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42(ランス)
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「陛下はあなたと私の幸せを願ってくれているみたいだから、きっと協力してくれるわ。優雅な幽閉生活が保障されているんだもの。楽勝よ」
「シルヴィ……!」
私の胸が張り裂けたのは言うまでもないだろう。
私は妻を愛している。
その妻の人生を、不幸のどん底へ突き落とそうとしている。
罪人の家族が共に幽閉されることはある。だがそれは無慈悲な連座ではなく、同罪だった場合のみだ。罪もないシルヴィを連れて幽閉されるなど、あってはならない。
「君に罪を被せて、私が喜ぶと思うか?」
「あなたが罪を被って私が喜ぶと思う?」
シルヴィは無邪気に笑っている。
妻は直感が鋭いから、ある程度の真実は嗅ぎつけているだろう。だが一つだけ間違えた。私を愛してはならなかった。
強く純粋な性格に惹かれたが、強すぎだ。
そこまでして私を愛する義務はないのに……
シルヴィが私の頬をやや乱暴に抓る。
「自分の指を見なさい、ランス。私の夫の証があるでしょう?契約結婚だったのに、わざわざ誂えたのはあなたよ。私たちは一つなの。本当の夫婦だもの。死が二人を分かとうと離れないんだから、幽閉くらい、一緒に行くわ」
「天国で会おう」
「まあ、面白い冗談だこと」
膝に乗せた獰猛な女豹が、美しく透き通る碧い瞳で私の目を覗き込んだ。
「馬鹿な真似をしてごらんなさい、すぐ追い掛けてやる。そして地獄に引き摺り下ろしてやるわ。私を寂しくさせた罪は何よりも重いのよ。いいの?私が地獄の業火に焼かれても」
「シルヴィ、落ち着いて」
小さな掌で私の頬を圧迫し、顔を寄せ威圧してくる。
ミネットの近くにいたせいで威厳まで兼ね備えてしまったのだろうか。それとも、まだ私の予想を超える強さを秘めているのか……
「王様を無視してお馬さんで駆けてきたくせに。どの口が言うのかしら」
「シルヴィ……」
甘い唇の感触に、いつだって私は酔い痴れてしまう。
彼女は命を注ぎ込む。
私は、シルヴィに出会う為に生まれてきたのだと信じ込んでしまう。
「幽閉されたあなたを想ってこの場所で泣き暮らし孤独なおばあちゃんになって独りぼっちで死ねって言うの?あのね、年齢的に、ミネットなら先に死ぬ。しかも夫とずっと一緒に暮らした末ね。幸せだわ。それに引き換え私の人生を表す言葉は〝寂しい〟よ。酷くない?」
愛の篭った脅迫に私は言葉を失った。
シルヴィに愛された私自身に課せられている責任の意味を誤解していた。だが理解してしまった。
私の選択で妻も妹も守れると思っていた。
かつてはそうだった。
もう違う。
私を失えば、シルヴィは不幸になる。
私の選択では、妻の心を守れない。
「ランス。私を幸せにして」
笑顔のままシルヴィが大粒の涙を零した。
本人さえ泣いているのに気付いていないのかと思うほど、静かな美しすぎる涙を。
私は愛する妻の後頭部に手を当て、あと僅かの距離を引き寄せ約束していた。
「恩赦を願い出るよ」
唇が重なった瞬間、嬉しそうに笑みを深める感触がした。
「……シルヴィ、愛している。君と生きていく」
シルヴィが言葉もなく、ただ力強く何度も何度も頷く。
私は愛しい妻を抱きしめた。
始まりは契約結婚だった。
だがそれが運命だった。
私たちは夫婦なのだ。
生涯を共に歩む。離れはしない。
「シルヴィ……!」
私の胸が張り裂けたのは言うまでもないだろう。
私は妻を愛している。
その妻の人生を、不幸のどん底へ突き落とそうとしている。
罪人の家族が共に幽閉されることはある。だがそれは無慈悲な連座ではなく、同罪だった場合のみだ。罪もないシルヴィを連れて幽閉されるなど、あってはならない。
「君に罪を被せて、私が喜ぶと思うか?」
「あなたが罪を被って私が喜ぶと思う?」
シルヴィは無邪気に笑っている。
妻は直感が鋭いから、ある程度の真実は嗅ぎつけているだろう。だが一つだけ間違えた。私を愛してはならなかった。
強く純粋な性格に惹かれたが、強すぎだ。
そこまでして私を愛する義務はないのに……
シルヴィが私の頬をやや乱暴に抓る。
「自分の指を見なさい、ランス。私の夫の証があるでしょう?契約結婚だったのに、わざわざ誂えたのはあなたよ。私たちは一つなの。本当の夫婦だもの。死が二人を分かとうと離れないんだから、幽閉くらい、一緒に行くわ」
「天国で会おう」
「まあ、面白い冗談だこと」
膝に乗せた獰猛な女豹が、美しく透き通る碧い瞳で私の目を覗き込んだ。
「馬鹿な真似をしてごらんなさい、すぐ追い掛けてやる。そして地獄に引き摺り下ろしてやるわ。私を寂しくさせた罪は何よりも重いのよ。いいの?私が地獄の業火に焼かれても」
「シルヴィ、落ち着いて」
小さな掌で私の頬を圧迫し、顔を寄せ威圧してくる。
ミネットの近くにいたせいで威厳まで兼ね備えてしまったのだろうか。それとも、まだ私の予想を超える強さを秘めているのか……
「王様を無視してお馬さんで駆けてきたくせに。どの口が言うのかしら」
「シルヴィ……」
甘い唇の感触に、いつだって私は酔い痴れてしまう。
彼女は命を注ぎ込む。
私は、シルヴィに出会う為に生まれてきたのだと信じ込んでしまう。
「幽閉されたあなたを想ってこの場所で泣き暮らし孤独なおばあちゃんになって独りぼっちで死ねって言うの?あのね、年齢的に、ミネットなら先に死ぬ。しかも夫とずっと一緒に暮らした末ね。幸せだわ。それに引き換え私の人生を表す言葉は〝寂しい〟よ。酷くない?」
愛の篭った脅迫に私は言葉を失った。
シルヴィに愛された私自身に課せられている責任の意味を誤解していた。だが理解してしまった。
私の選択で妻も妹も守れると思っていた。
かつてはそうだった。
もう違う。
私を失えば、シルヴィは不幸になる。
私の選択では、妻の心を守れない。
「ランス。私を幸せにして」
笑顔のままシルヴィが大粒の涙を零した。
本人さえ泣いているのに気付いていないのかと思うほど、静かな美しすぎる涙を。
私は愛する妻の後頭部に手を当て、あと僅かの距離を引き寄せ約束していた。
「恩赦を願い出るよ」
唇が重なった瞬間、嬉しそうに笑みを深める感触がした。
「……シルヴィ、愛している。君と生きていく」
シルヴィが言葉もなく、ただ力強く何度も何度も頷く。
私は愛しい妻を抱きしめた。
始まりは契約結婚だった。
だがそれが運命だった。
私たちは夫婦なのだ。
生涯を共に歩む。離れはしない。
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