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7(クリストフェル)
フレデリカに年月を費やした甲斐があった。
クルーム侯爵家を手に入れることはできなかったが、侯爵家に婿入りし女侯爵を支えていく姿勢を周囲に示していたのが功を奏した。
僕にはすぐ新たな縁談が舞い込んだのだ。
相手はブロムダール侯爵家の令嬢ダニエラ。
フレデリカより二歳若い。
会ってみると、華奢で真面目くさったフレデリカより何倍もスタイルがよかったのも幸運だった。
婚約した頃、フレデリカはまだ少女だった。
だから小枝のように痩せていてもそれが好ましかったし、胸や腰が平坦でも当然だった。年月が経ち大人になったフレデリカの魅力は、もはやその童顔にしか残されておらず、しかも爵位を継ぐと意気込んでいるものだから全く可愛げの欠片もないという始末。
女としての魅力で言えば、年増とはいえドロテアの方がまだましだった。
クルーム侯爵が美貌の未亡人に溺れるのも、同じ男としては納得だ。だから番狂わせを食い止めるのがフレデリカの仕事だった。フレデリカは腹違いの弟に呆気なく負けを認めたのだ。許し難い裏切りだった。
僕を愛しているなら、僕の為にもクルーム侯爵家を継ぐべきだった。
サンドストレーム侯爵家に生まれながらも兄を持つ僕は、順番を待つには残酷なほど不利だった。父や兄たちに何かあろうと、僕の甥が当主として抜擢される。
同格の侯爵家へ婿入りし、いずれは実権を握る。
それが僕の生きるべき最低限の人生だった。
その点、フレデリカはやや我が強すぎたきらいがある。
いっそドロテアに感謝したい。それもこれも、僕の新たな縁談あってこそだ。クルーム侯爵家の人間はダニエラに感謝してもしきれないことだろう。
僕をこけにした報いを受けずに済んだのだから。
復讐は無意味だ。
すぐそこに手に取れる幸福がある場合は、特に。
フレデリカは旅に出ると噂で聞いた。
惨めで恥ずかしくて、とても彼女を知る人々の中では息もできないのだろう。せいぜい世界中を逃げ回るといい。
爵位を継げない生意気な女など必要ない。
僕は、ずっと美人でずっと魅力的なダニエラと結婚する。フレデリカに誠意を尽くすより、ダニエラに愛を注ぐ方がよほど簡単だろう。
しかも、今度の縁談は条件がいい。
ダニエラとの間に男児が生まれるまでは、この僕が侯爵を名乗れる。
爵位を手に入れられる!
万が一、娘しか生まれなかった場合でさえ、親戚から適当な後継者を見繕うまで僕がブロムダール侯爵でいいと言うのだ。
これこそ正しい扱いだ。
フレデリカは相応しくなかった。
否、クルーム侯爵家が相応しくなかった。
全く失礼な連中だった。
ブロムダール侯爵家の栄華でクルーム侯爵家を後悔させてやる。
僕はブロムダール侯爵家で幸福と称賛を手に入れる。アベルなど、所詮、没落貴族の末裔だ。僕を大切にしておけばよかったのに。クルーム侯爵家はいずれ落ちぶれる。馬鹿め。
そもそもアベルはクルーム侯爵の息子なのか?
「……く、ははは……これは傑作だ。僕は天才か!」
そうだ。
なぜ、誰も疑わないのだろうか。
豊満なドロテアがカールフェルト伯爵亡き後おとなしく女一人で過ごせたはずがない。誰もそう口に出さないのは、下品で忌むべき行為だからだ。
だが、疑う価値はある。
ドロテアは、いちばん条件のいい男と再婚したではないか。
産声さえ上げられなかった息子と同時に妻さえ亡くし、傲慢な一人娘を後継者に据えるしかなかったクルーム侯爵と見事に傷を舐めあった。
上品な顔をして、悲劇の未亡人を演じ、謙虚な継母も演じ続け、ついに男児を産み、手に入れた。
立派だ。
軽蔑と称賛を同時に感じる己の心が、少し面白い。
人生は面白い。
僕は生まれながらにして外れ籤を引かされたと悲観して生きてきた。だが、籤は、引き直すことができる。それで逆転できる。
あの女の転落劇は今思うと喜劇だ。
女のくせに、侯爵になるなど身の程知らずも甚だしい。
「さようなら、世界でいちばん可哀相なフレデリカ。僕は、幸せになるよ」
君は何処とも知れぬ異国の地で惨めに野垂れ死ぬといい。
だがもっと惨めな姿で現れるなら歓迎しよう。その時は、ブロムダール侯爵として嗤ってやる。ひれ伏すなら弄んでやってもいい。
僕の上に君臨していたフレデリカを、僕の足で蹂躙する。
どこまでも堕とし、あらゆる方法で無様に泣かせるのを想像していると、激しく興奮できることに気づいた。
僕はこの想像が気に入り、日々繰り返し、酔い痴れながら、新たな婚約発表の日を待った。
あの女は、最後まで僕を粗末に扱ったのだ。
素晴らしい想像を現実にしても、いいかもしれない。僕はブロムダール侯爵になる。それが、できないわけではないのだから。
