好きなら、それで。

有箱

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 それからの早川くんも、普段通り何も変わらなかった。
 皆に平等で、優しくて素直で、言いたい事は基本何でも言うし聞く。その所為か、クラスメイトからやたらと天然扱いされる。でも表情は乏しくて、何を考えているかは読めない。

 そんな、どこか掴めない彼のことが、毎日気になって気になって仕方がなかった。
 多分、一件の所為で好きが加速してしまったんだと思う。どこか観点が違う彼に、希望を抱いたのかもしれない。

「あの、早川くん。変なこと聞いてもいい?」
「いいよ」
「……早川くんは、何で一緒にご飯食べてくれるの?」

 兼ねてから感じていた疑問を、今更ぶつけてみた。彼は、特定の友人こそいないものの、交友がないわけではない。寧ろ、色々な人と上手く接している。それなのに、食事は僕とばかりしてくれる。

「うーん……」

 さすがに予想外だったのか、早川くんは首を傾げた。
 もしかすると、理由なんて無かったのかもしれない。そう考えると、敢えて切り出したのが恥ずかしくなってくる。

「あ、一緒にいて一番楽しかったからかな」

 だが、回答により直ぐ後悔は溶けた。珍しく感情の見える答えに、心が弾む。

「あと、一番一緒にいて欲しそうだった……とか言うと変か」

 心が見透かされていたことに驚きつつ、堂々と発言してしまう姿に笑ってしまった。やはり、彼は普通の人とどこか違っている。

「……なんて言うか、早川くんって感受性が他の人と違うよね」
「うん、違うね」

 そして、それは本人も自覚していたらしい。

「あっ、変って意味じゃないよ! こうね、何か良いなぁって言うか好きだなぁって言うか……あっ、これも変な意味じゃないよ!」

 自ら墓穴を掘り、絶句した。早川くんも、完全察知してしまったのか沈黙している。

 その状態で十数秒――静寂を破ったのは早川くんだった。

「一つ、昔の話をしても良い?」
「あ、うん」

 珍しく承諾を求めてきた早川くんは、窓向こうを見つめて一息つく。
 そうして、変わらない語調で語りだす。

「俺の初恋って、小学校の時だったんだけどさ。その好きな相手って言うのが――」

 続く告白は、酷く衝撃的だった。



「えっ……?」

 口から出た単語に、反応する為の言葉が出なかった。気の効いた一言を探しても、逃げて行って捕まらない。

「やっぱ驚くよな。大丈夫、それが普通の反応だから」

 早川くんは僕の葛藤を読み取ってか、逸早くそう言って見せた。態度は、相変わらず平然としている。

「あっ、ごめん……引いてるとかじゃないんだ。ただ、予想外すぎてびっくりしたと言うか……」

 今なら、あの発言の意味が分かる気がした。許されない相手だとしても――との発言だ。

「やっぱり久保くんって優しいよね。俺が最初に打ち明けた人は、信じられないって顔してたよ」

 やや苦笑いした早川くんの瞳は、寂しさを垣間見せた。好きだった相手の顔を思い浮かべ、追憶でもしているのだろう。

「……だから伝えられなかったの?」

 嵌ってゆくピースは、不思議だっただけの彼を形作っていく。

「うん。やっぱ俺は可笑しいんだって思って。でも」

 知れば知るほど、愛しさも尊さも更に膨らんでしまうと言うのに。僕はまだ、彼を知りたいと願っている。

「今はやっぱり伝えておけばって思うよ。もし引かれることになったとしても、それが実際後悔になってるんだから。だから俺は、人の気持ちを知ろうと努めたいし、思った事は言えるだけ言いたい」

 そうして、実際好きを加速させている。
 でも、彼ならば僕の怖さを無くしてくれるかもしれない。似たような経験をしていた、彼ならば。

「……そっか、だから早川くんは僕に聞いてくれたんだね」

 打ち明けられない事を読み、彼は先回りしてくれていたのだ。唐突過ぎて逃亡する結果にはなったが、あれは優しさゆえの行動だったのだろう。

「……実際は別としてさ、僕が早川くんの事好きだったらどうする?」

 それでも、まだ認めるのは怖いけれど。少しだけ、心の枷が緩まったとは感じる。

「どうするかは分からない。けど、好きになって貰えるのは嬉しいって思うよ。出来るだけ応えたいとも思う」
「でも男同士だよ? それでも?」
「性別も年齢も、種族も何も関係ない。法律とか出されたら何も言えないけど、ただ好きになった相手が同性だっただけの話だよ」

 早川くんの価値観は、恐らく経験したからこそのものだ。けれど、こうして分かってくれる人の存在があるのは、本当に嬉しくて、そして心の支えになる。

「まだまだ難しいけれど、一般常識とかに囚われず、色んな形が受け容れられるようになるといいよな」

 長々と価値観を語った早川くんだったが、表情も雰囲気も何一つ変わっていなかった。僕の為に作られた価値観ではなく、全て彼の中にあるものだったのだろう。

 ああ、やっぱり彼のことが好きだ。好きになったのが彼で良かった。

「……うん、そうだね」



 授業に戻り、再び先程の会話を思い出した。
 早川君が語ってくれた過去も、終えた後に教えてくれた意見も、肯定も全て。繰り返し、巡らせる。

 それにしても、初恋の話は本当に驚いた。まさか、相手が実の祖母だったなんて。
 男性同士や従姉妹同士ならまだしも、そこを通り越して祖母だなんて誰が想像しただろうか。

 因みに、早川くんは今でも恋し続けているらしい。あの世という物があったら、そこで会えたとき告白したいと語っていた。

 となると、僕は失恋した事になるのだろうか。何だか妙な感じだが、何をしても敵わない気はする。

 それでも、諦めきれないのが恋だ。

 好きになってしまうのは、自分では止められない感情だ。怒りや悲しみがコントロールできないように、恋心だって簡単に抑制出来るものではない。

 ただ好きになった相手が同性だっただけ。ただそれだけ。

 そう言った彼の言葉は、僕を少しだけ救った。きっと他にも、この言葉で救われる人間はいるはずだ。
 
 僕や早川くんみたいに、恋で悲しむ人が減るような。
 色々な人が、この感情についての理解を得られるような。
 どんな相手でも、堂々と好きを伝えられるような。
 そんな世界が広がっていってくれる事を、僕は願っている。

 今もこの先も、叶わない恋を重ねながら願っている。
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