恐ろしい仮面の王妃様 ~妹に婚約者を奪われた私が国王陛下に愛されています~

希猫 ゆうみ

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「踊って頂けますか?レディ・イデア」

リムマーク大公国の第二王子アンセルム殿下がそう言って私に手を差し伸べた瞬間、視界の右側でカール殿下が、左ではシャーロットが空気を変えた。

私は平然と微笑みを浮かべたまま、賓客に対して然るべき返答をした。

「喜んで」
「シャーロット、ぜひ私と」

私の返答を聞いた直後、カルネウスがシャーロットを誘う。
一人取り残されるカール殿下の様子を確かめはしなかった。見なくてもわかった。カール殿下は王太子として上品に微笑んでいる。リムマーク大公国との友好関係をより強固にしていくための仮面をカール殿下は外しはしない。

──幸福を得る為には自らが試練に打ち勝たなければなりません。姫様、お隣の国の王子様の目に留まって頂きます。

シャーロットにそう言った時の情景は、音も空気も正確に思い出す事ができる。シャーロットの表情も。カール殿下の微笑みも。
この程度の番狂わせで狼狽える私ではない。

ただキャタモールの事だけは考えたくなかった。
あの狂った男を更に狂わせる事態であるのは確実で、責任の一端は私が負う羽目になるだろう。

アンセルム殿下と踊りながら私は一つの真実の手前にいると気づく。

シャーロットが私を恨めば、偽物の隠し子はキャタモールの共犯者。
シャーロットが解放されると思い込んで喜べば、やはり利用されただけの憐れな被害者。

この後、私たちには二人きりの時間が必要だ。
レッスンではなく、互いの人生を決める判決のために。

「〈あなたは魅力的だ。来てよかった〉」

アンセルム殿下は感情に任せて独り言を呟いたのではなく、間近で私に告げていた。
踊りながら視界が回るその中に、カルネウスと踊るシャーロットが飛び込んでくる。目が合った。一瞬だからというだけでなく、読めない表情だった。そしてどうでもいい事だがカルネウスはあまりダンスが上手くはない。

「〈姫様はもっと魅力的です〉」
「〈完璧な発音だ。いい教師に恵まれましたね〉」
「〈カール殿下です。姫様に実演でお見せするために、私の発音を直してくださったの〉」
「〈こちらに来てくださいますか?〉」
「〈姫様と一緒に?〉」
「〈あなただけでも〉」

即答し兼ねる難問を投げかけてくるが遊びに来たわけではないのだから冗談として受け取るのも最善ではない。

「〈決めるのは私ではありません〉」
「……」

アンセルム殿下は初めて見る異国の顔立ちであるものの、王族としての気品はもちろん、意志の強さや権力といった内在する魅力がその美貌に滲み出ているのがわかる。

「〈私と共に来てくれたら、あなたは決断する権利を得られるよ〉」

私が欲しい物も見抜いている。
そこで曲が変わった。私にとって最も望ましい展開、ダンスの終わりをアンセルム殿下は私に与えた。

アンセルム殿下に導かれカール殿下の元へと戻ると、やはり穏やかな微笑みを浮かべ私を迎える。但しその瞳には見た目通りの雄々しい獣の熱がちらつき、所有欲が差し出された掌から溢れ出ている。

私はその手を取り、隣に並ぶ。
全てはただ生き残るために。
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