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夜が明けた。昨日は久々に裏の無い気持ちで淑瑠と時間を共にした気がする。歩に来週からの復帰を伝え、喜ばしい声をあげてくれたのも心を安らがせた。
だが、それでも不安定な精神自体が完璧に安定してくれるはずも無く、部屋に戻った途端様々な恐怖が襲い来て、眠る事が出来なかった。
それに加え、一つ気になった事を調べてしまい、また悲しい現実を知ってしまった。それにより考える事柄が増えてしまったのだ。
それは、志喜と岳の事故についてだった。
終盤だけしか見ていなかった鈴夜は、何らかの事情があり岳と志喜が共に轢かれたものだとばかり思っていた。
だが実際は少し違っていて、説明文には、志喜が岳を庇う形で線路に入ったとの情報があった。
因みに車掌の証言だと記載されていた為、事実だと思われる。
だとしたら岳は、相当深い胸の痛みを感じている事だろう。死にたくなるほど、というのも分からなくはない。
鈴夜は、胸の痛みと恐怖に震えながら、シーツを纏っていた。
「お早う鈴夜」
ーー扉が開く音を聞き、鈴夜は上体を起こした。淑瑠は右手のレジ袋を持ち上げ、にこりと笑う。
「久しぶりに、ご飯作ろうよ」
「…うん、いいよ」
材料は慣れた手付きで調理されてゆき、比較的短時間で料理へと変わった。
簡易的でありながら栄養豊かな食事をしていると、不意に淑瑠が切り出す。
「昨日あれから職場に電話したんだけど、今度の月曜からって事になったよ。初めは長時間の運転は疲れるから短い時間からでも大丈夫だって。あ、でも休日は長い事手伝って欲しいって言われたかな、だから…」
送り迎えが出来るよ、とは敢えて言わなかった。縛り付けたくないとの意向を示した、鈴夜を配慮しての事だ。
「…家で鈴夜が帰るの待っていられるよ」
「そっか、直ぐ遊びに行けるね」
鈴夜は早速意見を聞き入れ、行動してくれた事への安堵感に綻ぶ。
「そうだ、これ」
言いながら、淑瑠はポケットから鍵を取り出した。ずっと前に貸したきりになっていた、鈴夜の家の合鍵である。鈴夜は差し出されるがまま鍵を受け取った。
「ずっと借りっ放しになっててごめんね」
「…ううん」
手に収まる小さな鍵を見て、自分で言った事であるのにも拘らず淡い寂しさが過ぎった。
「辛くなったら直ぐ言ってね」
すっかり晴れた空から射す光に照らされ、穏やかな表情を浮かべる淑瑠は、とても綺麗な顔をしている。
「ありがとう」
鈴夜は寂しさを飲み込み、にっこりと微笑んでみせた。
◇
美音は母親に宣言した事で帰るに帰れず、昨晩はついに野宿に走った。土曜の、少しだけだが人が多くなる町の中で、自分一人が浮いている気がする。
「……寒い…お風呂入りたい…暖まりたい…緑に会いたい…」
情報提供したのに、何の進展もない事件に苛々が隠せない。何度携帯で情報の取得を試みようと同じ事しかかかれておらず、大変腹立たしくなる。
日に日にバレンタインの飾り付けが増えてきて、あたり一面がなんだか眩しい。不快さも心に残る中で、可愛らしいレイアウトが美音の心を擽る。
忘れていた訳ではないが、久しぶりに思い出した恋心が刺激され、美音は鈴夜の顔を思い出していた。
◇
通りすぎようとしたところ、パソコンを見ていた泉から唐突に声が落とされ、ねいは驚いてしまった。
「丸一日調査しても全く進展なしですね。凶器のナイフも一向にみつからないし、第三者がいた痕跡一つ無い…まるで綾崎さんの時みたいですよ」
不貞腐れた様子から、もどかしさでも感じているのかと思ったが、覗き見たパソコンの画面がトランプゲームを移していた為、思いは直ぐに破り捨てた。
