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同時にウォルトン・ヴェゼンティーニが栓を捻った。
ドゥウン!
言うなればそんな轟音で、噴水がハリエットを空へと打ち上げた。
「きゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁああああああぁぁぁぁぁあああああっ!!」
水飛沫が降り注ぐとともに、ハリエットの悲鳴もまた降り注ぐ。
そしてハリエットの手から弾き飛ばされた刃物も降ってきた。
「危ない!」
「!」
マシューに突き飛ばされ、私は尻もちをついた。
「レイチェル!早く!早くこっちへ来て!誰かレイチェルを助けて!!」
グレース妃が絶叫していた。
私が水力技師の一人に支えられながら身を起こした瞬間、何故か、マシューもまた別の噴水によって空へ飛んだ。
「ぅぁぁぁぁぁぁあああああああああぁぁぁああああああっ!!」
落下してきた刃物は、教皇宮殿から飛び出して来た教皇猊下とクリストファー殿下が抜群のコンビネーションで振り回した分厚い布によって、奇跡的に回収された。後にそれはテーブルクロスだと判明したが、この瞬間、誰もその正体を気にしてはいなかった。
掃除用か、防衛の為なのか。
噴水は普段人々の足に踏まれている石畳にも仕掛けが施されていたと、この件で明らかになった。
「ぃゃぁァァああああっ!!たぁすけてええええぇぇぇぇっ!!」
「ぐわあぁぁぁぁぁぁぁぁああああああぁぁぁあああ!!」
噴水は器用にハリエットとマシュー其々の体を持ち上げ、弾ませ、混乱させている。
ハリエットとマシューの絶叫は噴水の勢いに応じて上下大小に変化し、やがてそれは少しずつ奇妙な見世物へと進化していった。
人だかりができ、この何某かの罰を受けていそうな二人に対しての野次と笑いが広場を賑わせていく。
私は全然、楽しくない。
ノエル王子も危なかったし、グレース妃も危なかった。
私は初めて他者に刃物を向けられた。殺されかけたのだ。
恐かった。
マシューへの気持ちがどうあれ、婚約まで交わした相手が私の為に命を落としかねない状況も、とても恐かった。
ところが私の気持ちはさて置き、それぞれ持ち場について点検していた水力技師たちは、何とかこの騒ぎを穏便に収束しようと努めたらしい。
貴族二人を地面に叩きつけて負傷させるわけにもいかないと考えたのかもしれない。
あちこちで普段とは違う噴水が上がり、広場は幻想的な風景を経て、ついには虹までかかった。美しかった。
やがて、徐々に噴水の勢いが弱められ、徐々に地上へと近づいてきたマシューとハリエットは、当然ながらずぶ濡れだった。
通路に鏤められた秘密の噴水が完全に止められた時、ハリエットはぐったりと地面に突っ伏し震えていた。
マシューは起き上った。
「レイチェル……!レイチェル、無事かい……!?」
視界がはっきりしない状態で全方面に向かって声を張る。
その姿は、誰の目にも私を心配しているように映ったはずだ。
「…………ええ」
私は水力技師にしがみ付いたまま静かに答えた。
それはマシューの耳には届かず、彼は自分が支え起こされるまで私の名前を呼び無事を尋ね続けた。
私の無事を言い聞かされ、此方を見るよう指示されてやっと、マシューは安堵し微笑んでから気絶した。
数時間後。
私の元へはトレヴァーが駆けつけ、怪我もないのに随分丁重に扱ってもらってしまったように思う。
この事件は当然ながら国王陛下の耳に入り、ハリエットには厳しい処分が下されることとなった。
ブロードベント伯爵家もまた然りである。
なんといっても王弟夫妻と教皇猊下が現場を見ていたのだから、どんな嘆願も言い訳も通用しなかった。
ところで。
私は濡れてもいないのに夏風邪をひき八日間も寝込んだため、これらの処遇は全て後から聞かされた。
万が一ノエル王子にうつしてはいけないからと隔離されていたこともあり、私は、トレヴァーと甘く優しい日々を過ごしたのだった。
ドゥウン!
