悲劇の契約結婚ではありますが、私たち愛を証明いたします。

希猫 ゆうみ

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「──というわけですので、私は間違いなく誠実で堅実な人格を備えるであろう人物を養子に迎えるつもりです。夫も養子ですから、構いませんよね?」

謁見の間に入ると独特の厳粛な空気が流れてはいたものの、国王陛下と思しき人物からは親戚か目をかけている臣下を迎える温かさを感じることができた。事実、ランスはその両方に属している。

同席した宮廷裁判所の人間、側近や大臣やその他の役人たちでさえ、表情は硬いものの私の顔を見て目を輝かせたのだ。

ええ、そうよ!私が来たわ!正義の女神が!!

そんな烏滸がましい冗談は口が裂けても言わないけれど、私は彼らの目の色を見て愛嬌で押す作戦に出た。

母は言った。
媚びる為ではなく、人の心を操るために微笑めと。

「私は夫と離れません。どうしても幽閉なさると仰るのであれば私も共に参りますので、養子を迎える為の時間を頂戴したく、心より切にお願い申し上げます。ランスを愛しているのです」

私は床に擦り付ける勢いで深く頭を垂れる。

「私からは以上です」

同じく跪いて頭を垂れているランスから、微妙な沈黙が伝わってくる。笑いを堪えているような雰囲気だ。

「仲睦まじいようで何よりだ。カルメット侯爵、呼び出した理由をわかっているのだろう。思う通りに言ってみなさい」

約束通り、ランスは恩赦を願い出た。
私を愛していることや、私を不幸にはできないこと、領民たちへの責任、自分だけが課せられた役目への誇りなどを謙虚に述べる。

「どうか幽閉先をカルメット城にしてください。政務は妻と後継者に任せ、償いの姿勢を決して忘れないと誓います」

沈黙が落ちた。

最早、誰がどう見てもランスの優勢であるというのにも関わらず、無罪の主張だけはしない。あくまで自分がノアム侯爵令息を手に掛けたという立場だけは貫こうとしている。

「ランス……」

国王までついにランスを名前で呼んだ。

「ここに、複数の貴族から嘆願書が届いている。お前の無実を信じる者や、正統な理由を追求すべきという者、子供同士の喧嘩を大事にしたノアム侯爵への非難の声もある。更にはノアム侯爵がお前を陥れようと画策した冤罪とまで言い出した者までいる」
「……」

ランスは頭を垂れたまま動かない。

「どうだろう。お前が言いたくないことは無理に明言しなくていい。ただ、この場で正式に無罪を言い渡せるだけの一言をくれないか。速記者も正しく記録する。せめて幽閉を覆せる事情を、大まかで構わないから……。ランス、お前を罰するのは不本意なのだ」

ほら見なさい!
と、夫に向かって叫びたい衝動を堪える。

ただ大まかであろうと真実に迫る事情など一言も洩らすわけにはいかない。宮廷裁判所の役人を前にして虚偽の発言も許されない。
結局ランスには沈黙するしか手段がなかった。

それでも、このまま押し通せるような気配が確かにあった。
ランスは唯一の希望、幽閉先をカルメット城にしてほしい旨を伝え、恩赦を願い出ている。これさえ叶えば幽閉されてもその実情は篭城だ。

「言えない理由があるのか……そうだとは、言えないな」

誰かを庇っていると国王自ら気づいていることを示す発言にも、ランスは沈黙を以て答えた。それが答えであることも承知しているだろう。

その時だった。
あってはならないことが起きてしまった。

「カルメット侯爵が召喚に応じたと伺い、証言を致したく参りました」

沈黙を破った麗しい声。
ヴェルディエ伯爵夫人ミレーユが謁見の間に姿を現した。

私は飛び上がるほどの勢いで体を起こし、嵐を恐れる野兎のように謁見の間を見渡した。現実から逃れられないと知りながら逃げ道を探したのだ。そんなものはなかった。

ピオジェ公爵家の公女であったミレーユを咎める者は一人もおらず、権力を握る証言者が現れたことを国王はむしろ喜んでさえいるようだった。

ランスは愕然と顔を上げた。
その見開かれた目は絶望し、悲しく揺れている。

「聞かせてくれ」

国王がそう呼び掛けてしまえばもう、止められない。

「陛下。誠に勝手ながらこの証言は陛下の耳にだけお入れしたく存じます。宮廷の裁判官殿に証拠として発言を残すには及びません」

謁見の間の入口に佇んだままミレーユが言うと、国王は頷いて手招きをした。静かな足音が近づいて来て、ランスと私を追い越していく。

「……!」

ランスが壊れてしまいそうで、私は膝を摺って彼にしがみ付くと大きな体を力いっぱい抱きしめた。

やがてミレーユは国王の座る席への僅かな段差をゆっくりと踏みしめながら上がり切り、優雅ながらも物怖じしない様子でその耳元へ顔を寄せた。手を添え、何か囁く。

「ミレーユ……!」

ランスの声は掠れ、震えていた。
国王が瞠目し、謁見の間が凍り付く。
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