「しかも、鈴村さんも高河さんも恨まれる相手の範囲が広すぎて目星をつけるのも困難ですし」
「…そうね、ところで泉さんは知る気あるのかしら?」
「ないですね、正直どうでもいいってのが本心ですよ」
「あのやる気は」
「尽きました~」
ねいは起伏の激しい泉に対し、遣り切れない思いを浮かべた。だが、ぶつけるのは堪えた。泉はトランプゲームに勝利したらしく、軽くガッツポーズをしていた。
「…もう一度現場に行って来るわ」
「いってらっしゃーい」
◇
鈴夜は気を紛らわせる目的も含み、久々に動物番組を見ていた。途中、チャイムが音を鳴らす。
インターホンに繋がる受話器を耳に当てると、歩の声が聞こえて来た。
『鈴夜くん、お早う、調子はどうかな?』
『…あ、大丈夫です、今出るので待っていて下さい』
扉を開くと、久しぶりに見る気のする歩の笑顔がそこにあった。手にはレジ袋がある。
「お早う、朝から御免な。はい」
袋の中には、見た事の無いデザートがあった。だが、ちゃんと鈴夜の好みに沿っている。
「ありがとうございます」
「調子は…」
歩は悪さが残る鈴夜の顔色に、何と言えばいいか分からなくなってしまった。勇之の事件に傷ついていないか心配でやってきたのだが、傷ついていそうだ。
「…あ、これでも意外に大丈夫ですから、ご心配なさらないで下さい」
鈴夜は蒼い顔をしている自覚があった為、わざと認めた上で装った。
「そうか、なら良かった。でも無理はするなよ」
「はい、ありがとうございます」
歩はにこにこと笑う鈴夜を見て、今日顔を出した本当の理由を全て心の奥に仕舞いこんだ。
勇之と何か有ったのではないかと、考えを鈴夜に打ち明け、その気持ちを解こうと考えてはいたが、今は言うべきではないと判断した。時機が来たら何気なく話を聞く事としよう。
「あっ、宜しければ家あがりますか?」
「ううん、ありがとう。この後行く所があるんだ」
「そうでしたか、態々ありがとうございます」
鈴夜は手を振り去ってゆく後ろ姿を、玄関の扉が閉まるまで見ていた。
部屋に戻ると、本を捲くっている淑瑠が目に付いた。淑瑠は意外そうな顔をしている。
「戻ったよ」
「あれ?早いね」
「うん、行く所があるんだって」
「…あぁ…」
沈んだ色に、鈴夜はきょとんとしてしまった。変化の理由が分からなくて、少し考えてしまう。
「…鈴夜も行く…?」
「…え?えっと、車?」
淑瑠が壁にかけられた、1月のままのカレンダーを一瞥する。
「……ううん、やっぱりまだやめておこうか」
視線が本へと戻されて、鈴夜は不思議になりカレンダーを一枚破った。過ごす事にいっぱいで追えていなかった日を軽く追ってみる。
今日は月が替わってからの第一土曜だから…。
鈴夜は淑瑠の言葉の真意を理解した。
今日は2月5日だ。大智の命日である。あの、日常を狂わせる事になった事件から、丁度3ヶ月経過したのだ。
「……気付かなかった」
鈴夜は、我慢の感情を脳内に浮かべる前に、涙を落としてしまっていた。悲しみが鮮明に蘇ってくる。
「ごめんね、思い出させたね」
振り向くと、本の方を見る形で俯いた淑瑠が、悲しげな顔をしていた。恐らく淑瑠も大智の事を思い出しているのだろう。
「…ううん…」
鈴夜はカレンダーの¨5¨の文字にそっと触れ、心の中で『ごめん』と唱えた。
◇
美音が可愛く飾られた店先を見ていると、後方から声が聞こえて来た。
「あれ?美音さん、お買い物ですか?」
「あっ、柚李さん!」
柚李は美音の明るく弾けた表情を見て、密かに眉を顰めた。
「…えっと、私は」
泳いだ目と美音の少しやつれた外装、そして足元に置かれた重そうな鞄を見て、何と無く悟る。
条件に加え、年頃の少女がしそうなことと言ったら。
「…もしかして家出中ですか?」
