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「あ、あなたは……!」
驚きすぎて涙も止まる。
私の背後から不機嫌そうな顔でこちらを見下ろしていた人物。
それは第二王子クラウディオ殿下だった。
漆黒の髪に夜のような深い瞳。
切れ長の目やすっと鼻梁の通った顔立ちは冷酷な印象を抱かせる。
「なんだ、今のは」
「あ、あの……っ」
不機嫌そうではなく、不機嫌。
私は慌てて立ち上がり、一国の王子である彼に深く頭を垂れた。
「恋人を盗られたくらいで泣くな」
「……」
「まったく、ろくでもない男だな」
不機嫌な顔のまま悪態をつきながらも、クラウディオ殿下がハンカチを差し出してくれる。
相手が第二王子だから辞退するのも失礼に当たる。
私はおずおずとハンカチを受け取り、少し躊躇ってから涙を拭いた。
「結婚相手を探す場だからといって、我々王家の人間は誰一人として、相手をとっかえひっかえしていいとは言ってない。結婚相手を選ぶ為にダンスがあるんだ。相手を変えていいのはダンスまでだろう。あのような不埒な連中は許せない。二人の名前を言え」
「……」
完全に問題行動として王家の怒りを買っている。
それが妹と、一瞬でも求婚してくれた相手だという事実が、私の口を塞がせる。
「庇っても仕方ないぞ。君が言わないなら別の人間に尋ねるまでだ」
仕方なく正直に言うことにした。
肉親の私には謝罪する義務があるからだ。
どうして私が……
全て奪われ続けている私が、妹の行いについてお詫びまでしなければいけないなんて……
「……っ」
悔しくて涙が溢れそうになる。
クラウディオ殿下が怪訝な表情で首を傾げた。私は必死に涙を堪えた。
「大変失礼をいたしました。あれは、妹のビヨネッタです」
「相手は?」
「……侯爵令息のレオポルド様です」
「そうか。気にするな」
そう言われても辛い。
求婚された直後に妹に奪われるのがどんなに惨めで胸が張り裂けそうか、王子様にはわからないだろう。存在そのものを全否定されたのだ。
でも私と王子様では生まれた世界が違う。
だから責める気は到底起きるわけもなかった。
同じだけ、理解してほしいという望みすら抱いていない。
でも……
「姉妹だったのか。似てないな。君は?」
クラウディオ殿下は質問を重ねる。
この件に興味を持っているようだ。お答えしなくては無礼に当たる。
「私はマチルダと申します」
「姉の方はしっかりしているのに……妹の方は随分と甘やかされて育ったようだ」
「申し訳ありません」
悔しい。
でも、こうするしかない。
私は唇を噛みながら俯いた。
「こら」
クラウディオ殿下の手が頬に触れた。
「!?」
驚く私の顎をくいと持ち上げ、クラウディオ殿下は親指で私の唇を割る。
当然、その手には手袋がはめられているけれど、男性にそんなことをされたのは初めてということと、相手が第二王子であるということで、私は頭が真っ白になった。
「妹に男を盗られたくらいで唇を噛むな。せっかくの綺麗な顔が台無しだ」
「……」
「……悪い。咄嗟に、やってしまった。失礼した」
クラウディオ殿下が手を離す。
私は親指一本分の隙間を空けたまま口で息をして固まっていた。
「悪い悪い。未婚の令嬢にやっていいことではなかった。忘れてくれ」
「……」
「では、私を90才の爺と思え」
え?
それは無理。
驚きすぎて涙も止まる。
私の背後から不機嫌そうな顔でこちらを見下ろしていた人物。
それは第二王子クラウディオ殿下だった。
漆黒の髪に夜のような深い瞳。
切れ長の目やすっと鼻梁の通った顔立ちは冷酷な印象を抱かせる。
「なんだ、今のは」
「あ、あの……っ」
不機嫌そうではなく、不機嫌。
私は慌てて立ち上がり、一国の王子である彼に深く頭を垂れた。
「恋人を盗られたくらいで泣くな」
「……」
「まったく、ろくでもない男だな」
不機嫌な顔のまま悪態をつきながらも、クラウディオ殿下がハンカチを差し出してくれる。
相手が第二王子だから辞退するのも失礼に当たる。
私はおずおずとハンカチを受け取り、少し躊躇ってから涙を拭いた。
「結婚相手を探す場だからといって、我々王家の人間は誰一人として、相手をとっかえひっかえしていいとは言ってない。結婚相手を選ぶ為にダンスがあるんだ。相手を変えていいのはダンスまでだろう。あのような不埒な連中は許せない。二人の名前を言え」
「……」
完全に問題行動として王家の怒りを買っている。
それが妹と、一瞬でも求婚してくれた相手だという事実が、私の口を塞がせる。
「庇っても仕方ないぞ。君が言わないなら別の人間に尋ねるまでだ」
仕方なく正直に言うことにした。
肉親の私には謝罪する義務があるからだ。
どうして私が……
全て奪われ続けている私が、妹の行いについてお詫びまでしなければいけないなんて……
「……っ」
悔しくて涙が溢れそうになる。
クラウディオ殿下が怪訝な表情で首を傾げた。私は必死に涙を堪えた。
「大変失礼をいたしました。あれは、妹のビヨネッタです」
「相手は?」
「……侯爵令息のレオポルド様です」
「そうか。気にするな」
そう言われても辛い。
求婚された直後に妹に奪われるのがどんなに惨めで胸が張り裂けそうか、王子様にはわからないだろう。存在そのものを全否定されたのだ。
でも私と王子様では生まれた世界が違う。
だから責める気は到底起きるわけもなかった。
同じだけ、理解してほしいという望みすら抱いていない。
でも……
「姉妹だったのか。似てないな。君は?」
クラウディオ殿下は質問を重ねる。
この件に興味を持っているようだ。お答えしなくては無礼に当たる。
「私はマチルダと申します」
「姉の方はしっかりしているのに……妹の方は随分と甘やかされて育ったようだ」
「申し訳ありません」
悔しい。
でも、こうするしかない。
私は唇を噛みながら俯いた。
「こら」
クラウディオ殿下の手が頬に触れた。
「!?」
驚く私の顎をくいと持ち上げ、クラウディオ殿下は親指で私の唇を割る。
当然、その手には手袋がはめられているけれど、男性にそんなことをされたのは初めてということと、相手が第二王子であるということで、私は頭が真っ白になった。
「妹に男を盗られたくらいで唇を噛むな。せっかくの綺麗な顔が台無しだ」
「……」
「……悪い。咄嗟に、やってしまった。失礼した」
クラウディオ殿下が手を離す。
私は親指一本分の隙間を空けたまま口で息をして固まっていた。
「悪い悪い。未婚の令嬢にやっていいことではなかった。忘れてくれ」
「……」
「では、私を90才の爺と思え」
え?
それは無理。
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