造花の開く頃に

有箱

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9月26日

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[9月26日、月曜日]
 レンジが回る微かな電子音が、ちくちく耳を刺激する。
 月裏は昨日の決意について、再度思い巡らせていた。

 迷いがまだ揺れている。何か理由を付け、訂正を入れた方が良いんじゃないかと考えてしまう。
 しかし結局は¨発言してしまった以上簡単には戻れない¨との理由からだったが、一緒に住む決意に身を委ねる選択をする。
 自分の不安定な姿は、極力見せないようにしなければ―――。

「おはよう」
「えっ」

 月裏は、急に現れた姿に驚きが隠せなかった。

「…なんだ、変か?」
「えっ、いや、お早う、どうしたの?」

 譲葉が起きて来たのだ。今日は月曜日で、時刻はまだ早朝5時過ぎだというのに。

「…何もない」

 月裏には直ぐ分かった。理由がないのに、起きて来てくれたその訳を。

「…もしかして、態々起きてきてくれたの?」

 譲葉は視線を傾けるだけで、何も言わなかった。頬も染まらず照れているかも怪しいが、恐らくは照れていると思われる。

「ありがとう」

 月裏は、はじめてみた譲葉の優しさに、初めて心からの微笑を浮かべることが出来た。

 しかし、現実は厳しい。
 相変わらず、ヒステリックな上司は、今日も容赦なく嵐を巻き起こす。
 その時ばかりは、今朝の出来事の喜びを忘れて、死にたいと心の中で連呼してしまう。
 終わらない日々に、絶望感を見てしまう。

 ――けれど、頑張るんだ。譲葉のため、頑張らなくてはならない。
 その為にも、職場での出来事は上手く隠さなくてはならない。
 月裏は当初よりも、一層強く繕う決意を固めた。
 譲葉に余計な心配をかけまい、と。

「おかえり」
「…ただいま」

 物音立てず部屋に入るなり、聞こえて来た迎え入れに月裏は唖然としてしまった。
 寝巻きに着替えてベッドに座り、こちらを見ている。
 今朝の出来事から直ぐに、帰宅を待っていてくれていたのだと悟った。
 因みに、既に時刻は10時30分を超えている。

「眠いでしょ、ありがとう、待っててくれて」
「…お疲れ様」

 月裏は事実に、苦笑いだけ返した。思い出すだけで湧く悲しみを押さえつけて、隠れるようにベッドに潜り込む譲葉を見ていた。

「……おやすみ、譲葉君」
「…おやすみ」

 ――――歪みのない純粋さが、月裏に言い聞かせる。
 彼を救うと。彼の心を、孤独から救い出すと。こんなに良い子を不幸にしてはいけない、と。
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