恐ろしい仮面の王妃様 ~妹に婚約者を奪われた私が国王陛下に愛されています~

希猫 ゆうみ

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54(フィオナ)

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「どうしたんですか?奥様」

その声は鎖された心に不思議なほどするりと入り込んできた。
振り返ると若い庭師がちょうど帽子を取るところだった。

「ドニー」
「ええ、俺ですよ。何かあったんですか?」
「……なぜ?」
「寂しそうな顔してるから」

じわじわと笑いがこみ上げた。私が笑顔で見つめると、ドニーは屈託ない笑みで目を逸らした後で再び私に目を戻した。

「違いました?」
「……」
「だって新婚なのに全然一緒にいる所を見ないし、奥様はちっとも浮かれてない」
「……そう?」

粗野な青年だった。
だけど、顔は悪くない。

いつもどこかに土がついているのは汚くて嫌だけれど、庭師だから文句をつけてはいけない。

「そうですよ。いつも敷地内をふらふらして。何してるんですか?」
「……お散歩」

適度に運動するよう命令されている。
跡取を産むために健康でいなくてはいけないから。

「俺、親方から侯爵様の御令息が新婚で若い奴探してるからってこの仕事もらったんですけど、てっきり新しい時代ってヤツを作りたいんだと思ったんですよね」
「……新しい、時代?」
「そう。使用人と世代を合わせて一緒に生きていくんです。そうすると御主人は誰も疑わなくていいって。絆が固くなるから」

彼の話はよくわからなかった。
アロイシャス侯爵はフランクリンとあの女のためにこの邸宅を用意していた。私が寂しそうに見えたならそれはフランクリンに心がないからではなくて、ここには私の居場所がないから。
だってここは、イデアのために建てられただから。

「そういうの流行ってるんですよね?」
「え?」
「ああ、すみません。俺みたいなのが声をかけちまって」

ぺこりと頭を下げてドニーが再び帽子を被る。
そして私に背を向けて、庭の方へ────私以外の花の方へ歩いていく。

「私……!」

声を上げると長い足が私のために動きを止めて、広い背中が私のためにそこに留まり、土のついた顔が私のために振り向いた。

溢れる想いを止められない。

「独りぼっちなの……!」

涙を、止める必要はない。

「そんな」

ドニーはこちらを向いてからちょっと変な顔で笑って、私から目を逸らした。

「結婚したばっかりだ」

だめ。
私を見て。

「違うの……あの人、私を愛していない……!」
「こんな御屋敷を建ててもらって?」

そう。
私を見て。

「違う!彼が愛しているのは私の姉!姉が結婚するはずだった!」
「……」

ドニー、目を逸らさないで。

「……ここは姉のために建てられたの!」
「じゃあ、なんで」
「姉は彼との婚約を破棄して修道院に入ってしまったの、神の御導きとか言って。だから……私が、代わりに」
「それは……」

ドニーがまた帽子を取る。

「寂しいですね。奥様」
「……!」

私は彼の胸に飛び込んで泣いた。
土と草の匂いがした。彼はなかなか私を抱きしめはしなかった。だけど、広い胸は温かかった。

私は彼の胸に縋り泣き続けた。

あまり時間はかからなかった。

ぎゅっ、と。
ドニーは結局、私を抱いた。
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