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6歳のやよいとお兄ちゃん
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それから何日かして、やよいの誕生日が来た。それなのに、お兄ちゃんは帰ってきてくれなかった。
ここ何日か見てもいない。時々声は聞こえたけど、どこからなのか分からなかった。
夜、パパが帰ってきて、誕生パーティをした。やよいとママとパパの三人のパーティだ。
お兄ちゃんがいなくて寂しかったけど、楽しい方が勝っていっぱい笑った。
そして、寝る時間になった。6才になったから、一人で寝てみたいとママに言った。
けれど、やっぱり怖くて目が開いてしまっていた。
いつも、お兄ちゃんが居た場所を見てみる。でも、やっぱり誰もいなかった。
こんなに遅くまでお散歩なんて、やっぱりお兄ちゃんは変だ。絶対に変って言わないけど。
「――ちゃん、起きてる?」
ふっと、お兄ちゃんの声が降って来た。豆電球がついてるけど、体は見えない。
起き上がってみたけど、やっぱり見えなかった。
「起きてるよ。お部屋入って良いよ」
お兄ちゃんは、ちょっと静かになってまた喋りだす。声は小さめだ。
「……そのまま俺の話を聞いてくれる?」
「うん」
「やよいちゃん、6才の誕生日おめでとう。もう立派なお姉さんだね。俺がいなくても大丈夫なお姉さんだ」
「うん」
お兄ちゃんを真似して、声を小さくする。一人で頑張れる6才になれたことが、それをお祝いしてくれたことが嬉しかった。
けれど――。
「あのね、やよいちゃん。吃驚するかもしれないけど、俺、今もやよいちゃんの隣にいるんだ」
「そうなの?」
隣を見てみたけど、部屋しか見えなかった。気付かない内に、やよいの前でも透明人間になっちゃったみたいだ。
「多分ね、俺のこと見えなくなってると思うんだ。お姉さんになったから、神さまがもう大丈夫って思ったのかも。だからね、きっと声も聞こえなくなっちゃうと思う」
最後の言葉を聞いて、嫌だと思った。そんな風になったら、どこにいるのかも分からなくなってしまう。
「やだ!」
「お兄ちゃんも、やよいちゃんとお話できなくなるのは寂しいよ。でも、やよいちゃんがママや皆と楽しくしててくれるなら、お兄ちゃんの寂しさはどこかに行っちゃうんだ」
「やだぁ……」
悲しくて涙が出てきて、お布団で目を拭いた。
生まれた時から一緒だったのに、お話出来なくなったら寂しい。ママとパパが一緒に居れなくても、お兄ちゃんと居れたから寂しくなかったのに。
「やよいちゃん、聞いて。俺はずっとやよいちゃんの隣にいる。見えなくなっても、聞こえなくなっても、ずっとずっと隣に居て、やよいちゃんのこと見てる」
優しい声が聞こえた。隣に居ると言われたから、もう一度、顔を上げて隣を見てみる。
やっぱりちゃんと見えなかったけど、お兄ちゃんが居るのは分かった。
「やよいちゃん、手を出して」
「……うん」
手の平を上にして、右手を出す。
「今ね、やよいちゃんの手に俺の手を乗せてるよ。俺はずっとここにいるから。やよいちゃんのすぐ隣にいるから。だから頑張れ、やよいちゃん」
重なった手が、その向こうのお兄ちゃんが、ほんの少しだけ見えた気がした。にっこり優しい顔で、もう片方の手をグーにしている。
頑張れって言われたから、頑張らなくちゃ。だって、やよいはお姉さんだから。
「……うん!」
「やよいちゃん、俺の妹になってくれてありがとう。ずっと大好きだよ」
「やよいも大好き! ずーっと好き!」
その日を最後に、お兄ちゃんの声は聞こえなくなった。
*
私のお兄ちゃんは、他の人とは少し違う。