「あっ、ばれちゃいましたか!いやーそうなんですよ、でもいざ出てくると困っちゃって…温泉とかあると良いのにな」
後半の業とらしい呟きに心髄を見透かした柚李は、困った笑顔を作り出した。
「……お風呂入りにきます?」
美音は汲み取ってもらえ、しかも欲しかった反応を貰えた事で、ぱっと輝きを放った。
美音は辺りを見回しながら、嬉しそうに柚李の家へとあがりこんでいた。家は一人暮らしをしていると話していた割には、広い一軒家だ。
「わー広いですね!」
「普通ですよ、美音さん所はアパートとかですか?」
言いながら、美音を風呂場へと誘導する。
「ううん、私も一軒家だよ」
美音は風呂場に誘導されると、繋がる形で隣に位置する、洗面所の部屋の前に鞄を置いた。そしてチャックを開き、詰め込んだ服を選ぶ。
「温度調節はこのボタンでやって下さい」
風呂場の外に備え付けられた機械の説明に相槌を打ちながら、美音はまたにこっと微笑を湛えた。
「ありがとうございます、本当に助かります…!」
「じゃあタオル持ってきますね。着てた服洗濯するので服この籠に入れてください」
「そこまですみません、ありがとうございます」
柚李は洗面所の暖簾を閉めると、部屋から背を向けた。
◇
依仁は入って来たメールを見るため、検索を止めページを移動した。相手先は樹野だ。
[今日は大智君のお墓参りに行って来ます、お昼には帰るから心配しないでね]
依仁はあえて電話ではなくメールを選択した訳も、一人で行く事を選択した理由も一発で把握した。
恐らく、直接言い辛かったのと、墓場にて事件に巻き込まれた自分のトラウマを考慮しての事だろう。
勿論、樹野が一人きりで外出する事に多大な不安はあったが、他人との相対を恐れて当日に出向けない自分にとって好都合でもあり、少しばかり悩んだが受け入れる事を選んだ。
[帰ったら連絡頂戴]
それだけ返信して、大智へと思考を逸らした。
だが、それでも不安定な精神自体が完璧に安定してくれるはずも無く、部屋に戻った途端様々な恐怖が襲い来て、眠る事が出来なかった。
それに加え、一つ気になった事を調べてしまい、また悲しい現実を知ってしまった。それにより考える事柄が増えてしまったのだ。
それは、志喜と岳の事故についてだった。
終盤だけしか見ていなかった鈴夜は、何らかの事情があり岳と志喜が共に轢かれたものだとばかり思っていた。
だが実際は少し違っていて、説明文には、志喜が岳を庇う形で線路に入ったとの情報があった。
因みに車掌の証言だと記載されていた為、事実だと思われる。
だとしたら岳は、相当深い胸の痛みを感じている事だろう。死にたくなるほど、というのも分からなくはない。
鈴夜は、胸の痛みと恐怖に震えながら、シーツを纏っていた。
「お早う鈴夜」
ーー扉が開く音を聞き、鈴夜は上体を起こした。淑瑠は右手のレジ袋を持ち上げ、にこりと笑う。
「久しぶりに、ご飯作ろうよ」
「…うん、いいよ」
材料は慣れた手付きで調理されてゆき、比較的短時間で料理へと変わった。
簡易的でありながら栄養豊かな食事をしていると、不意に淑瑠が切り出す。
「昨日あれから職場に電話したんだけど、今度の月曜からって事になったよ。初めは長時間の運転は疲れるから短い時間からでも大丈夫だって。あ、でも休日は長い事手伝って欲しいって言われたかな、だから…」
送り迎えが出来るよ、とは敢えて言わなかった。縛り付けたくないとの意向を示した、鈴夜を配慮しての事だ。
「…家で鈴夜が帰るの待っていられるよ」
「そっか、直ぐ遊びに行けるね」
鈴夜は早速意見を聞き入れ、行動してくれた事への安堵感に綻ぶ。
「そうだ、これ」
