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とりあえず解決――した感じがしない。
前席の彼に、好意を見抜かれたのは事実だ。
これでは先が思い遣られる。極力周りに浸透し、一般人の振りをして生きていかなければならないのに。好きは排除しなければならないのに。
同性に恋をするなどと言う、異常があってはいけないのに。
「なぁ早川ー、お前だったら誰推しー?」
視界に滑り込んできたのはクラスメイトだった。
話した記憶は一度きりしかない。無類の女好きで、常にエロ本を装備している人だ。もちろん、唯一の会話も女子の話だった。
「えっと、田代。この中から選べって?」
早川くんは、慣れた様子で対応する。特定の相手と過ごすことは少ない彼だが、孤立している訳ではないのだ。話も、振られれば何にだって乗れるようだった。
「そうそう、皆可愛くない? 強いて言うならこの子の尻がー」
教室内で堂々と体の話をする所為で、周囲の女子から冷たい視線が向けられる。しかし、早川くんから嫌悪感は発生しなかった。寧ろ、付き合ってあげている。
「うーん、俺のタイプがいない」
いや、付き合うどころか意見までしていた。やはり、彼は異性が好きなようだ。
無意識にがっかりしている自分に、大きく幻滅した。
「えー、じゃあお前ってどんなタイプの子が好きなわけ」
「どんなタイプ……」
興味深い話題に、吸い寄せられる。後ろの席の特権を味わっている気分だ。
――なんて、また意識していることに気付いた。駄目だと、己に言い聞かせた直後だと言うのに。
「……優しくて、物知りで、ご飯が美味しくて……あといつも笑ってて、俺を好きでいてくれる人かな」
早川くんは、躊躇う事無く理想を語ってみせた。田代くんは、細かすぎるだろと突っ込みを入れ、その場から去っていく。
僕は、別の可能性を思ったけれど――。
チャイムがなった。担任が入室してくる。
再び前を向くと、早川くんは愁いた顔で空を見上げていた。まるで、何かを懐古しているようだった。
*
愁いを帯びた横顔が気になる。気になりすぎて、授業に集中できなかった。これは、復習が大変そうだ。
「久保くん、今何考えてた?」
「えっ!?」
我に返り、顔を上げると早川くんがこちらを見ていた。箸が、お弁当の玉子焼きを摘んでいる。
「物憂げに見えたから。何か悩んでる?」
率直に尋ねられ、言葉に詰まった。
彼は、いつも察知が早い。見ていないようで、よく人を観察しているのだろう。ただ僕が、態度に出やすいだけかもしれないが。
「……えっと、そう言うのじゃなくて……」
逆に、早川くんは表情の変化が少ない。だから、何を考えているのか読み辛いことが多い。
それでも、発信される言葉の端々から、優しい人だとは十分に分かる。本当に、とても不思議な人だと思う。
そんな彼が理想とする女性に、純粋に興味が湧いていた。
「……早川くんって、好きな人いるの?」
「田代との話?」
「あっ、うん! 聞こえてきちゃって! もしかしたら特定の人がいるのかなって!」
僕の見解はこうだ。
早川くんは、既に好きな相手がいる。語られた理想像は、全てその人物に当て嵌まるのではないだろうか。
そう考え始めたら、尋ねずにはいられなかった。知っても、何も変わらないけれど。
「よく分かったね」
「えっ、当たり!?」
いや、相手がいれば、諦めが付くと思っているのかもしれない。叶わない恋に敵わない相手がいれば、好きは破綻したも同然だ。いや、させなきゃいけなくなる。
「いたよ、昔に。もうこの世にいないけど」
「……えっ」
だが、衝撃の告白は思惑をぶち壊した。ずしりと、得体の知れぬ重みが圧し掛かる。
「ごめん」
「大丈夫、もう吹っ切ってるし」
「……付き合ってたの?」
「ううん、告白すらしてない。と言うか、出来なかった」
これだけの事を語っても、早川くんの表情はほぼ変わらなかった。真っ直ぐ弁当箱に注がれる視線は無情で、心に何が渦巻いているのか読ませようとしない。
「だから、誰かを好きになったら伝えた方がいいと思う。例えそれが、許されない相手でも」
早川くんは、何時の間にか空っぽになっていた弁当箱の蓋を閉めた。袋に入れ、颯爽と立ち上がる。
「飲み物買ってくるけど、何かいる?」
「えっと、珈琲牛乳……」
「分かった」
唖然としっ放しの僕に対し、早川くんは平然としていた。いつもの彼らしいと言えばそうだが、今日はどうしてかそれで終われなかった。心で、何かが滞っている。
彼は、何パーセントの真実に気付いた上で、僕に言葉を残したのだろう。
*
やっぱり、彼は確信している。僕が恋している事を。その上で言っている。
そうとしか考えられなかった。納得出来なかった。
だとしても、それが正解なら不可解な点も浮上してしまう。どうして確認してきたのか、と言う点だ。
男に恋愛対象として好かれる等、考えたくもないだろう。気付いたら知らない振りをするのが、一般的ではないのだろうか。
もし『そうだよ』と答えていたなら、彼は受け容れてくれる積もりだったんだろうか。