私にもお母さんにも、その他の誰にも見えない。けれど、隣にいて見守ってくれる。とっても優しくて、自慢のお兄ちゃんだ。
大好きで、大切な、私のお兄ちゃんだ。
ここ何日か見てもいない。時々声は聞こえたけど、どこからなのか分からなかった。
夜、パパが帰ってきて、誕生パーティをした。やよいとママとパパの三人のパーティだ。
お兄ちゃんがいなくて寂しかったけど、楽しい方が勝っていっぱい笑った。
そして、寝る時間になった。6才になったから、一人で寝てみたいとママに言った。
けれど、やっぱり怖くて目が開いてしまっていた。
いつも、お兄ちゃんが居た場所を見てみる。でも、やっぱり誰もいなかった。
こんなに遅くまでお散歩なんて、やっぱりお兄ちゃんは変だ。絶対に変って言わないけど。
「――ちゃん、起きてる?」
ふっと、お兄ちゃんの声が降って来た。豆電球がついてるけど、体は見えない。
起き上がってみたけど、やっぱり見えなかった。
「起きてるよ。お部屋入って良いよ」
お兄ちゃんは、ちょっと静かになってまた喋りだす。声は小さめだ。
「……そのまま俺の話を聞いてくれる?」
「うん」
「やよいちゃん、6才の誕生日おめでとう。もう立派なお姉さんだね。俺がいなくても大丈夫なお姉さんだ」
「うん」
お兄ちゃんを真似して、声を小さくする。一人で頑張れる6才になれたことが、それをお祝いしてくれたことが嬉しかった。
けれど――。
「あのね、やよいちゃん。吃驚するかもしれないけど、俺、今もやよいちゃんの隣にいるんだ」
「そうなの?」
隣を見てみたけど、部屋しか見えなかった。気付かない内に、やよいの前でも透明人間になっちゃったみたいだ。
「多分ね、俺のこと見えなくなってると思うんだ。お姉さんになったから、神さまがもう大丈夫って思ったのかも。だからね、きっと声も聞こえなくなっちゃうと思う」
最後の言葉を聞いて、嫌だと思った。そんな風になったら、どこにいるのかも分からなくなってしまう。
「やだ!」
「お兄ちゃんも、やよいちゃんとお話できなくなるのは寂しいよ。でも、やよいちゃんがママや皆と楽しくしててくれるなら、お兄ちゃんの寂しさはどこかに行っちゃうんだ」
「やだぁ……」
悲しくて涙が出てきて、お布団で目を拭いた。
生まれた時から一緒だったのに、お話出来なくなったら寂しい。ママとパパが一緒に居れなくても、お兄ちゃんと居れたから寂しくなかったのに。
「やよいちゃん、聞いて。俺はずっとやよいちゃんの隣にいる。見えなくなっても、聞こえなくなっても、ずっとずっと隣に居て、やよいちゃんのこと見てる」
優しい声が聞こえた。隣に居ると言われたから、もう一度、顔を上げて隣を見てみる。
やっぱりちゃんと見えなかったけど、お兄ちゃんが居るのは分かった。
「やよいちゃん、手を出して」
「……うん」
手の平を上にして、右手を出す。
「今ね、やよいちゃんの手に俺の手を乗せてるよ。俺はずっとここにいるから。やよいちゃんのすぐ隣にいるから。だから頑張れ、やよいちゃん」
重なった手が、その向こうのお兄ちゃんが、ほんの少しだけ見えた気がした。にっこり優しい顔で、もう片方の手をグーにしている。
頑張れって言われたから、頑張らなくちゃ。だって、やよいはお姉さんだから。
「……うん!」
「やよいちゃん、俺の妹になってくれてありがとう。ずっと大好きだよ」
「やよいも大好き! ずーっと好き!」
その日を最後に、お兄ちゃんの声は聞こえなくなった。
*
私のお兄ちゃんは、他の人とは少し違う。
私にもお母さんにも、その他の誰にも見えない。けれど、隣にいて見守ってくれる。とっても優しくて、自慢のお兄ちゃんだ。
大好きで、大切な、私のお兄ちゃんだ。
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