言いながら、淑瑠はポケットから鍵を取り出した。ずっと前に貸したきりになっていた、鈴夜の家の合鍵である。鈴夜は差し出されるがまま鍵を受け取った。
「ずっと借りっ放しになっててごめんね」
「…ううん」
手に収まる小さな鍵を見て、自分で言った事であるのにも拘らず淡い寂しさが過ぎった。
「辛くなったら直ぐ言ってね」
すっかり晴れた空から射す光に照らされ、穏やかな表情を浮かべる淑瑠は、とても綺麗な顔をしている。
「ありがとう」
鈴夜は寂しさを飲み込み、にっこりと微笑んでみせた。
◇
美音は母親に宣言した事で帰るに帰れず、昨晩はついに野宿に走った。土曜の、少しだけだが人が多くなる町の中で、自分一人が浮いている気がする。
「……寒い…お風呂入りたい…暖まりたい…緑に会いたい…」
情報提供したのに、何の進展もない事件に苛々が隠せない。何度携帯で情報の取得を試みようと同じ事しかかかれておらず、大変腹立たしくなる。
日に日にバレンタインの飾り付けが増えてきて、あたり一面がなんだか眩しい。不快さも心に残る中で、可愛らしいレイアウトが美音の心を擽る。
忘れていた訳ではないが、久しぶりに思い出した恋心が刺激され、美音は鈴夜の顔を思い出していた。
◇
通りすぎようとしたところ、パソコンを見ていた泉から唐突に声が落とされ、ねいは驚いてしまった。
「丸一日調査しても全く進展なしですね。凶器のナイフも一向にみつからないし、第三者がいた痕跡一つ無い…まるで綾崎さんの時みたいですよ」
不貞腐れた様子から、もどかしさでも感じているのかと思ったが、覗き見たパソコンの画面がトランプゲームを移していた為、思いは直ぐに破り捨てた。
「しかも、鈴村さんも高河さんも恨まれる相手の範囲が広すぎて目星をつけるのも困難ですし」
「…そうね、ところで泉さんは知る気あるのかしら?」
「ないですね、正直どうでもいいってのが本心ですよ」
「あのやる気は」
「尽きました~」
ねいは起伏の激しい泉に対し、遣り切れない思いを浮かべた。だが、ぶつけるのは堪えた。泉はトランプゲームに勝利したらしく、軽くガッツポーズをしていた。
「…もう一度現場に行って来るわ」
「いってらっしゃーい」
◇
鈴夜は気を紛らわせる目的も含み、久々に動物番組を見ていた。途中、チャイムが音を鳴らす。
インターホンに繋がる受話器を耳に当てると、歩の声が聞こえて来た。
『鈴夜くん、お早う、調子はどうかな?』
『…あ、大丈夫です、今出るので待っていて下さい』
扉を開くと、久しぶりに見る気のする歩の笑顔がそこにあった。手にはレジ袋がある。
「お早う、朝から御免な。はい」
袋の中には、見た事の無いデザートがあった。だが、ちゃんと鈴夜の好みに沿っている。
「ありがとうございます」
「調子は…」
歩は悪さが残る鈴夜の顔色に、何と言えばいいか分からなくなってしまった。勇之の事件に傷ついていないか心配でやってきたのだが、傷ついていそうだ。
「…あ、これでも意外に大丈夫ですから、ご心配なさらないで下さい」
鈴夜は蒼い顔をしている自覚があった為、わざと認めた上で装った。
「そうか、なら良かった。でも無理はするなよ」
「はい、ありがとうございます」
歩はにこにこと笑う鈴夜を見て、今日顔を出した本当の理由を全て心の奥に仕舞いこんだ。
勇之と何か有ったのではないかと、考えを鈴夜に打ち明け、その気持ちを解こうと考えてはいたが、今は言うべきではないと判断した。時機が来たら何気なく話を聞く事としよう。
「あっ、宜しければ家あがりますか?」
「ううん、ありがとう。この後行く所があるんだ」
「そうでしたか、態々ありがとうございます」
鈴夜は手を振り去ってゆく後ろ姿を、玄関の扉が閉まるまで見ていた。
