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21(ジェーン)

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うんざりする悪魔の集会は二日半続き、パメラ夫人お抱えの医師が中断を提言したタイミングでお開きとなった。

精神的に疲弊して帰宅した私は呆然としながら長い時間をかけて入浴し、その後はベッドで泥のように眠った。

併し父に揺り起こされた。

多忙を極めているくせに……。
私を通して特注のソフィア号を作っている最中の父は、意気揚々として枕元に坐り満面の笑みを浮かべ娘の顔を覗き込んだ。

「どうだった。王女様は、何か仰っていたか?ん?」

疲労と眠気で朦朧としながら私は父の顔を薙ぎ払った。

「うるさい……」

父は上機嫌でひょいと避ける。
それから娘の私に見せるべきではないニヤケ顔で手を揉み合わせ独り言ちる。

「秘密の船なんて、まったくいけない王女様だ。隠れてどんな悪い遊びをなさるおつもりやら」
「……」

私が寝呆けているから何を言ってもいいと思っているのだと呆れたが、どうも違うらしい。
父は無遠慮に私の脇腹辺りを揺さぶった。今度こそ吐くかと思った。

「ちょうどお前が留守の間もな、この辺で娼館の場所を訪ね回ったお嬢さんがいたらしい。男娼の館に行きたくて、同業者の娼婦に聞いて回っていたというのが真相だってよ。世も末だ」
「馬鹿じゃないの……?」
「身形もきちんとした、えらく金払いのいい上品な御令嬢だったそうだ。密かに流行っているのかな?」
「……」

次第に意識がはっきりとしてくると、私は父の話に他人事ではないものを感じ始めた。

「どんな人……?」
「え?」
「誰よ、その堕落した令嬢は。美人?」

父は怪訝そうな顔をしてから瞬きをして否定する。

「否、地味な顔をした真面目そうなお嬢さんだったらしい。ただ金払いがあまりにいいんで、余程の名家のお嬢様が悪い遊びに興味を持ったんだろうって噂になっているんだ。見かけによらない、嘆かわしい、笑っちまう、面白いってことでな」
「……」

どうせ父も馴染みの娼婦から聞いたのだろう。

私は呻りながら額を押さえた。
それは頭痛のせいで、確かに父の話は面白い。気力がなかった私は鼻で笑った形になったが、実のところ楽しんでいた。

男娼の館を探し回る、地味顔の令嬢?
しかも大金を持っている?

……ヒルデガルドだ。

私のような平民上がりの女に侮辱されても言い返せなかった大人しそうなあの令嬢が、まさか泣き寝入りしなかったなんて誰が思うだろう。

例の《ユフシェリア》には辿り着いただろうか。
あそこには今ヘレネがいるのに。

可笑しい。

「悪い遊びね……」

私が起き上がろうとすると父が手を添えた。
目が覚めた私から王女の話を聞きたくて仕方ないのだろう。

「お前、チャンスだぞ。王女様が遊びたいならご案内して差し上げろ。そして風紀の乱れに乗じて上級貴族を誑かせ!」
「……」
「秘密のお船で秘密のお茶会か?ん?」

父の下世話な期待を裏切りたいという気持ち以前に、私には無視できない問題があった。

あの魔窟で確かに聞いた。
だから私は、喜ばせないよう捻りを加えて父に告げた。

「お父様。悪い遊びどころの話じゃなくってよ。あの方、お父様の造った船で王妃様を亡き者にするおつもりみたい」
「……」

父は絶句し、徐々に蒼褪めた。

ソフィア王女はそうは言わなかった。どちらかと言うと父の下世話な空想に近い話だ。娼船なら私も考えた。だが違う。
そして相手を動かすには多少の嘘も必要だった。
それが交渉というものだ。

「私たち上手く立ち回らなければ死ぬわ。王女か王妃、どちらかの敵になるんだもの。笑っちゃうわね」
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