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12(レオン)
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ヨハンが愕然とした表情で僕を見た。
まるで僕が理解し難い暴挙に及んでいるとでも言いたげな非難の篭った眼差しだった。
それでもヨハンの手を御令嬢の体から引き剥がす。
「嫌がってる」
「当然だ。彼女はこんな所にいていい人じゃない」
「僕を呼んだ」
「君なんか相応しくない」
僕たちに起きたことを思えば正気を疑うくらいには穏やかな性格のヨハンが、初めて、他者に怒りを向けた。具体的には僕に。
だが構っていられない。ペリドットの瞳は今や涙に濡れている。
激しい胸の痛みに戸惑いながら、僕はできるだけ穏便にヨハンを立たせ数歩下がらせた。
「知り合い?」
耳打ちで尋ねるとヨハンは小さく首を振り否定する。
ということは、ヨハンの方で一方的に知っているというだけらしい。
其々が御令嬢と至近距離であることには違いなく、言葉で伝えるのは難しいが、触ってはいけない存在だと理解しているこの気持ちをヨハンに伝えようと僕は必死に魂を込めて見つめた。
「駄目だよ。お帰り頂こう」
伝わらなかった。
僕だって強くそう思ったし、試みようともした。
「いいえ。帰りません」
御令嬢が涙を堪えて低く呻る。
この調子なのだ。ヨハンが僕を責めて解決すると思っているのが間違いだ。
「おい、お客様の前で失礼だろう」
館の主でもあるザシャに戒められたが、裸同然の奴に言われたくはない。
それはヨハンも同じようで、僕への非難の眼差しとは比べ物にならない叱責を込めた鋭い一瞥をザシャに向ける。
「着替えて」
命令だった。
館の主はザシャであるが、血筋の上ではヨハンが誰よりも権力を保持している。
ザシャは肩を竦めはしたがヨハンには逆らわず階段を上って行った。喉が渇いて下りて来たのだろうが、こっちはそれどころではない。
「あなたも外して。一体どなたか存じませんけれど、私はレオンを買うんです」
切迫した声でヨハンを追い払おうとしている御令嬢がとにかく痛ましく、僕は自身の耐え難い屈辱的な立場を改めて呪った。
僕と比べればさほど我が身を呪っていなさそうなヨハンは、やはり御令嬢にも強気に出る。
「駄目です。何か思い詰めているのだろうけど、こんな場所に来なくてもあなたなら解決できるはずだ」
「知ったような口をお聞きになるのね」
ついに一筋の涙を零し、御令嬢が怒りの表情で立ち上がった。
「私はあなたなど知りません。口答えする男娼などお断りよ。レオンは違う。そうよね?あなたは私の望みを叶えると言った。ほら、受け取って。あなたに決めた。レオン、まずはこの知ったかぶりの男娼を追い払って」
ヨハンが御令嬢と僕の間に断固として立ちはだかり説得にかかる。
「いけません。ねえ、どうか落ち着いて。男娼を買うなんて全くあなたらしくない」
「わかっています!」
御令嬢が叫んだ。
その激しさに僕もヨハンも息を飲んだ。
ただ階段を上り切ったザシャだけは違った。
突然、意味不明な言葉を玄関広間で揉めている僕らに投げて寄こした。
「落ち着いてくださいよ奥様。いい年して若い男と揉めるなんて情けない。もっと堂々と弄んでやってください。俺たちは逃げませんから」
「……は?」
御令嬢が迫真の表情のままザシャを見上げる。
僕とヨハンの頭上を遥かに超えた先にいるザシャを凄まじい眼力で睨んだ次の瞬間、御令嬢ははっとして口を押さえた。
振り仰いで見てもよくわからなかったが、同じく見上げていたヨハンは一言呟いた。
「扉が開いているんだ」
「!」
盗み聞きされたのか。
だからザシャは御令嬢の為人とは全く違う人物であるかのように、わざわざ大声で揶揄した。
「……」
玄関広間は静寂に包まれた。
とにかく御令嬢を諦めさせて帰らせなくてはならないという使命感と、抱えた事情の片鱗を垣間見てしまったことから膨れあがる心配で、気が気ではないという焦燥感に僕は酷く混乱した。だが理性を失う程ではない。