ああ、気になる。恋を捨てようとしていたのに、これではまた拾ってしまいそうだ。
前席の彼に、好意を見抜かれたのは事実だ。
これでは先が思い遣られる。極力周りに浸透し、一般人の振りをして生きていかなければならないのに。好きは排除しなければならないのに。
同性に恋をするなどと言う、異常があってはいけないのに。
「なぁ早川ー、お前だったら誰推しー?」
視界に滑り込んできたのはクラスメイトだった。
話した記憶は一度きりしかない。無類の女好きで、常にエロ本を装備している人だ。もちろん、唯一の会話も女子の話だった。
「えっと、田代。この中から選べって?」
早川くんは、慣れた様子で対応する。特定の相手と過ごすことは少ない彼だが、孤立している訳ではないのだ。話も、振られれば何にだって乗れるようだった。
「そうそう、皆可愛くない? 強いて言うならこの子の尻がー」
教室内で堂々と体の話をする所為で、周囲の女子から冷たい視線が向けられる。しかし、早川くんから嫌悪感は発生しなかった。寧ろ、付き合ってあげている。
「うーん、俺のタイプがいない」
いや、付き合うどころか意見までしていた。やはり、彼は異性が好きなようだ。
無意識にがっかりしている自分に、大きく幻滅した。
「えー、じゃあお前ってどんなタイプの子が好きなわけ」
「どんなタイプ……」
興味深い話題に、吸い寄せられる。後ろの席の特権を味わっている気分だ。
――なんて、また意識していることに気付いた。駄目だと、己に言い聞かせた直後だと言うのに。
「……優しくて、物知りで、ご飯が美味しくて……あといつも笑ってて、俺を好きでいてくれる人かな」
早川くんは、躊躇う事無く理想を語ってみせた。田代くんは、細かすぎるだろと突っ込みを入れ、その場から去っていく。
僕は、別の可能性を思ったけれど――。
チャイムがなった。担任が入室してくる。
再び前を向くと、早川くんは愁いた顔で空を見上げていた。まるで、何かを懐古しているようだった。
*
愁いを帯びた横顔が気になる。気になりすぎて、授業に集中できなかった。これは、復習が大変そうだ。
「久保くん、今何考えてた?」
「えっ!?」
我に返り、顔を上げると早川くんがこちらを見ていた。箸が、お弁当の玉子焼きを摘んでいる。
「物憂げに見えたから。何か悩んでる?」
率直に尋ねられ、言葉に詰まった。
彼は、いつも察知が早い。見ていないようで、よく人を観察しているのだろう。ただ僕が、態度に出やすいだけかもしれないが。
「……えっと、そう言うのじゃなくて……」
逆に、早川くんは表情の変化が少ない。だから、何を考えているのか読み辛いことが多い。
それでも、発信される言葉の端々から、優しい人だとは十分に分かる。本当に、とても不思議な人だと思う。
そんな彼が理想とする女性に、純粋に興味が湧いていた。
「……早川くんって、好きな人いるの?」
「田代との話?」
「あっ、うん! 聞こえてきちゃって! もしかしたら特定の人がいるのかなって!」
僕の見解はこうだ。
早川くんは、既に好きな相手がいる。語られた理想像は、全てその人物に当て嵌まるのではないだろうか。
そう考え始めたら、尋ねずにはいられなかった。知っても、何も変わらないけれど。
「よく分かったね」
「えっ、当たり!?」
いや、相手がいれば、諦めが付くと思っているのかもしれない。叶わない恋に敵わない相手がいれば、好きは破綻したも同然だ。いや、させなきゃいけなくなる。
「いたよ、昔に。もうこの世にいないけど」
「……えっ」
だが、衝撃の告白は思惑をぶち壊した。ずしりと、得体の知れぬ重みが圧し掛かる。
「ごめん」
「大丈夫、もう吹っ切ってるし」
「……付き合ってたの?」
「ううん、告白すらしてない。と言うか、出来なかった」
これだけの事を語っても、早川くんの表情はほぼ変わらなかった。真っ直ぐ弁当箱に注がれる視線は無情で、心に何が渦巻いているのか読ませようとしない。
「だから、誰かを好きになったら伝えた方がいいと思う。例えそれが、許されない相手でも」
早川くんは、何時の間にか空っぽになっていた弁当箱の蓋を閉めた。袋に入れ、颯爽と立ち上がる。
「飲み物買ってくるけど、何かいる?」
「えっと、珈琲牛乳……」
「分かった」
唖然としっ放しの僕に対し、早川くんは平然としていた。いつもの彼らしいと言えばそうだが、今日はどうしてかそれで終われなかった。心で、何かが滞っている。
彼は、何パーセントの真実に気付いた上で、僕に言葉を残したのだろう。
*
やっぱり、彼は確信している。僕が恋している事を。その上で言っている。
そうとしか考えられなかった。納得出来なかった。
だとしても、それが正解なら不可解な点も浮上してしまう。どうして確認してきたのか、と言う点だ。
男に恋愛対象として好かれる等、考えたくもないだろう。気付いたら知らない振りをするのが、一般的ではないのだろうか。
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