言うなればそんな轟音で、噴水がハリエットを空へと打ち上げた。
「きゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁああああああぁぁぁぁぁあああああっ!!」
水飛沫が降り注ぐとともに、ハリエットの悲鳴もまた降り注ぐ。
そしてハリエットの手から弾き飛ばされた刃物も降ってきた。
「危ない!」
「!」
マシューに突き飛ばされ、私は尻もちをついた。
「レイチェル!早く!早くこっちへ来て!誰かレイチェルを助けて!!」
グレース妃が絶叫していた。
私が水力技師の一人に支えられながら身を起こした瞬間、何故か、マシューもまた別の噴水によって空へ飛んだ。
「ぅぁぁぁぁぁぁあああああああああぁぁぁああああああっ!!」
落下してきた刃物は、教皇宮殿から飛び出して来た教皇猊下とクリストファー殿下が抜群のコンビネーションで振り回した分厚い布によって、奇跡的に回収された。後にそれはテーブルクロスだと判明したが、この瞬間、誰もその正体を気にしてはいなかった。
掃除用か、防衛の為なのか。
噴水は普段人々の足に踏まれている石畳にも仕掛けが施されていたと、この件で明らかになった。
「ぃゃぁァァああああっ!!たぁすけてええええぇぇぇぇっ!!」
「ぐわあぁぁぁぁぁぁぁぁああああああぁぁぁあああ!!」
噴水は器用にハリエットとマシュー其々の体を持ち上げ、弾ませ、混乱させている。
ハリエットとマシューの絶叫は噴水の勢いに応じて上下大小に変化し、やがてそれは少しずつ奇妙な見世物へと進化していった。
人だかりができ、この何某かの罰を受けていそうな二人に対しての野次と笑いが広場を賑わせていく。
私は全然、楽しくない。
ノエル王子も危なかったし、グレース妃も危なかった。
私は初めて他者に刃物を向けられた。殺されかけたのだ。
恐かった。
マシューへの気持ちがどうあれ、婚約まで交わした相手が私の為に命を落としかねない状況も、とても恐かった。
ところが私の気持ちはさて置き、それぞれ持ち場について点検していた水力技師たちは、何とかこの騒ぎを穏便に収束しようと努めたらしい。
貴族二人を地面に叩きつけて負傷させるわけにもいかないと考えたのかもしれない。
あちこちで普段とは違う噴水が上がり、広場は幻想的な風景を経て、ついには虹までかかった。美しかった。
やがて、徐々に噴水の勢いが弱められ、徐々に地上へと近づいてきたマシューとハリエットは、当然ながらずぶ濡れだった。
通路に鏤められた秘密の噴水が完全に止められた時、ハリエットはぐったりと地面に突っ伏し震えていた。
マシューは起き上った。
「レイチェル……!レイチェル、無事かい……!?」
視界がはっきりしない状態で全方面に向かって声を張る。
その姿は、誰の目にも私を心配しているように映ったはずだ。
「…………ええ」
私は水力技師にしがみ付いたまま静かに答えた。
それはマシューの耳には届かず、彼は自分が支え起こされるまで私の名前を呼び無事を尋ね続けた。
私の無事を言い聞かされ、此方を見るよう指示されてやっと、マシューは安堵し微笑んでから気絶した。
数時間後。
私の元へはトレヴァーが駆けつけ、怪我もないのに随分丁重に扱ってもらってしまったように思う。
この事件は当然ながら国王陛下の耳に入り、ハリエットには厳しい処分が下されることとなった。
ブロードベント伯爵家もまた然りである。
なんといっても王弟夫妻と教皇猊下が現場を見ていたのだから、どんな嘆願も言い訳も通用しなかった。
ところで。
私は濡れてもいないのに夏風邪をひき八日間も寝込んだため、これらの処遇は全て後から聞かされた。
万が一ノエル王子にうつしてはいけないからと隔離されていたこともあり、私は、トレヴァーと甘く優しい日々を過ごしたのだった。
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