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謁見の間を出た瞬間デヴィッドが目を瞠り狼狽えた。
ランスが目を泣き腫らし、小さな私に縋りつくような体制で歩いていたからだろう。
「無罪以前よ。陛下が訴えを却下するべきだったって」
「ありがとうございます、奥様!」
外で待機していたデヴィッドは謁見の間で起きた告白を知らない。
説明すべきか判断するのさえ私には権利がないのだから、曖昧且つ真剣な表情で無言を貫き誤魔化した。
命の危険があれば話は別だけれど、このままランスの体を一人で担ぐのは体力的にかなり辛い。私はランスを半分デヴィッドに託した。
その私の手がさらわれる。
「!?」
風のように私たちの脇をすり抜けながら、ミレーユが私の手首を掴み有無をも言わさない強引さで走り出した。まず混乱し、すぐ理解した。
女同士で話がしたいのだ。
女神像の下まで来ると、ミレーユは息を弾ませたまま仰向いて私に似た石像の顔を見上げた。それでもまだ私の手首を凄まじい力で掴んだままだった。
痛いけれど、伝える気にもならない。
彼女になら何をされてもいい。
「しばらく、ランスは口を利いてくれないと思う。お互いに気まずいから」
砕けた口調で話しかけられ、私は彼女の微笑みを真似てから頷いた。
ランスがそうしたように、私もミレーユを受け止めたい。それは烏滸がましい覚悟かもしれないけれど、本人が私の手首を掴んで連れてきたのだからまあいいだろう。
「夫の安全を確保してあると伝えて」
「わかりました」
私が返事をして初めて、ミレーユと目が合う。
ミレーユは体ごと私の方を向くと、もう片方の手首も掴んだ。両手を抑えられ微笑まれていると、これから何かを誓いあう親しい友人のようだと気づいた。
私はミレーユの掌の中で左右の手を捻り、彼女の手首を掴んだ。命を預け合うような手の繋ぎ方だ。
「ありがとう、シルヴィ」
ミレーユが美しく微笑んでいる。その笑顔は晴れやかで、曇りひとつなく輝いている。
私は彼女にどんな顔を見せたらいいか迷った。もちろんそれは顔に出て、更にミレーユを笑わせた。
「いいのよ。私は幸せになると決めたの」
「あ……あぁ……」
「ランスが幸せになってくれて嬉しい。私が……兄を不幸にしていたから、あなたが現れてくれて救われた」
「ランスは不幸とは思ってないわ」
即答してしまった。
でも、ミレーユは喜んだようだ。
「なりそうだったけど、あなたのせいではない」
私は自分の口を塞ぎたい。
ミレーユは子供の手遊びのように握り合った手を振って、私と唇が触れそうなほど美しい顔を寄せて来る。
甘く上品な、いい匂い。
「思ったの。私たち、結婚相手に恵まれた兄妹だわ」
「……どうも」
「あなたを愛してる。ランスをよろしくね」
あとは私たちに任せて、と。
ミレーユは私の耳に囁いてするりと手を解いた。
私は軽やかな足取りで去っていくミレーユの背中を眺めながら佇んでいた。
彼女が立ち上がれたのは確かな愛に守られていたからかもしれないし、彼女自身の強さだったかもしれない。誰もがそうなれるわけではないし、守られるべきだという気持ちは変わらない。
今の私にあるのは、彼女の決意を受け入れるという、私の決意だった。
ランスがしようとしたことを、彼女が手段を変えて叶える覚悟を決めた。自らの足で歩き出したミレーユを引き留めようとは思わなかった。
陛下にだけ、とミレーユは切り出した。
ヴェルディエ伯爵の安全を確保したと私にだけ伝え、ランスをよろしくと言った。
ミレーユの裁量で復讐を始めたのだ。
止める理由など誰にもない。
ランスが目を泣き腫らし、小さな私に縋りつくような体制で歩いていたからだろう。
「無罪以前よ。陛下が訴えを却下するべきだったって」
「ありがとうございます、奥様!」
外で待機していたデヴィッドは謁見の間で起きた告白を知らない。
説明すべきか判断するのさえ私には権利がないのだから、曖昧且つ真剣な表情で無言を貫き誤魔化した。
命の危険があれば話は別だけれど、このままランスの体を一人で担ぐのは体力的にかなり辛い。私はランスを半分デヴィッドに託した。
その私の手がさらわれる。
「!?」
風のように私たちの脇をすり抜けながら、ミレーユが私の手首を掴み有無をも言わさない強引さで走り出した。まず混乱し、すぐ理解した。
女同士で話がしたいのだ。
女神像の下まで来ると、ミレーユは息を弾ませたまま仰向いて私に似た石像の顔を見上げた。それでもまだ私の手首を凄まじい力で掴んだままだった。
痛いけれど、伝える気にもならない。
彼女になら何をされてもいい。
「しばらく、ランスは口を利いてくれないと思う。お互いに気まずいから」
砕けた口調で話しかけられ、私は彼女の微笑みを真似てから頷いた。
ランスがそうしたように、私もミレーユを受け止めたい。それは烏滸がましい覚悟かもしれないけれど、本人が私の手首を掴んで連れてきたのだからまあいいだろう。
「夫の安全を確保してあると伝えて」
「わかりました」
私が返事をして初めて、ミレーユと目が合う。
ミレーユは体ごと私の方を向くと、もう片方の手首も掴んだ。両手を抑えられ微笑まれていると、これから何かを誓いあう親しい友人のようだと気づいた。
私はミレーユの掌の中で左右の手を捻り、彼女の手首を掴んだ。命を預け合うような手の繋ぎ方だ。
「ありがとう、シルヴィ」
ミレーユが美しく微笑んでいる。その笑顔は晴れやかで、曇りひとつなく輝いている。
私は彼女にどんな顔を見せたらいいか迷った。もちろんそれは顔に出て、更にミレーユを笑わせた。
「いいのよ。私は幸せになると決めたの」
「あ……あぁ……」
「ランスが幸せになってくれて嬉しい。私が……兄を不幸にしていたから、あなたが現れてくれて救われた」
「ランスは不幸とは思ってないわ」
即答してしまった。
でも、ミレーユは喜んだようだ。
「なりそうだったけど、あなたのせいではない」
私は自分の口を塞ぎたい。
ミレーユは子供の手遊びのように握り合った手を振って、私と唇が触れそうなほど美しい顔を寄せて来る。
甘く上品な、いい匂い。
「思ったの。私たち、結婚相手に恵まれた兄妹だわ」
「……どうも」
「あなたを愛してる。ランスをよろしくね」
あとは私たちに任せて、と。
ミレーユは私の耳に囁いてするりと手を解いた。
私は軽やかな足取りで去っていくミレーユの背中を眺めながら佇んでいた。
彼女が立ち上がれたのは確かな愛に守られていたからかもしれないし、彼女自身の強さだったかもしれない。誰もがそうなれるわけではないし、守られるべきだという気持ちは変わらない。
今の私にあるのは、彼女の決意を受け入れるという、私の決意だった。
ランスがしようとしたことを、彼女が手段を変えて叶える覚悟を決めた。自らの足で歩き出したミレーユを引き留めようとは思わなかった。
陛下にだけ、とミレーユは切り出した。
ヴェルディエ伯爵の安全を確保したと私にだけ伝え、ランスをよろしくと言った。
ミレーユの裁量で復讐を始めたのだ。
止める理由など誰にもない。
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