悲劇の契約結婚ではありますが、私たち愛を証明いたします。

希猫 ゆうみ

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用件はどうあれ、颯爽と馬に跨り夕陽の中に駆けていくテレザ夫人の姿は私たちの視線を釘付けにした。

「かっこいいわ……」
「馬車を停められた時は暗殺でもされるのかと思いましたよ」

デヴィッドと心が通じた気がしたけれど、話はそれまでだ。

「ランス」
「うん?」

テレザ夫人によると、例の嘆願書の存在をランスは知らないという。だからカルメット侯爵家にとってテレザ夫人は単純に私を助けてくれた善い人で片付けられる。

「あの方と和解したわ」
「うん。君が心配でそれどころじゃなかったけど、ジュリエッタを結婚詐欺で訴えるらしいね」
「ああ……ええ。そうなのよ。私もびっくりしちゃった。私の元婚約者とは幼馴染と聞いていたけど、ずっと愛していたんですって」
「愛か……」
「ね。彼女のしたことって愛なのかしら」

「今するお話ですか?」

憤激のミネットに窘められた。

ランスが私の肩を抱いて歩くのは当たり前のことではないのだと思うと切なくなる。夫の手は二度と離さない。あと、二度と別の男に触られたくない。

「明日、改めて行くの?」
「うん」
「私もついて行こうかしら」
「……」
「本気よ」

ミネットがデヴィッドの腕を掴み有無を言わせない早足で道を逸れる。

夫婦の時間は始めから限られていた。
それがたまらなく残酷で腹立たしい。

けれど諸悪の根源であるノアム侯爵家の悪行を暴いたところで、傷つく人が増えるだけ。だからランスは守り抜く覚悟を決めている。

二人きりで庭園に向かいながら私は尋ねた。

「ベイルから聞いたの。代々ノアム侯爵家の人間を出入り禁止にしているって。それなのに、どうして親友なの?」

もう本人の襲来があったのだ。見えないふりをしても仕方ない。
それに私も覚悟を決めたのだから、知るべきことは知っておきたかった。

ランスはぽつぽつと低い呟きを洩らした。

「先代のカルメット侯爵……父は、子供に罪はないからと私の代からいい関係が築けるよう期待していた。だが警戒は必要だと言われた。意味はわからなかったが、私は父を慕い信頼していたから、着かず離れずの距離を保っていた」
「それは親友なの?」
「エドワールには私しかいなかったから……見る者によっては。実際、悪い印象はなかったよ……」

男は被害に遭わないからだろう。
そしてランスの交流が原因であればもっと罪悪感に苦しんでいるはずだから、原因でもないのだ。悔しい。でも当事者ではない私の悔しさなどは、悔しいうちに入らない。

「今はもう、そう思わないけど」

同じ呟きでもランスの声は硬かった。
私はランスの広い背中を撫でて励ましてから、愛しい体温にしがみつく。

「私を残して幽閉されるのは心配でしょう?」
「……」

ランスは答えない。
簡単に答えられることではないから、返事がなくても構わなかった。

でも彼はふいに笑みを浮かべ答えた。

「否。ノアム侯爵は理解していたが息子の方は理解できなかったみたいだ」
「え?」

何?
ランスはなんでもないことのように言った。

「カルメット侯領への立ち入りを禁止しているのは私ではなく陛下だから、処罰される」
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