「大丈夫。ちょっと声が聞こえたくらいで誰かまではわかりませんよ」
僕が安心させようとして掛けた声は、御令嬢にとって純粋な応援と受け取られてしまったらしい。
頬の涙を手の甲で拭うと、御令嬢は凛として僕をまっすぐに見上げ、口元だけ作り物の笑みを刻んだ。
重要なのは、僕がまだ金を受け取ってはいないということだ。
重そうだからといって手を貸してはいけない。
「訳を聞かせてもらえませんか。契約などしなくても、私なら個人的に力になれるかもしれません」
僕のように悩む必要がないヨハンが、重いはずの麻袋をただ助ける為だけに持とうと手を伸ばしている。御令嬢は当然のように後ずさりヨハンの手を避ける。
「私が買ったのはレオンです」
「いけません。私たちは受け取りません。あなたにそんなことはさせない」
清楚で真面目そうな小柄な丸顔の貴族令嬢と、男娼に堕ちた顔のいい元貴族の男、二人は再び一触即発の緊迫感を張り巡らせ睨み合う。
僕は御令嬢の手から大金の入っているらしい麻袋を取った。
「レオン!」
ヨハンは怒るとこんな顔になるのか……などと頭の片隅で思いながら、御令嬢と目を合わせる。
視線で僕は味方だと伝えた。
それは相手も承知していたはずだ。彼女の求める要件を実際に耳で聞いて承諾したのはこの僕なのだから。僕が契約の意思を持って金を受け取ったと正しく伝わったはずだった。
「聞き分けてくれ。この方は由緒正しい敬虔な伯爵家の──」
「やめて」
御令嬢がヨハンを押し退ける。
小さな手にどれだけの力が篭っていたのかわからないが、ヨハンは身動ぎ一つしなかったものの口を噤んだ。
御令嬢がうっすらと笑みを浮かべる。
「私の身分を明かす権限など無いわ。レオン、耳を貸してちょうだい」
「……っ」
ヨハンは悔しそうに眉間に皴を寄せ、一歩退く。
僕は小柄な御令嬢の為に前屈みになると、触れてしまわないよう注意しながら口の傍に左耳を寄せる。
「私は」
ずしりと重い麻袋は名を明かされる重大さを現実的に教えてくれる。
僕は刹那、息を飲んだ。引き返せなくなる予感が確かにあった。
「ヒルデガルド。ビズマーク伯爵令嬢ヒルデガルドです」
ぬるい吐息が、耳に触れた。
まるで僕が理解し難い暴挙に及んでいるとでも言いたげな非難の篭った眼差しだった。
それでもヨハンの手を御令嬢の体から引き剥がす。
「嫌がってる」
「当然だ。彼女はこんな所にいていい人じゃない」
「僕を呼んだ」
「君なんか相応しくない」
僕たちに起きたことを思えば正気を疑うくらいには穏やかな性格のヨハンが、初めて、他者に怒りを向けた。具体的には僕に。
だが構っていられない。ペリドットの瞳は今や涙に濡れている。
激しい胸の痛みに戸惑いながら、僕はできるだけ穏便にヨハンを立たせ数歩下がらせた。
「知り合い?」
耳打ちで尋ねるとヨハンは小さく首を振り否定する。
ということは、ヨハンの方で一方的に知っているというだけらしい。
其々が御令嬢と至近距離であることには違いなく、言葉で伝えるのは難しいが、触ってはいけない存在だと理解しているこの気持ちをヨハンに伝えようと僕は必死に魂を込めて見つめた。
「駄目だよ。お帰り頂こう」
伝わらなかった。
僕だって強くそう思ったし、試みようともした。
「いいえ。帰りません」
御令嬢が涙を堪えて低く呻る。
この調子なのだ。ヨハンが僕を責めて解決すると思っているのが間違いだ。
「おい、お客様の前で失礼だろう」
館の主でもあるザシャに戒められたが、裸同然の奴に言われたくはない。
それはヨハンも同じようで、僕への非難の眼差しとは比べ物にならない叱責を込めた鋭い一瞥をザシャに向ける。
「着替えて」
命令だった。
館の主はザシャであるが、血筋の上ではヨハンが誰よりも権力を保持している。
ザシャは肩を竦めはしたがヨハンには逆らわず階段を上って行った。喉が渇いて下りて来たのだろうが、こっちはそれどころではない。
「あなたも外して。一体どなたか存じませんけれど、私はレオンを買うんです」
切迫した声でヨハンを追い払おうとしている御令嬢がとにかく痛ましく、僕は自身の耐え難い屈辱的な立場を改めて呪った。
