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嵐が明け、四日後に大司教が訪れ宮廷医師キャタモール本人であると確認が取れた、と五日目に聞かされた。
「シスター・グレイス、くれぐれも他言無用でお願いしますよ」
「そちらこそ、見習いとはいえレディ・イデアは当修道院から派遣された身である事を、くれぐれもお忘れなきようお願いします」
馬車の前で威嚇しあう修道院長と宮廷医師を視界に収めながら、シスター・ハンナが溜息を洩らす。
「ここに居てください。あなたは敬虔な方です」
若いシスター・ハンナは生真面目で、シスターとしての暮らしを徹底的に仕込んでくれたという意味で恩人でもある。
そんな彼女の制止を振り切って宮廷医師について行くのは治療のためだ。修道院長シスター・グレイスもキャタモールからの〝お礼〟を受け取るべきだと強く推している。
馬車が走り出してすぐキャタモールは無遠慮に肩を寄せて来た。
「レディ・イデア、あなたは私の新しい助手という事で」
「顔を近づけないでください」
「加えて遠縁という事で」
「わかりましたから、離れてください」
「身持ちの堅いお嬢さんだ」
宮廷で大勢の命を握っている事実がキャタモールを傲慢にしているのだろうか。
「実によろしい」
褒められたところで嬉しくはない。
「キャタモール卿」
そう呼ぶよう命じられている。
「治療の口実とはいえ宮廷に上るというのに身元を偽ってよろしいものでしょうか」
意見を述べてはいけないとは言われていない。
「では早速、私の第二の贈り物の話をしよう」
「第二の贈り物……?」
聞いてしまったら後戻りできなくなる。
そう直感した次の瞬間には言葉が放たれていた。
「命を救われた御礼に、私キャタモールがあなたに打ってつけの仕事を斡旋しましょう」
「……」
身構えるほど恐ろしい話ではない。
寧ろ良い話の可能性もある。私の所在はグレンフェル伯爵領の修道院の修道院長が把握しているのだから、安全は保障されているはずだ。
「実は……」
そうでもないかもしれない。
実は……で始まる話は秘密か醜聞か陰口だ。
「国王陛下には隠し子がいらっしゃり」
「ああ」
私はつい声を洩らし頭を抱えた。
キャタモールが鼻歌に似た笑い声をあげる。
「聞きましたね、イデア。もうあなたは秘密を知った。逃げられませんよ」
嬉しそうに私の腕の辺りを馴れ馴れしく叩く。
さすがに払い除けはしないものの、私は恨みと戸惑いを込めて横目に睨んだ。
「命を助けて差し上げましたのに?」
「あはん。だからこの仕事をあなたにお譲りするのです」
「隠し子……嘘……」
王国の大きすぎる秘密に触れてしまった。
その意味するところが重責である事は、誰に問いかけなくてもわかりきった事。いくら私でもさすがに荷が重すぎる。
但し馬車は走り続けている。
断った場合、無事に生きて地面を踏む可能性は格段に下がる。
横目に見遣るとキャタモールは油断ならない狡猾な色をその目に浮かべていた。
「……なんでしょう……家庭教師とか?」
「惜しい。教育係である事は間違いありません」
「私に拒否権がないのであれば簡潔に仰ってください」
そこでキャタモールは残忍とも呼べる目つきで初めてお調子者の仮面を脱いだ。
「敏いお嬢さんで感心感心。あなたは国王陛下の隠し子シャーロットをまともな姫に躾け直すのです」
「……なぜ?」
「隣国王子と結婚させて国同士の友情を深めるため」
「……」
腑に落ちない。
いくら隠し子だろうと王族の血が流れているならこんな回りくどい準備は必要ないはず。まして正式な王族として扱うなら、私のような名実ともに傷物の令嬢を教育係として秘密裏に斡旋する必要もないはずだ。
何か裏がある。
私に告げられていない、更なる秘密が。
ただ、今、この状況で私には選択肢など用意されていない。
「……もし、失敗したら?」
「あなたは失敗などしません。失敗するイデアなど、この世に存在するはずがありません」
やはりこの命を人質に取られたか。
「……」
「美しい顔に戻してあげます。悪い話じゃないでしょう?イデア」
