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最終話
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母の顔が見えなくなり、変わりに雨音が響きだす。現実世界に帰ったのだと、すぐ把握した。脳はまだ霧に包まれていたが。
快適な室温と、崇拝すべき薬のお陰で、痛みが大分撤退している。寝ぼけ眼で起き上がると、
「ウワァ――――!」
と旦那の雄叫びが聞こえた。出所はお隣のキッチンからだ。何事かと急速に意識が冴えだす。瞬間、気付いた。
雨の音だと思ってたけど、これ揚げ物の音だ。
音の中、旦那が現れる。ハイネックには、芸術的な模様が描かれていた。
「あ、起きた? 今海老天作ってみてるんだけどさ……揚がったかどうやって確認するの?」
調べたら出るかな……と半分独言し、スマホを手に取る。検索ワードに苦戦しているのか、打っては何度か首を傾げた。
「……急にどうしたの?」
「え? 前に言ってたでしょ、雨の音を聞くと海老天を思い出すって。その話思い出してね、作ってみてるの」
「なるほど」
「元気出そう?」
回答を見つけたのか、何度か頷く。それから顔をあげ、にかっと笑った。
母親を思い出す。感慨深さと喜びが私の顔に滲んだ。と同時に気付く。
「元気はめっちゃ出る! でも油! 海老!」
「あっ! 入れっぱなしだー!」
すっかり失念していたのか、旦那は慌てて駆け出した。瞬間移動したと思うと、再び雄叫びが聞こえてくる。
少しして音が静まった。いつの間にか雨も止んでいたようだ。やや小さくなった旦那が現れる。手元の皿には黒い物体があった。
「焦げちゃった……」
あまりに完璧な失敗に、思わず吹き出す。旦那は謝罪しながらも、吊られて肩を震わせはじめた。立派なお焦げが――幾つだろう。同化しすぎて分からない。
結果はこの通りだが、私を思っての挑戦だったのだ。嬉しくない訳がない。
「ま、まぁ……衣取れば食べれるよ……ありがとね……」
「それ海老天じゃない……」
二人して声を震わせながら、海老天(仮)を見つめた。まぁ、時には黒いドレスも悪くないよ、海老くん。なんてね。
雨音を聞くと、海老天を思い出す。
海老天を見ると、あの優しさを思い出す。
あの優しさを思い出す度、愛されていたことを知る。
雨音を聞くと、私は温かい気持ちに満たされる。
快適な室温と、崇拝すべき薬のお陰で、痛みが大分撤退している。寝ぼけ眼で起き上がると、
「ウワァ――――!」
と旦那の雄叫びが聞こえた。出所はお隣のキッチンからだ。何事かと急速に意識が冴えだす。瞬間、気付いた。
雨の音だと思ってたけど、これ揚げ物の音だ。
音の中、旦那が現れる。ハイネックには、芸術的な模様が描かれていた。
「あ、起きた? 今海老天作ってみてるんだけどさ……揚がったかどうやって確認するの?」
調べたら出るかな……と半分独言し、スマホを手に取る。検索ワードに苦戦しているのか、打っては何度か首を傾げた。
「……急にどうしたの?」
「え? 前に言ってたでしょ、雨の音を聞くと海老天を思い出すって。その話思い出してね、作ってみてるの」
「なるほど」
「元気出そう?」
回答を見つけたのか、何度か頷く。それから顔をあげ、にかっと笑った。
母親を思い出す。感慨深さと喜びが私の顔に滲んだ。と同時に気付く。
「元気はめっちゃ出る! でも油! 海老!」
「あっ! 入れっぱなしだー!」
すっかり失念していたのか、旦那は慌てて駆け出した。瞬間移動したと思うと、再び雄叫びが聞こえてくる。
少しして音が静まった。いつの間にか雨も止んでいたようだ。やや小さくなった旦那が現れる。手元の皿には黒い物体があった。
「焦げちゃった……」
あまりに完璧な失敗に、思わず吹き出す。旦那は謝罪しながらも、吊られて肩を震わせはじめた。立派なお焦げが――幾つだろう。同化しすぎて分からない。
結果はこの通りだが、私を思っての挑戦だったのだ。嬉しくない訳がない。
「ま、まぁ……衣取れば食べれるよ……ありがとね……」
「それ海老天じゃない……」
二人して声を震わせながら、海老天(仮)を見つめた。まぁ、時には黒いドレスも悪くないよ、海老くん。なんてね。
雨音を聞くと、海老天を思い出す。
海老天を見ると、あの優しさを思い出す。
あの優しさを思い出す度、愛されていたことを知る。
雨音を聞くと、私は温かい気持ちに満たされる。
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