ぼくのおとうと

有箱

文字の大きさ
4 / 4

ぼくのおとうと

しおりを挟む
 あの後、僕はニナさんの家に引き取られた。養子にしてもらったのだ。
 温かな家庭に身を置き、やっと小母が可笑しかった事に気付いた。

 後で聞いた話、ニナさんとキイくんは、長い間、僕を助ける為に動いてくれていたそうだ。
 そうして、無事命を繋いだ僕は、大学生になった。

「お母さん、ただいま」

 学校から帰宅し、玄関から挨拶する。最初はぎこちなかったこの挨拶も、今や慣れたものだ。

「ヨウくん、おかえり。学校どう?」
「楽しいよ! 機械学は奥が深い……!」
「そう、楽しいなら良かった。お菓子持っていくから二階に上がってて」

 今は大学で機械工学を専攻し、学習している。どれもこれも、全てはあの日に決めた。

「うん、ありがとー」

 二階に上がり、いつもの様に扉を引く。すると、幼い少年が飛びついてきた。

「ユウくん、ただいま。良い子にしてた?」
「してたー! 良い子ってして!」

 ニコニコと笑うこの少年は、僕の弟だ。血の繋がりはないものの、大切な弟である。

 頭を優しく撫でると、ユウくんは満足気にはにかんだ。その笑顔のまま、室内に戻っていく。
 そうして、いつもの場所に座った。

「キイくん、ヨウくん帰ってきたよ」

 それは、キイくんの横だった。壁に凭れ掛かり、目も開かない、あの日のままのキイくんだ。

「キイくん、ただいま」

 僕の、大好きで大切なキイくんだ。



 実はあの後、やって来た修理屋により、感情や記憶のプログラムは消えていない事が判明した。
 所謂、部品さえあれば、元のキイくんに会えるという事だ。

 だが、肝心の部品が古いものだったらしく、多くが取り扱い中止になっていた。
 だから僕は、今の道を選んだ。

 無いなら作ればいい。自ら知識を蓄え、この手でキイくんを取り戻せば良い。

「僕、頑張るから。だから、もう少しだけ待ってて」

 もう一度、会える日を夢見て。話せる日を願って。一生懸命、前に進むから。

 キイくん、大好きだよ。
しおりを挟む
感想 3

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(3件)

羊原ユウ
2025.03.09 羊原ユウ

検索からこちらにたどりつきました。あらすじが気になってしまい、一気に読んだのですがヨウくんとロボットの弟キイくんの会話ややり取りに優しさがあふれていて、希望のあるラストにとても感動しました…!素敵な物語をありがとうございます

2025.03.13 有箱

羊原ユウさん!まずは、たくさん表示されたであろう作品の中から、この物語を選んで下さりありがとうございます🌱

あらすじ書くことを苦手としているので、気になったとのお言葉に早速大喜びしております🌸

更には最後まで目を通し(しかも一気読みをして下さった!?)こうして丁寧な感想を残して下さったこと、すっごーく嬉しいです!

端から端まで嬉しい言葉尽くしで、喜びが溢れて止みません……✨
幸せな気持ちを頂けたこと、心から感謝します✨
本当にありがとうございます!

解除
柚木ゆず
2021.04.29 柚木ゆず

本日、最新話を拝読しました。

『大好き』。
そしてそのあとにあります、『言葉だけ残して温度は消えた』。

こちらも。終盤だから、という理由ではなく。
心に強く、残っております。

2021.05.05 有箱

柚木ゆずさん、小説の方にもたくさんの宝物をありがとうございます!
もう足を向けて寝られません……!

心に残るとのお言葉、すごく心に沁みます…
物語も文章も自分なりに必死で考え、懸命に書いたものでしたので、その両方を褒めて頂きとっても嬉しくなりました✨

毎度似たような言葉でしか喜びを表現できないのが悔しいです…

本当に何度も、包み込んで下さるかのような優しい感想をありがとうございます!

解除
柚木ゆず
2021.04.27 柚木ゆず

本日は、こちらの作品を拝読しました。

こころに、残り続ける。印象に、残り続ける。
そんな世界(物語)であり、文章、でした。

解除

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

不倫の味

麻実
恋愛
夫に裏切られた妻。彼女は家族を大事にしていて見失っていたものに気付く・・・。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。