囁くとキャタモールは鮮やかにお調子者の仮面を纏った。
「期待していますよっ」
「シスター・グレイス、くれぐれも他言無用でお願いしますよ」
「そちらこそ、見習いとはいえレディ・イデアは当修道院から派遣された身である事を、くれぐれもお忘れなきようお願いします」
馬車の前で威嚇しあう修道院長と宮廷医師を視界に収めながら、シスター・ハンナが溜息を洩らす。
「ここに居てください。あなたは敬虔な方です」
若いシスター・ハンナは生真面目で、シスターとしての暮らしを徹底的に仕込んでくれたという意味で恩人でもある。
そんな彼女の制止を振り切って宮廷医師について行くのは治療のためだ。修道院長シスター・グレイスもキャタモールからの〝お礼〟を受け取るべきだと強く推している。
馬車が走り出してすぐキャタモールは無遠慮に肩を寄せて来た。
「レディ・イデア、あなたは私の新しい助手という事で」
「顔を近づけないでください」
「加えて遠縁という事で」
「わかりましたから、離れてください」
「身持ちの堅いお嬢さんだ」
宮廷で大勢の命を握っている事実がキャタモールを傲慢にしているのだろうか。
「実によろしい」
褒められたところで嬉しくはない。
「キャタモール卿」
そう呼ぶよう命じられている。
「治療の口実とはいえ宮廷に上るというのに身元を偽ってよろしいものでしょうか」
意見を述べてはいけないとは言われていない。
「では早速、私の第二の贈り物の話をしよう」
「第二の贈り物……?」
聞いてしまったら後戻りできなくなる。
そう直感した次の瞬間には言葉が放たれていた。
「命を救われた御礼に、私キャタモールがあなたに打ってつけの仕事を斡旋しましょう」
「……」
身構えるほど恐ろしい話ではない。
寧ろ良い話の可能性もある。私の所在はグレンフェル伯爵領の修道院の修道院長が把握しているのだから、安全は保障されているはずだ。
「実は……」
そうでもないかもしれない。
実は……で始まる話は秘密か醜聞か陰口だ。
「国王陛下には隠し子がいらっしゃり」
「ああ」
私はつい声を洩らし頭を抱えた。
キャタモールが鼻歌に似た笑い声をあげる。
「聞きましたね、イデア。もうあなたは秘密を知った。逃げられませんよ」
嬉しそうに私の腕の辺りを馴れ馴れしく叩く。
さすがに払い除けはしないものの、私は恨みと戸惑いを込めて横目に睨んだ。
「命を助けて差し上げましたのに?」
「あはん。だからこの仕事をあなたにお譲りするのです」
「隠し子……嘘……」
王国の大きすぎる秘密に触れてしまった。
その意味するところが重責である事は、誰に問いかけなくてもわかりきった事。いくら私でもさすがに荷が重すぎる。
但し馬車は走り続けている。
断った場合、無事に生きて地面を踏む可能性は格段に下がる。
横目に見遣るとキャタモールは油断ならない狡猾な色をその目に浮かべていた。
「……なんでしょう……家庭教師とか?」
「惜しい。教育係である事は間違いありません」
「私に拒否権がないのであれば簡潔に仰ってください」
そこでキャタモールは残忍とも呼べる目つきで初めてお調子者の仮面を脱いだ。
「敏いお嬢さんで感心感心。あなたは国王陛下の隠し子シャーロットをまともな姫に躾け直すのです」
「……なぜ?」
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「……」
腑に落ちない。
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ただ、今、この状況で私には選択肢など用意されていない。
「……もし、失敗したら?」
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やはりこの命を人質に取られたか。
「……」
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「期待していますよっ」
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