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「先生、あの……」
一瞬の隙をシャーロットは見逃さなかった。私も虎視眈々と待ち望んでいた瞬間だ。了解の意味も込めて短く微笑んで見せてから、私はシャーロットの腕に触れた。
それから二人の王太子にこう告げる。
「少し休憩してきますわ。姫様も初めてのお祭りでお疲れですから、少しだけ」
「ああ、もちろん」
カール殿下は即答し、私の肩にずしりと手を置いた。
「こちらは任せてくれ」
カール殿下にも了解の微笑みを送る。
アンセルム殿下とカルネウスには完璧なカーテシーで挨拶を。
「さあ、姫様」
私はシャーロットを連れて自室へと急いだ。大広間からは遠くて安全だ。チチェスター伯爵夫妻の陣地ならキャタモールの待ち伏せも心配しなくていい。
シャーロットは疲労と緊張で硬直し、俯いたまま足だけを動かしている。
私はシャーロットの背中を撫でた。これから判断すべきであり、今はまだ一番の犠牲者であるシャーロットの姿を見ていたかった。真実が逆なら切り替えればいいだけだ。
部屋に着いた。
扉を閉めた。
シャーロットは扉を背にしたまま細い手を握り合わせ俯いている。
私は奥へ進み、中央で振り向いた。
「姫様」
シャーロットがキャタモールの共犯者であれば、私がアンセルム殿下と短くはない時間ダンスを踊っていた事実は不都合且つ不愉快極まりないはず。
国王陛下の隠し子に成りすまし、内気な村娘を演じてきた。私のような口煩い教育係に怒りを覚えたはずだ。そしてそれをひた隠しにするだけの根性を、弱々しい泣き顔の仮面で隠してきた。
今、泣くとしたら。
シャーロットはアンセルム殿下を盗らないでと泣くはずだ。
掴みかけた未来から指を離すはずがない。
「先生……私……っ」
泣き出した。
長引かせるだけ無駄。真実はもうそこに在る。
「姫様。アンセルム殿下が私をダンスに誘ったのは──」
「お似合いでした!」
ぐしゃぐしゃの泣き顔でシャーロットは叫んだ。
少なからず驚いた私にシャーロットは泣き喚きながら詰め寄ってくる。
「カール殿下と踊った時も思いました!先生の方が相応しいって!わかってました!私には無理なんです!」
「姫様……」
無理。
それはどういう意味?
「アンセルム殿下は私ではなく先生を選びました!先生が選ばれたんです!」
悔しいの?
「だったら私……っ」
シャーロットが私に縋りついた。
決して自分から触れはせず、泣いて縋る。
「……結婚しなくてもいいですよね……!?」
気弱な村娘の叫びがそこにあった。
「……!」
この娘を逃がさなくては。
「帰りたいんです……!私、姫様なんかじゃありません……!私……私は……!」
「あなた……」
手を伸ばした。
私の手を、シャーロットは避けた。歌姫と元孤児の間に生まれた彼女には貴族の血が一滴も流れていないのだ。この瞬間の恐怖は私の比ではないだろう。
私がカール殿下の豹変を恐れたように、シャーロットは私を恐れている。私という命綱を。だから懐いたのだ。
「シャーロット」
名を呼んだ。それから安心させる言葉を繋げようとした。
けれど私が名を呼んだ瞬間にシャーロットは声を絞り出した。
「故郷に約束した人がいるんです……!」
「──」
え?
一瞬の隙をシャーロットは見逃さなかった。私も虎視眈々と待ち望んでいた瞬間だ。了解の意味も込めて短く微笑んで見せてから、私はシャーロットの腕に触れた。
それから二人の王太子にこう告げる。
「少し休憩してきますわ。姫様も初めてのお祭りでお疲れですから、少しだけ」
「ああ、もちろん」
カール殿下は即答し、私の肩にずしりと手を置いた。
「こちらは任せてくれ」
カール殿下にも了解の微笑みを送る。
アンセルム殿下とカルネウスには完璧なカーテシーで挨拶を。
「さあ、姫様」
私はシャーロットを連れて自室へと急いだ。大広間からは遠くて安全だ。チチェスター伯爵夫妻の陣地ならキャタモールの待ち伏せも心配しなくていい。
シャーロットは疲労と緊張で硬直し、俯いたまま足だけを動かしている。
私はシャーロットの背中を撫でた。これから判断すべきであり、今はまだ一番の犠牲者であるシャーロットの姿を見ていたかった。真実が逆なら切り替えればいいだけだ。
部屋に着いた。
扉を閉めた。
シャーロットは扉を背にしたまま細い手を握り合わせ俯いている。
私は奥へ進み、中央で振り向いた。
「姫様」
シャーロットがキャタモールの共犯者であれば、私がアンセルム殿下と短くはない時間ダンスを踊っていた事実は不都合且つ不愉快極まりないはず。
国王陛下の隠し子に成りすまし、内気な村娘を演じてきた。私のような口煩い教育係に怒りを覚えたはずだ。そしてそれをひた隠しにするだけの根性を、弱々しい泣き顔の仮面で隠してきた。
今、泣くとしたら。
シャーロットはアンセルム殿下を盗らないでと泣くはずだ。
掴みかけた未来から指を離すはずがない。
「先生……私……っ」
泣き出した。
長引かせるだけ無駄。真実はもうそこに在る。
「姫様。アンセルム殿下が私をダンスに誘ったのは──」
「お似合いでした!」
ぐしゃぐしゃの泣き顔でシャーロットは叫んだ。
少なからず驚いた私にシャーロットは泣き喚きながら詰め寄ってくる。
「カール殿下と踊った時も思いました!先生の方が相応しいって!わかってました!私には無理なんです!」
「姫様……」
無理。
それはどういう意味?
「アンセルム殿下は私ではなく先生を選びました!先生が選ばれたんです!」
悔しいの?
「だったら私……っ」
シャーロットが私に縋りついた。
決して自分から触れはせず、泣いて縋る。
「……結婚しなくてもいいですよね……!?」
気弱な村娘の叫びがそこにあった。
「……!」
この娘を逃がさなくては。
「帰りたいんです……!私、姫様なんかじゃありません……!私……私は……!」
「あなた……」
手を伸ばした。
私の手を、シャーロットは避けた。歌姫と元孤児の間に生まれた彼女には貴族の血が一滴も流れていないのだ。この瞬間の恐怖は私の比ではないだろう。
私がカール殿下の豹変を恐れたように、シャーロットは私を恐れている。私という命綱を。だから懐いたのだ。
「シャーロット」
名を呼んだ。それから安心させる言葉を繋げようとした。
けれど私が名を呼んだ瞬間にシャーロットは声を絞り出した。
「故郷に約束した人がいるんです……!」
「──」
え?
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