部屋に戻ると、本を捲くっている淑瑠が目に付いた。淑瑠は意外そうな顔をしている。
「戻ったよ」
「あれ?早いね」
「うん、行く所があるんだって」
「…あぁ…」
沈んだ色に、鈴夜はきょとんとしてしまった。変化の理由が分からなくて、少し考えてしまう。
「…鈴夜も行く…?」
「…え?えっと、車?」
淑瑠が壁にかけられた、1月のままのカレンダーを一瞥する。
「……ううん、やっぱりまだやめておこうか」
視線が本へと戻されて、鈴夜は不思議になりカレンダーを一枚破った。過ごす事にいっぱいで追えていなかった日を軽く追ってみる。
今日は月が替わってからの第一土曜だから…。
鈴夜は淑瑠の言葉の真意を理解した。
今日は2月5日だ。大智の命日である。あの、日常を狂わせる事になった事件から、丁度3ヶ月経過したのだ。
「……気付かなかった」
鈴夜は、我慢の感情を脳内に浮かべる前に、涙を落としてしまっていた。悲しみが鮮明に蘇ってくる。
「ごめんね、思い出させたね」
振り向くと、本の方を見る形で俯いた淑瑠が、悲しげな顔をしていた。恐らく淑瑠も大智の事を思い出しているのだろう。
「…ううん…」
鈴夜はカレンダーの¨5¨の文字にそっと触れ、心の中で『ごめん』と唱えた。
◇
美音が可愛く飾られた店先を見ていると、後方から声が聞こえて来た。
「あれ?美音さん、お買い物ですか?」
「あっ、柚李さん!」
柚李は美音の明るく弾けた表情を見て、密かに眉を顰めた。
「…えっと、私は」
泳いだ目と美音の少しやつれた外装、そして足元に置かれた重そうな鞄を見て、何と無く悟る。
条件に加え、年頃の少女がしそうなことと言ったら。
「…もしかして家出中ですか?」
「あっ、ばれちゃいましたか!いやーそうなんですよ、でもいざ出てくると困っちゃって…温泉とかあると良いのにな」
後半の業とらしい呟きに心髄を見透かした柚李は、困った笑顔を作り出した。
「……お風呂入りにきます?」
美音は汲み取ってもらえ、しかも欲しかった反応を貰えた事で、ぱっと輝きを放った。
美音は辺りを見回しながら、嬉しそうに柚李の家へとあがりこんでいた。家は一人暮らしをしていると話していた割には、広い一軒家だ。
「わー広いですね!」
「普通ですよ、美音さん所はアパートとかですか?」
言いながら、美音を風呂場へと誘導する。
「ううん、私も一軒家だよ」
美音は風呂場に誘導されると、繋がる形で隣に位置する、洗面所の部屋の前に鞄を置いた。そしてチャックを開き、詰め込んだ服を選ぶ。
「温度調節はこのボタンでやって下さい」
風呂場の外に備え付けられた機械の説明に相槌を打ちながら、美音はまたにこっと微笑を湛えた。
「ありがとうございます、本当に助かります…!」
「じゃあタオル持ってきますね。着てた服洗濯するので服この籠に入れてください」
「そこまですみません、ありがとうございます」
柚李は洗面所の暖簾を閉めると、部屋から背を向けた。
◇
依仁は入って来たメールを見るため、検索を止めページを移動した。相手先は樹野だ。
[今日は大智君のお墓参りに行って来ます、お昼には帰るから心配しないでね]
依仁はあえて電話ではなくメールを選択した訳も、一人で行く事を選択した理由も一発で把握した。
恐らく、直接言い辛かったのと、墓場にて事件に巻き込まれた自分のトラウマを考慮しての事だろう。
勿論、樹野が一人きりで外出する事に多大な不安はあったが、他人との相対を恐れて当日に出向けない自分にとって好都合でもあり、少しばかり悩んだが受け入れる事を選んだ。
[帰ったら連絡頂戴]
それだけ返信して、大智へと思考を逸らした。
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