都市から出て、私と家族にならないか――その言葉に嘘の可能性を抱いた上、着いてきているのかもしれない。
「少し違うが間違いではないな。俺は後継者みたいなもんだ。俺の他に何人も仲間がいる」
「じゃあ行った先に本物のクロオニがいるってこと?」
「いや、いない。この活動を始めた張本人はもうこの世にいないからな」
初めて山道を抜けた日を、エオルは思い出す。都市で息絶えるはずだったエオルを救ったのは、恐れられていたクロオニだった。
クロオニは不幸な子どもを救っている。その事実を知るのは、連れてこられた子どもだけだ。その中には、エオルや山の仲間も含まれている。
「着いた」
立ち止まる二人の前、ぽつりと古家が立っている。だが、見映えとは裏腹に、中からは楽しげな笑声が溢れていた。
想像と違っていたのか、レッタはぽかんとしている。やはり、騙されて売られる覚悟もあったのだろう。
「そうだレッタ。家族になる前に約束して欲しいことがあるんだ」
条件を前にレッタの肩が跳ねる。育ちゆえ、過酷な何かを想像してしまうのはエオルにも分かった。
ゆえに、敢えて優しい冒頭を用意する。それから、背丈も合わせて語りかけた。
「大丈夫、決して怖いことじゃない。この先、君はここで大人になって、いつかはどこかへ旅立つだろう。そうなった時、一切口にしないと約束してくれ。君の生い立ちを。そしてクロオニの全てを。守れるかい?」
エオルが頭を撫でると、レッタは照れ気味に頷く。その瞳に、ようやく安堵が浮かんだ。
「守れる。一生言わないって約束する。そうしなきゃ、私のような悲しい子が増えちゃうもんな……」
「その通りだ、レッタは賢いな。じゃあ、家に入ろうか」
明日にはきっとまた、都市は騒がしく事件について触れ回るだろう。子どもが一人、クロオニに拐われた――と。
観光場所も土産屋もない地だ。暇潰しはないが、エオルは敢えて出国を遅らせる。
結局、夜中になるまで町をうろついた。無論、目的があっての行動だが。
「エオル、待ってた」
二度目になる路地裏に、レッタはいた。堂々と月明かりの元に立っている。その顔は少し強張っていたが。
「その感じだと付いてくる気になったみたいだな」
「ここにいても結局一緒だからな」
「じゃあ行くか」
差し出したエオルの手に、レッタの手が重なる。ダンスでも始めるかのように、二人は歩き出した。確りと地を踏みしめ、足跡を残しながら。
「いつも思ってたけど、なんでわざわざ目立つとこに足跡残すんだ?」
無人の道を歩きながら、レッタが言う。ラタとの会話が浮かび、軽く思い出し笑いしてしまった。
「君みたいな子が増えないようにさ。誘拐犯を恐れて子を捨てる親が減るようにってな。まぁ変化はないようだが」
こんな目的を持って地を踏み締めていたなどと、ラタが聞いたら納得しただろうか。なんて、どうでも良いことだが。
噂のポイントまで赴くと、馬に乗って仲間がやってきた。彼らは山内で生活しており、行動の手助けをしてくれる。人々は山賊だと思っているらしいが、悪の要素一つない心優しい人たちだ。
馬に同乗しながら、薄暗い山道を移動する。それから町に降り仲間と別れた。また二人で、目的地を目指し歩き出す。
「なぁ、クロオニの正体ってエオルなの?」
繋がったままの手が、少し強張っている。一応全て説明はしたが、まだ信じられないのかもしれない。
この都市から出て、私と家族にならないか――その言葉に嘘の可能性を抱いた上、着いてきているのかもしれない。
「少し違うが間違いではないな。俺は後継者みたいなもんだ。俺の他に何人も仲間がいる」
「じゃあ行った先に本物のクロオニがいるってこと?」
「いや、いない。この活動を始めた張本人はもうこの世にいないからな」
初めて山道を抜けた日を、エオルは思い出す。都市で息絶えるはずだったエオルを救ったのは、恐れられていたクロオニだった。
クロオニは不幸な子どもを救っている。その事実を知るのは、連れてこられた子どもだけだ。その中には、エオルや山の仲間も含まれている。
「着いた」
立ち止まる二人の前、ぽつりと古家が立っている。だが、見映えとは裏腹に、中からは楽しげな笑声が溢れていた。
想像と違っていたのか、レッタはぽかんとしている。やはり、騙されて売られる覚悟もあったのだろう。
「そうだレッタ。家族になる前に約束して欲しいことがあるんだ」
条件を前にレッタの肩が跳ねる。育ちゆえ、過酷な何かを想像してしまうのはエオルにも分かった。
ゆえに、敢えて優しい冒頭を用意する。それから、背丈も合わせて語りかけた。
「大丈夫、決して怖いことじゃない。この先、君はここで大人になって、いつかはどこかへ旅立つだろう。そうなった時、一切口にしないと約束してくれ。君の生い立ちを。そしてクロオニの全てを。守れるかい?」
エオルが頭を撫でると、レッタは照れ気味に頷く。その瞳に、ようやく安堵が浮かんだ。
「守れる。一生言わないって約束する。そうしなきゃ、私のような悲しい子が増えちゃうもんな……」
「その通りだ、レッタは賢いな。じゃあ、家に入ろうか」
明日にはきっとまた、都市は騒がしく事件について触れ回るだろう。子どもが一人、クロオニに拐われた――と。
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