恐ろしい仮面の王妃様 ~妹に婚約者を奪われた私が国王陛下に愛されています~

希猫 ゆうみ

文字の大きさ
73 / 84

73(フィオナ)

しおりを挟む
「娘を返して……」

本当に酷い事が起きた。
夫が……あの悪魔が、私の産んだ赤ちゃんを余所へやってしまったのだ。

産後、起き上れるようになって、私は夫フランクリンを責めた。
すると彼から返されたのは謝罪でも後悔でもなく、嘲笑だった。

フランクリンは鼻で笑い目を眇めた。

「庭師と不貞を働いた君が僕の子を産むはずがない」
「あなたのせいでしょう?」
「僕が何をしたと言うんだ。君が至らなかっただけだ」
「ドニーは辞めさせたじゃない!」
「ああ。だが、時期は被ってる。せめて息子なら、成長して僕に面影が似ていれば正式に後継者として引き取ってもいいと思ったが……娘ではね」

怒りで頭がおかしくなりそう。
どうしてこんなに酷い仕打ちができるのだろう。

「あなたが私を選んだのよ」
「ああ。失敗した」
「こんな男、あのまま婚約していたってお姉様の方から捨てたでしょ!」

叫んで手あたり次第に物を投げる。
花瓶が砕け、置き物が壊れ、飾り用の美しい食器が割れる。

それでもフランクリンはせせら笑う。

「どうかな。やはりイデアは君とは違う」
「?」

まだあの女に未練があるというの?
とても正気とは思えない。

「どういう事?」
「僕の娘か土臭い平民の娘か知らないが、君の娘である事は確かだろう」

当たり前だ。
母親である私から娘を奪っておいて、何を言っているのだろう。

「つまりグレンフェル伯爵夫妻の孫娘だ」
「!」

私はフランクリンに掴み掛かっていた。

「グレンフェルうち伯爵家にいるの!?」

フランクリンは私を払い除けてまた笑った。今度は、声をあげて。

「ははは。まさか。君みたいな顔だけ綺麗な出来損ないを育てた二人に、僕の娘かもしれない赤ん坊を預けるわけないだろう」
「じゃあなんなの?」
「イデアの元に預けた」
「──」

言葉を失った。
目の前の情景が、一枚の古い絵のように、色褪せ、完全に動きを止める。

それでもフランクリンの声が聞こえる。

「イデアのいる女子修道院だ。あそこは国で一番大きな女子修道院だし、何人も孤児を引き取って立派なシスターに育て上げている。今ではイデアがいるんだ。彼女に任せれば素晴らしい娘に育つさ。何といってもイデアの姪なんだ。出来によっては僕に似ていなくても養女として迎えてやってもいいかもしれない。イデアなら君の悪い所も全部わかっているし、上手く矯正してくれるだろう」

手を掴まれ、現実に引き戻された。

「!?」
「さあ、次はしっかり跡継ぎを産んれくれ」
「……え?」

愕然とする私を、フランクリンはベッドへと引き摺って行く。

「待って……やめて……っ」
「君は息子を産まなくてはいけないよ。今なら他で遊ぶ体力もないだろうし、丁度いい。たとえ娘でも今度は僕の子だろうしね」
「いやっ」

はっきりと理解した。
この不幸な結婚の全ては、あの女のせいだと。

数日後、私はフランクリンの目を盗んで実家に帰った。体力的にはとてもきつかったけれど、あの女に負けたくないという気持ちと、娘を取り戻したい気持ちで前に進む事ができた。

懐かしい生まれ育ったグレンフェル伯爵家は、何故か慌ただしく私を迎えた。
そして父も珍しく満面の笑みで私を抱きしめた。

「おお、フィオナ。よく戻ったな。元気か?」
「え?え、ええ……いいえ」

混乱してしまう。
フランクリンの悪魔の所業を知らないのだと思い、私は父に泣いて訴えた。ところが。

「そんな事はどうでもいい!」

父はまだ嬉しそうに笑っている。

「どうでもいいって……私の、赤ちゃんが……」
「フランクリン様に聞いてないのか?今度、国王陛下が退かれ王太子が即位される。若きカール国王の妃は誰だと思う?私のイデアだ!」
「え……?」

そんな、まさか。
体中から冷たい汗が噴き出して、私は卒倒しそうになる。近くの壁に手をついて体を支えなければ、とても立っていられなかった。

吐きそう。

「だって、お姉様は、シスターに……」
「ああ。聖女になれと送り出したが、もっといい!王妃だ!!」

王妃?

「お前の娘は宮廷で育つかもしれん!イデアに礼を言わないとな!ああ、なんと素晴らしい人生だ!!」
「……」

私はふらふらと父の元を離れ、宛てもなく歩いた。どこか人気の無い所へ行きたい。その思いで、私は無意識に自分の部屋へと向かって階段を上がっていたらしい。

廊下で、ばったり母と会った。

「まあ!フィオナ!」
「……」

母も嬉しそうに、浮かれた様子でおしゃれをして、笑っている。

「お母様……私……」
「おかえりなさい、フィオナ!」

私はきっと酷い顔色であるはずなのに、母は私を笑顔で抱きしめる。

「お祝いに来たの?それとも赤ちゃんの事?」
「え?」

私の髪を撫でながら、母は笑顔で私の顔を覗き込んでくる。
どうやら泣いて訴える必要がない程、私以上に、母は娘の事を知っているようだった。なぜなら声を潜め、人差し指を唇に押し当てて言ったから。

「実はね、フランクリン様が私はお祖母様だからって会わせてくれたの。可愛いかった。あなたそっくり!」

私の赤ちゃんに、会った?

「なぜ、笑っていられるの……?」
「それはイデアの事があるから。ねえ、フィオナ。いい?過ぎた事は仕方がない。でもあなたにはまだチャンスがある。頑張って、もっとたくさん子供を産むの。今度こそフランクリン様の子をね。だってフィオナ、あなたの産む子はみんな王族のいとこになるのよ!」
「……────」

限界だった。
私は意識を手放した。
しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。 戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。 『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。 ※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。 時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。 一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。 番外編の方が本編よりも長いです。 気がついたら10万文字を超えていました。 随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」 公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。 死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」 目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。 「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」 隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。 そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……? 「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」 資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!

秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。 民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。 「おまえたちは許さない」 二度目の人生。 エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。 彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。 1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。 「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」 憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。 二人の偽りの婚約の行く末は……

幼馴染が熱を出した? どうせいつもの仮病でしょう?【完結】

小平ニコ
恋愛
「パメラが熱を出したから、今日は約束の場所に行けなくなった。今度埋め合わせするから許してくれ」 ジョセフはそう言って、婚約者である私とのデートをキャンセルした。……いったいこれで、何度目のドタキャンだろう。彼はいつも、体の弱い幼馴染――パメラを優先し、私をないがしろにする。『埋め合わせするから』というのも、口だけだ。 きっと私のことを、適当に謝っておけば何でも許してくれる、甘い女だと思っているのだろう。 いい加減うんざりした私は、ジョセフとの婚約関係を終わらせることにした。パメラは嬉しそうに笑っていたが、ジョセフは大いにショックを受けている。……それはそうでしょうね。私のお父様からの援助がなければ、ジョセフの家は、貴族らしい、ぜいたくな暮らしを続けることはできないのだから。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

処理中です...