恐ろしい仮面の王妃様 ~妹に婚約者を奪われた私が国王陛下に愛されています~

希猫 ゆうみ

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堅牢な鉄扉を越え修道院の内部に入る。
ここから先は女性のみが暮らす、或る意味、女の園。あらゆる意味で安全な領域であり、私はここに残りの生涯を捧げるつもりだった。

緊張感と共に感慨深い気持ちに包まれる。
閉鎖された石造りの空間に響く足音すら神々しい。

暫定キャタモールに穢された魂が浄化されていくようだと言ったら、罰当たりだろうか。

静謐さに満ちた廊下を進みながら、シスターが声を潜めやや親しみを込め話しかけてくる。

「悪い話ではありません。グレンフェル伯爵が愚かな決断を下したからと言って、あなたが罪を被る筋合いはないのですから」

唐突に父の名を聞かされ、一瞬で現実に引き戻された。

「悲観から神の御許へ導かれる者は少なくありません」
「私もその一人です」
「そうですね。しかし、私にはこれこそが神の導きに思えるのです」

シスターの老いて落ち着いた低い声が辺りに反響し、それだけで既に神々しい。私が耳を傾けたのはひとえに彼女への敬意からだった。

そがれ運命を左右する。

「あなたの助けた相手が宮廷に仕える腕利きの医師であるならば、あなたは治療を受けるべきです」
「シスター……」
「その為にあなたは宮廷へ向かうでしょう」
「……」
「砕かれた誇りに勝る誇りが、神からの恩寵です」

耳を擽る啓示。
私の自尊心と野心に火が点いた瞬間だった。

「宮廷では基本的に貴族の夫人しか務めに当たれないのでは?」
「だからこそ奇跡なのです」

シスターは間髪入れずに答える。

「私を見てください。あなたが神に仕える為の時間は、想像以上に長く用意されています。神はいつでもあなたの傍近くにいて見守って下さり、例え臨終の時まで待たせようとも寛大な愛で迎えてくださいます」
「そうですか」
「ええ」

再び鉄扉を越え、前庭をぐるりと囲む回廊に出た。
黒い空から降り注ぐ雨を弾きながら、二つの塔と聖堂が雷光に輝いた。

風が吹きつけ、一度拭いた体がまた濡れる。

「季節外れの突然の嵐。これもまた奇跡です」
「……」

手を翳し、私は畏敬の念に胸を震わせながら修道院の全貌を見上げる。

直後、シスターが小走りで回廊を抜けていくのを追い掛け、薄く開いた大扉に駆け込んだ。窓から見ていたらしい若いシスターが体を拭くための厚手の布を渡してくる。

「レディ・イデア、シスター・ハンナです。滞在中は私に倣ってください」
「?」

此処まで案内してくれた老いたシスターに目で尋ねると、彼女は慇懃に頷く。

「申し遅れました。私は修道院長シスター・グレイス。あなたを見習いシスターとして受け入れます。後程、個室に夕食を届けさせます。今夜は疲れを癒してください」
「ありがとうございます」

意外な待遇にじんわりと喜びを感じながら全身を拭いていると、シスター・グレイスはより一層威厳を湛え続ける。

「明朝は4時起床、朝の祈りの後シスター・ハンナと掃除をしてください。朝食の後は庭仕事です」

規則正しい生活。
厳しい規律と、清らかな生活。

私の胸は俄然燃え滾り、希望に奮えた。
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