僕と比べればさほど我が身を呪っていなさそうなヨハンは、やはり御令嬢にも強気に出る。
「駄目です。何か思い詰めているのだろうけど、こんな場所に来なくてもあなたなら解決できるはずだ」
「知ったような口をお聞きになるのね」
ついに一筋の涙を零し、御令嬢が怒りの表情で立ち上がった。
「私はあなたなど知りません。口答えする男娼などお断りよ。レオンは違う。そうよね?あなたは私の望みを叶えると言った。ほら、受け取って。あなたに決めた。レオン、まずはこの知ったかぶりの男娼を追い払って」
ヨハンが御令嬢と僕の間に断固として立ちはだかり説得にかかる。
「いけません。ねえ、どうか落ち着いて。男娼を買うなんて全くあなたらしくない」
「わかっています!」
御令嬢が叫んだ。
その激しさに僕もヨハンも息を飲んだ。
ただ階段を上り切ったザシャだけは違った。
突然、意味不明な言葉を玄関広間で揉めている僕らに投げて寄こした。
「落ち着いてくださいよ奥様。いい年して若い男と揉めるなんて情けない。もっと堂々と弄んでやってください。俺たちは逃げませんから」
「……は?」
御令嬢が迫真の表情のままザシャを見上げる。
僕とヨハンの頭上を遥かに超えた先にいるザシャを凄まじい眼力で睨んだ次の瞬間、御令嬢ははっとして口を押さえた。
振り仰いで見てもよくわからなかったが、同じく見上げていたヨハンは一言呟いた。
「扉が開いているんだ」
「!」
盗み聞きされたのか。
だからザシャは御令嬢の為人とは全く違う人物であるかのように、わざわざ大声で揶揄した。
「……」
玄関広間は静寂に包まれた。
とにかく御令嬢を諦めさせて帰らせなくてはならないという使命感と、抱えた事情の片鱗を垣間見てしまったことから膨れあがる心配で、気が気ではないという焦燥感に僕は酷く混乱した。だが理性を失う程ではない。
「大丈夫。ちょっと声が聞こえたくらいで誰かまではわかりませんよ」
僕が安心させようとして掛けた声は、御令嬢にとって純粋な応援と受け取られてしまったらしい。
頬の涙を手の甲で拭うと、御令嬢は凛として僕をまっすぐに見上げ、口元だけ作り物の笑みを刻んだ。
重要なのは、僕がまだ金を受け取ってはいないということだ。
重そうだからといって手を貸してはいけない。
「訳を聞かせてもらえませんか。契約などしなくても、私なら個人的に力になれるかもしれません」
僕のように悩む必要がないヨハンが、重いはずの麻袋をただ助ける為だけに持とうと手を伸ばしている。御令嬢は当然のように後ずさりヨハンの手を避ける。
「私が買ったのはレオンです」
「いけません。私たちは受け取りません。あなたにそんなことはさせない」
清楚で真面目そうな小柄な丸顔の貴族令嬢と、男娼に堕ちた顔のいい元貴族の男、二人は再び一触即発の緊迫感を張り巡らせ睨み合う。
僕は御令嬢の手から大金の入っているらしい麻袋を取った。
「レオン!」
ヨハンは怒るとこんな顔になるのか……などと頭の片隅で思いながら、御令嬢と目を合わせる。
視線で僕は味方だと伝えた。
それは相手も承知していたはずだ。彼女の求める要件を実際に耳で聞いて承諾したのはこの僕なのだから。僕が契約の意思を持って金を受け取ったと正しく伝わったはずだった。
「聞き分けてくれ。この方は由緒正しい敬虔な伯爵家の──」
「やめて」
御令嬢がヨハンを押し退ける。
小さな手にどれだけの力が篭っていたのかわからないが、ヨハンは身動ぎ一つしなかったものの口を噤んだ。
御令嬢がうっすらと笑みを浮かべる。
「私の身分を明かす権限など無いわ。レオン、耳を貸してちょうだい」
「……っ」
ヨハンは悔しそうに眉間に皴を寄せ、一歩退く。
僕は小柄な御令嬢の為に前屈みになると、触れてしまわないよう注意しながら口の傍に左耳を寄せる。
「私は」
ずしりと重い麻袋は名を明かされる重大さを現実的に教えてくれる。
僕は刹那、息を飲んだ。引き返せなくなる予感が確かにあった。
「ヒルデガルド。ビズマーク伯爵令嬢ヒルデガルドです」
ぬるい吐息が、耳に触れた。
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