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雨音を聞くと、海老天を思い出す。
*
私にとって雨は、実体のない槍みたいな物だ。その武器に、子供の頃から悩まされてきた。
と言うのも、気候の変化にめっぽう弱く、雨の日は必ず体調を崩すのである。
なんなら、痛みで降雨を予測する――そんな能力まであるくらいだ。これほど誰かに譲渡したい物はないが。
ローテーブルの上のみかんが、食べかけのまま進まない。強まる頭痛は、大好きなはずのバラエティーさえ歪ませた。
暖房の効いた部屋の外、雨音が音楽会を開いている。テレビの音声も仲間に加え、大変迷惑だ。
「……頭痛強くなってきたから一旦寝るわ……」
隣の旦那に声をかけ、壁に寄り添うソファに移動する。我が物顔でいる寝具に身を包み、肘置きを枕に横たわった。
「テレビ消す? 薬は飲んだ?」
「飲んだけどあんま効き目ないかも……テレビはそのままでいいよ」
「大変だね。俺出来ることある?」
「よくあることだし、私のことは気にせず過ごして欲しいかな」
現在、私は結婚し、旦那と二人それなりに楽しく暮らしている。
仕事で家を空けがちではあるが、旦那は本当に良い人だ。おっとりしていて優しいし、気配りも出来るし。かといって余計な干渉はないし。
「分かった」
言いながら、旦那はチャンネルを切り替える。馬鹿騒ぎは幕を閉じ、静かなトーク番組が流れ出した。
何気ない配慮に喜びを蓄える。曲調を変えた合唱を耳に、私は目を閉じた。
ぱちぱち。ぴちゃん。よってですねー。さあああ。ぱちり。たーん。そうですか。ざあざあ。ぱちちっ。
ああ、雨音を聞くと浮かんでくる。目蓋の裏、踊っている海老天が。
*
私にとって雨は、実体のない槍みたいな物だ。その武器に、子供の頃から悩まされてきた。
と言うのも、気候の変化にめっぽう弱く、雨の日は必ず体調を崩すのである。
なんなら、痛みで降雨を予測する――そんな能力まであるくらいだ。これほど誰かに譲渡したい物はないが。
ローテーブルの上のみかんが、食べかけのまま進まない。強まる頭痛は、大好きなはずのバラエティーさえ歪ませた。
暖房の効いた部屋の外、雨音が音楽会を開いている。テレビの音声も仲間に加え、大変迷惑だ。
「……頭痛強くなってきたから一旦寝るわ……」
隣の旦那に声をかけ、壁に寄り添うソファに移動する。我が物顔でいる寝具に身を包み、肘置きを枕に横たわった。
「テレビ消す? 薬は飲んだ?」
「飲んだけどあんま効き目ないかも……テレビはそのままでいいよ」
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「よくあることだし、私のことは気にせず過ごして欲しいかな」
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「分かった」
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何気ない配慮に喜びを蓄える。曲調を変えた合唱を耳に、私は目を閉じた。
ぱちぱち。ぴちゃん。よってですねー。さあああ。ぱちり。たーん。そうですか。ざあざあ。ぱちちっ。
ああ、雨音を聞くと浮かんでくる。目蓋の裏、踊っている海老天が。
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