王女様、それは酷すぎませんか?

希猫 ゆうみ

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42(ヘレネ)

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私の、誰よりも大切なあなた
あなただけは私のことをわかってくれる

私は今、犯してもいない罪の為に宮殿で幽閉されています
毎日、実の兄からまるで罪人のように尋問され気が狂ってしまいそうです

私が何をしたというのでしょう?

私はただ叶わない恋をしただけ
その恋しいウィリスも私から去りました
ですが、ウィリスはパメラ夫人に囚われてしまったようです

あなたは私よりパメラ夫人と親しいわよね?
誘拐されたウィリスは元気かしら
兄は何も言いません
けれど私のところへ帰ってこないのは確かでしょう

私にはもう、あなたしかいません
心優しい私の親友
どうか、私の為に祈ってください
私を助けてください

ただ叶わない恋に破れただけの可哀相な私に、憐れみを

あなたの親友より、愛を込めて


     *


「……っ」

ソフィア王女からの手紙をニコラス王太子から手渡され、その場で読まされ、何か言うことは無いかと顔を突き合わせて問われた瞬間の首を絞められたような息苦しさがずっと消えない。

その手紙は今、ザシャの大きな手によって広げられている。

「私に全て擦り付けるつもりよ」

私は紙面に下ろされる静かな碧い瞳をじっと見つめながら擦り寄り、しがみついた。

「お願い。私を連れて、遠くへ逃げて」

ザシャは答えない。

私はずっとずっと、世界の全てが恐くて仕方がなかった。
だからソフィア王女にお友達になってと声を掛けられた時、勝った気がした。父に勝った。

支配的な父がずっと恐くて、嫌いで、でも逃げられなくて、他にどう生きればいいかわからなくて……そんな時、ソフィア王女は私に世界をくれた。
新しい絶対的な世界を、私にくれた。

──早く結婚して、私の侍女になってね。

ソフィア王女は私を求めてくれた。
それが父と同じ支配だと気づくまで、時間がかかった。私は浮かれていた。

初めてデシュラー伯爵の城に招かれた夜、私の新世界は地獄より恐いところなのだと思い知らされた。父が育てあげた私という生贄を、ソフィア王女は目敏く見つけ捕獲した。
私は獲物であり、愛玩動物なのだ。
そう思った。

けれど少し違った。

獲物は他にいたのだ。
私は取り巻きとして選ばれただけだった。

その晩は二人目の実験台だったらしい。
ダーマ伯爵から一人目は亡きデシュラー伯爵だと聞かされた。パメラ夫人は自分の夫を最初の実験台としてソフィア王女に差し出し、失敗し、死なせたのだ。

──知ってしまったわね、ヘレネ。

逃げられない。
もう逃がしてはもらえない。

私は震え、涙を堪えきれず、時に悲鳴をあげながらそれを見ていた。

ザシャは薬が切れて来た頃、悲鳴一つあげなかった。
併し次第に低い呻き声を上げた。でもそれだけだった。

酷い仕打ちにも負けない強靭なザシャに、私の心は救われた。

──お願いです。どうか、せめて、俺が死んだと知らせてくれませんか……

ソフィア王女の脅迫に対してザシャはそう懇願した。彼が懇願したのはそれだけだった。
なんて強い人だろうと思った。

いつか時が来たら王太子と王妃をこの実験通りに拷問して壊し、自らが正当な王位継承者だと知らしめるのだとソフィア王女は言った。
そして壊れた王妃を更に貶める為の道具として、実験台を男娼として飼い殺しにし生かしておくのだと。

結婚の約束をした小国の姫とその国を守る為に、ザシャは男娼になった。
私はザシャを買った。強くて一途な彼を独占していると、私は守られていると感じられた。

守って欲しかった。
この世界は、恐くて恐ろしい地獄だから。

「私が、どんな理由で王妃様や王太子殿下を苦しめるの……?無理よ……」
「わかってますよ」

ザシャが触れていると一緒に痺れてしまうような低い声で同意を示してくれる。愛しているわけでもないのに、そのふりをして抱き寄せてくれる。

ザシャの腕の中でひっそりと死ねたら、それが私の幸せなのだろう。

「王太子もわかっているから直接渡したんじゃないですかね」
「……」
「じゃなきゃ、あなたの顔なんかじっと見ませんよ」
「……私、どうしたらいいの……」
「とりあえず」

ザシャが腕を伸ばし注意深くてテーブルに手紙を置いた。
それから私をベッドに押し倒す。

「……っ」

彼の重みが、広い肩に遮られて暗くなる視界が、私を安心させてくれる。
ザシャに閉じ込められる快楽の世界だけが、私に息をさせてくれる。

「一旦落ち着けよ、弱虫」

私は弱い。
弱い私をザシャは全て受け止めて、隅々まで触ってくれる。

ザシャに抱かれながら死にたい。
これ以上、生きていても仕方がない。

「ザシャ……んっ」

口を塞いで鬱陶しい言葉を奪う為にザシャは激しいキスを繰り返す。

「私を……、逃がしてくれないなら……今夜……っ、私を……ころし……て……」
「言ってろ。今の内だけだ、そんな嘘」
「嘘……?んぁっ」

首筋を分厚い舌でねっとり舐められて甘い波にさらわれた。
私は、また、ザシャの中に逃げた。

彼の言葉の意味なんて知ろうとも思わなかった。
熱い体があれば、それでいいのだから。

私は生きている────と、また感じられるから。
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