僕らのカノンは響かない

有箱

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重なる旋律(2)

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 成長に伴い、声質も変化すると忘れていた。男子ほど大きくはなくとも変わるらしい。
 視野になかった希望に、細く伸びる光を見た。気持ち悪い声――張り付いたレッテルが、今なら剥がせるかもしれない。

 練習の度、彼女は歌を褒めてくれた。
 この空間でなら、私の声は許される。確信を持った瞬間から、徐々に声が出るようになった。もちろんまだ小さいし、話は出来ない。それに場所も広がっていない。

 それでも、一緒になって楽しむには十分すぎる進歩だ。
 楽しく歌が歌える。この感覚が喉に戻る日など、来ないと信じ切っていた。

 定番化した歌を、本物の声で追いかけ合う。彼女と出会い一月半経つが、この曲は未だ新校舎では聴いていない。

“ねぇ、この歌って貴方のクラスの課題曲? ここ以外で聞かないけど”

 何の気なく尋ねる。数秒声が戻らず、不味い質問をしたかと焦ってしまった。だが、明るい声が戻り、ちょっぴり安堵する。

「うーん、課題曲ではないよ。なんかよく分からないけど歌いたくなっちゃう曲なんだ」
“そっか、いい曲だよね。次は何歌う?”

 次は迷いなく曲名が返ってくる。唐突なスタートを受け入れ、自然と旋律を追いかけた。心が飛び跳ねた。
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