クルーム侯爵家を手に入れることはできなかったが、侯爵家に婿入りし女侯爵を支えていく姿勢を周囲に示していたのが功を奏した。
僕にはすぐ新たな縁談が舞い込んだのだ。
相手はブロムダール侯爵家の令嬢ダニエラ。
フレデリカより二歳若い。
会ってみると、華奢で真面目くさったフレデリカより何倍もスタイルがよかったのも幸運だった。
婚約した頃、フレデリカはまだ少女だった。
だから小枝のように痩せていてもそれが好ましかったし、胸や腰が平坦でも当然だった。年月が経ち大人になったフレデリカの魅力は、もはやその童顔にしか残されておらず、しかも爵位を継ぐと意気込んでいるものだから全く可愛げの欠片もないという始末。
女としての魅力で言えば、年増とはいえドロテアの方がまだましだった。
クルーム侯爵が美貌の未亡人に溺れるのも、同じ男としては納得だ。だから番狂わせを食い止めるのがフレデリカの仕事だった。フレデリカは腹違いの弟に呆気なく負けを認めたのだ。許し難い裏切りだった。
僕を愛しているなら、僕の為にもクルーム侯爵家を継ぐべきだった。
サンドストレーム侯爵家に生まれながらも兄を持つ僕は、順番を待つには残酷なほど不利だった。父や兄たちに何かあろうと、僕の甥が当主として抜擢される。
同格の侯爵家へ婿入りし、いずれは実権を握る。
それが僕の生きるべき最低限の人生だった。
その点、フレデリカはやや我が強すぎたきらいがある。
いっそドロテアに感謝したい。それもこれも、僕の新たな縁談あってこそだ。クルーム侯爵家の人間はダニエラに感謝してもしきれないことだろう。
僕をこけにした報いを受けずに済んだのだから。
復讐は無意味だ。
すぐそこに手に取れる幸福がある場合は、特に。
フレデリカは旅に出ると噂で聞いた。
惨めで恥ずかしくて、とても彼女を知る人々の中では息もできないのだろう。せいぜい世界中を逃げ回るといい。
爵位を継げない生意気な女など必要ない。
僕は、ずっと美人でずっと魅力的なダニエラと結婚する。フレデリカに誠意を尽くすより、ダニエラに愛を注ぐ方がよほど簡単だろう。
しかも、今度の縁談は条件がいい。
ダニエラとの間に男児が生まれるまでは、この僕が侯爵を名乗れる。
爵位を手に入れられる!
万が一、娘しか生まれなかった場合でさえ、親戚から適当な後継者を見繕うまで僕がブロムダール侯爵でいいと言うのだ。
これこそ正しい扱いだ。
フレデリカは相応しくなかった。
否、クルーム侯爵家が相応しくなかった。
全く失礼な連中だった。
ブロムダール侯爵家の栄華でクルーム侯爵家を後悔させてやる。
僕はブロムダール侯爵家で幸福と称賛を手に入れる。アベルなど、所詮、没落貴族の末裔だ。僕を大切にしておけばよかったのに。クルーム侯爵家はいずれ落ちぶれる。馬鹿め。
そもそもアベルはクルーム侯爵の息子なのか?
「……く、ははは……これは傑作だ。僕は天才か!」
そうだ。
なぜ、誰も疑わないのだろうか。
豊満なドロテアがカールフェルト伯爵亡き後おとなしく女一人で過ごせたはずがない。誰もそう口に出さないのは、下品で忌むべき行為だからだ。
だが、疑う価値はある。
ドロテアは、いちばん条件のいい男と再婚したではないか。
産声さえ上げられなかった息子と同時に妻さえ亡くし、傲慢な一人娘を後継者に据えるしかなかったクルーム侯爵と見事に傷を舐めあった。
上品な顔をして、悲劇の未亡人を演じ、謙虚な継母も演じ続け、ついに男児を産み、手に入れた。
立派だ。
軽蔑と称賛を同時に感じる己の心が、少し面白い。
人生は面白い。
僕は生まれながらにして外れ籤を引かされたと悲観して生きてきた。だが、籤は、引き直すことができる。それで逆転できる。
あの女の転落劇は今思うと喜劇だ。
女のくせに、侯爵になるなど身の程知らずも甚だしい。
「さようなら、世界でいちばん可哀相なフレデリカ。僕は、幸せになるよ」
君は何処とも知れぬ異国の地で惨めに野垂れ死ぬといい。
だがもっと惨めな姿で現れるなら歓迎しよう。その時は、ブロムダール侯爵として嗤ってやる。ひれ伏すなら弄んでやってもいい。
僕の上に君臨していたフレデリカを、僕の足で蹂躙する。
どこまでも堕とし、あらゆる方法で無様に泣かせるのを想像していると、激しく興奮できることに気づいた。
僕はこの想像が気に入り、日々繰り返し、酔い痴れながら、新たな婚約発表の日を待った。
あの女は、最後まで僕を粗末に扱ったのだ。
素晴らしい想像を現実にしても、いいかもしれない。僕はブロムダール侯爵になる。それが、できないわけではないのだから。
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