神さまどうか、恵みの雨を

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呪いの子(2)

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「水雪《みずゆき》、帰ったの」

 玄関へ逃げ込もうとすると、裏側から細い声が聞こえた。数秒後、表へ祖母が現れる。
 手には、収穫直後らしき芋があった。微量の水で育つ優れものだ。しかし、本日も収穫量は少ない。

「ばあちゃんただいま。それとごめん。水持ち帰ってこられなかったよ。また器ごと取られた」
「いいのよ、次はばあちゃんが集めてくるわ」

 枯れた手が頬に宛てられた。乾いた肌感や温もりが、疲れた心身に寄り添う。一言感謝だけ返し、軽く手のひらを重ねた。

 祖母はたった一人の家族である。僕を嫌う村で、唯一笑顔をくれる人だ。物心つく前に両親共々死去しており、育ての親でもある。

「じゃあ、ばあちゃんそろそろ行ってくるね。帰りにお水集めてくるわ」
「いや、水は休憩したら僕がもう一回行くよ。夜になる前に行かなきゃ、外見えなくなっちゃうから」

 そう、ありがとねと微笑みながら、芋を手渡される。背中を見せた祖母へ、小さく気をつけてと声をかけた。
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