ゆめゆめうつつ

有箱

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お姉さんになるから

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 次の日、ワクワクで目が覚めた。お兄ちゃんは部屋にいなくて、一人で起きれたと喜んだ。
 部屋を出る頃にはお兄ちゃんがいたから、起きれたって言うと凄いねって言ってくれた。

 幼稚園でも、お友達と遊ぶようになった。とっても楽しくて、ずっと遊んだ。
 その時は、お兄ちゃんもどこかに行っているみたいで、お兄ちゃんとお話しない日が多くなった。

「ねぇお兄ちゃん、いっつもどこ行ってるの?」

 二人っきりになった時、こっそり聞いてみた。お兄ちゃんは目を丸にして、ちょっと困った感じで笑った。

「園の外をお散歩してるんだよ」
「えー、やよいも行きたい!」

 幼稚園の外には、色んな物がある。だから冒険してみたいと思っていた。
 それなのに、先に行っちゃうなんてずるい。

「うーん、ならママも誘って今度行こう。だから幼稚園の時間はお――」

 そうだ、良いこと思いついた!



 皆で遊んでいると、お兄ちゃんはまたいなくなった。一人でお散歩に行ってしまったのだ。
 でも、良いなぁなんて思わない。どうしてかと言うと、やよいも行くからだ。

「ハル君、やよいちょっとトイレ」
「んー」

 もちろん一人で。お兄ちゃんを見つけて、びっくりさせようと思っている。
 初めての冒険にワクワクした。

 先生からも隠れんぼして、こっそり園を出る。いつもの扉は開いてないから、秘密の扉からだ。

 小さい扉の先は、初めての世界だった。大きい建物や木がいっぱいある。外にはいつも出るのに、こんな所は見たことがなかった。

 さぁ、お兄ちゃんを探そう。



 色んな新しいものを見ながら、いっぱい歩いた。時々、ワンちゃんに吠えられたりしたけど平気だった。とっても楽しかった。

 歌を歌いながら進んでると、やっとお兄ちゃんみたいな後ろ姿を見つけた。

「みーっけ!」

 お兄ちゃんが振り返る――けど、その人はお兄ちゃんじゃなかった。
 知らない人が怖い顔をする。それを見て急に不安になる。

「お兄ちゃん、どこー!」

 たくさんの目がやよいを見るから、隠れたくて細い道に逃げた。けど、真っ暗でもっと怖くなる。
 だから、そのまま走った。そしたら明るい場所に出た。けど、もうダメだ。

「お兄ちゃん……」

 涙が出てくる。ぽろぽろ零れだした時、後ろから声が聞こえた。

「――ちゃん、どこ行くの!」
「お兄ちゃん!?」

 ばっと振り向く。けど、そこには暗い道しかなかった。もう、怖くて入れない。

「お兄ちゃん、出てきてー!」

 周りの木が、生き物みたいで怖かった。変な世界に来ちゃったみたいで、涙が止まらない。
 もう、ママに会えないのは嫌だ。

「やよいちゃん!」

 さっきより、くっきりと聞こえた。もう一度振り返ると、お兄ちゃんが立っていた。

「どこ行ってたの! やよい探したんだよ!」

 そう言うと、お兄ちゃんはびっくりして悲しそうになる。

「……ごめんね。帰ろうか?」

 ずっと怖かったし、疲れたから頷くだけした。隣に立ったお兄ちゃんは、きょろきょろしている。
 やよいも真似してみた。けど、幼稚園はどこにもない。

「……幼稚園どっちか忘れちゃった」
「えっ、お兄ちゃんも……」

 お兄ちゃんを見ると、眉毛がハになっていた。二人して困ったさんだ。

「誰かに聞ければ良いんだけど……あっ」

 お兄ちゃんの見ている場所には、知らない女の人がいた。ワンちゃんもいるから多分お散歩中だ。

「やよいちゃん、聞いてみて?」

 言われて首を横に振った。知らない人とお喋りなんて恥ずかしくて出来ない。

「やだ、お兄ちゃん聞いて!」

 絶対に嫌だったから、しゃがみ込んだ。体操座りして、草にお尻をくっ付ける。
 お兄ちゃんは、そんなやよいの前にしゃがんだ。

「やよいちゃんごめん。お兄ちゃん聞けないんだ……」

 それを聞いてムッとしてしまう。助けて欲しいのに、何でやってくれないのか分からなかった。

「どうしてお兄ちゃんは誰かと喋れないの!? 見えないの!? 皆出来るのにお兄ちゃんだけ変!」

 だから、そう言っちゃった。

「……そうだね、お兄ちゃん変だね」

 けど、お兄ちゃんの凄く悲しい顔を見て、駄目な事を言ったんだと気付いた。
 変だって言ったら、嫌な気持ちになるって知ってたのに。

「……ごめんなさい」

 ごめんなさいの大切さを思い出し、小さく言った。そしてから、心の中で頑張ることを決める。

 そうだ、私はお姉さんになるんだから。

 女の人の方へ走った。服を引っ張って止めたら、ワンちゃんと一緒にこっちを見た。

「……あの、幼稚園ってどっちですか?」

 もじもじしながら聞くと、女の人は優しく笑ってくれた。



 園に帰ると、先生とママに怒られた。けど、帰ってきてくれて良かったと抱きしめてもくれた。声を掛けれた事を話すと、褒めてもくれた。

 それが本当に嬉しくて、これからもっと頑張れる気がした。

 今日は、特別に他の子より早く帰る。もっと特別に、ママと手を繋いで外を歩いてくことになった。それなのに。

「お兄ちゃん、また散歩かなぁ。ママ知らない?」

 さっきまで隣にいたのに、気付いたらいなくなっていた。最近、本当にいないことが多い。

「うーん、知らないなぁ。いないの?」
「よくね、いなくなっちゃうの」

 前はずっと隣にいたのに、今はいないことばっかりだ。お友達と遊べるからあんまり寂しくはないけど。

「そう。でもやよいちゃんは6才になるんだし、お兄ちゃんが居なくても大丈夫にならなきゃね」
「やよい大丈夫だよ。一人でもお喋り出来るもん」
「そっか、もうお姉さんだったね」

 でも、一人でどっかに行っちゃうのは駄目だよ。
 そんな言葉を聞きながら、もう一回周りを見てみた。けどお兄ちゃんは戻って来てなくて、残念だなぁと思った。

 一人でも頑張れることを、褒めてほしかったんだけどな。
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