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「ましになってきたわ」
私は鏡の中の自分を褒めた。
密かに心でカルネウスを嘘吐きと罵った回数は少なくないが、実際、リムマーク大公国の末端の王子は優秀な医師であり、且つ熱心だった。現在は痛みはほぼなく、若干痒い。酷すぎる肌荒れ程度にまで回復し、あの赤い斑点の時と同じような醜さだ。
カルネウスは私の治療に当たる傍らキャタモールの記録や処方箋などを調べて改良を加え、短期間で素晴らしい治療クリームを作った。私はそれを、シャーロットが作ってくれた美しいレースのマスクの内側のガーゼに塗りつけ、装着している。
私が応急処置を受けている間にも着実に悪化したらしいキャタモールは、今では全く喋れないそうだ。
しかし娘の居所を突き止めたいエルズワース3世が獄中のキャタモールを結果的に優遇している為、かなり太々しく過ごしているらしい。痛みを堪え食欲は旺盛だとか。
私は当初、唇の傷みも酷くコイン程に千切ったパンさえ苦労して食べた。
忌々しく憎い事この上ないが、生にしがみ付いてくれているのはよかった。精神的に軟弱なエルズワース3世にはキャタモールから真実を引き出すのは難しいだろう。だが私は違う。
カール陛下──この呼称に慣れなくては──に新たな仮面の製作を依頼すると、彼は二つ返事で快諾した。仮面とは素晴らしい芸術だ。公の場ではシャーロットが代わりを務め活躍してくれたが、私もこの痒みが引けば着用できる。
顔を傷つけられたくらいで負ける私ではない。
私は失敗したかもしれないが、負けてはいない。
悪魔のような恐ろしい仮面をつけた上でキャタモールの尋問を行うつもりだ。口は言葉を語らないかもしれないが、手は動く。書きたいようにしてやればいいだけの話だ。
カルネウスは優秀な医者であり、キャタモール以上の知識があった。
協力を願うと彼もまた快諾した。
「その時あなたが仮面を被っているなら都合がいい」
カルネウスは自白剤を調合し、私には有効な尋問の手順を教えてくれる。チチェスター伯爵夫人は空になった香水の瓶を提供してくれた。
当然カール陛下もその日を心待ちにしている。
「万が一、陛下が噴射された自白剤を少量浴びたところで、私への愛を囁くだけでいつもの陛下とそう変わらないわ」
「いけません。廃人になる恐れが」
「そう。では、機会は一度きりなのね」
では私らしく完璧にやり遂げるまで。
カルネウスの丁寧な診察の傍らで、シャーロットが自作の美しいマスクの内側に薬を塗布している。未だ私の顔は美しくないが、シャーロットが作ってくれた蝶のようなレースのマスクをつけると気分がいい。いつものように紐を耳に掛け、私の顔を労わりながら優しく圧迫するところまでシャーロットは丁寧にしてくれる。
「ありがとう、シャーロット」
伝えると、シャーロットは微笑み、これくらいなんでもないというように首を振った。
彼女は宮廷に残り、チチェスター伯爵夫人と共に私の身の周りの世話をしてくれている。
故郷にいる例の約束をした人物とは、養母であるらしかった。将来を約束した恋人というのは私の早とちりだったのだ。養母恋しさに故郷へと帰ったシャーロットは、その養母に送り返された。私の話をした際に、そんなに感謝しているなら私に誠心誠意仕えるようにと窘められたらしい。
シャーロットは私に感謝しているそうだが、私は自分が生き延びる為に教育係としての務めを果たしたに過ぎない。今の私への献身の方が、余程、感謝に値する。ましになってきたが、私の顔は自分で見ても恐ろしい。
いつまでも私の元に縛り付けてはおけないと思いながら、私は新しい関係の中で共に過ごす時間を愛し始めていた。
健気で可愛い努力家のシャーロットがまるで本当の妹のように思えた。
シャーロットは私の顔が完治するまでカルネウスの治療を受けないと言っている。キャタモールが残した鼻の傷の為にカルネウスは薬を調合済で、シャーロットにも渡してあった。それを大事にしまい込んでいるのだ。
早くよくならなくては。
「あら、お揃いですね」
チチェスター伯爵夫人が現れ、仮縫いの時を告げる。
もう少し顔がましになり痒みが引いた私に待っているのは、極悪非道な中年鷲鼻男の尋問だけではない。
結婚式。
婚約発表を省略し、私はアレテイト国王カール陛下の妃になるのだ。
私は鏡の中の自分を褒めた。
密かに心でカルネウスを嘘吐きと罵った回数は少なくないが、実際、リムマーク大公国の末端の王子は優秀な医師であり、且つ熱心だった。現在は痛みはほぼなく、若干痒い。酷すぎる肌荒れ程度にまで回復し、あの赤い斑点の時と同じような醜さだ。
カルネウスは私の治療に当たる傍らキャタモールの記録や処方箋などを調べて改良を加え、短期間で素晴らしい治療クリームを作った。私はそれを、シャーロットが作ってくれた美しいレースのマスクの内側のガーゼに塗りつけ、装着している。
私が応急処置を受けている間にも着実に悪化したらしいキャタモールは、今では全く喋れないそうだ。
しかし娘の居所を突き止めたいエルズワース3世が獄中のキャタモールを結果的に優遇している為、かなり太々しく過ごしているらしい。痛みを堪え食欲は旺盛だとか。
私は当初、唇の傷みも酷くコイン程に千切ったパンさえ苦労して食べた。
忌々しく憎い事この上ないが、生にしがみ付いてくれているのはよかった。精神的に軟弱なエルズワース3世にはキャタモールから真実を引き出すのは難しいだろう。だが私は違う。
カール陛下──この呼称に慣れなくては──に新たな仮面の製作を依頼すると、彼は二つ返事で快諾した。仮面とは素晴らしい芸術だ。公の場ではシャーロットが代わりを務め活躍してくれたが、私もこの痒みが引けば着用できる。
顔を傷つけられたくらいで負ける私ではない。
私は失敗したかもしれないが、負けてはいない。
悪魔のような恐ろしい仮面をつけた上でキャタモールの尋問を行うつもりだ。口は言葉を語らないかもしれないが、手は動く。書きたいようにしてやればいいだけの話だ。
カルネウスは優秀な医者であり、キャタモール以上の知識があった。
協力を願うと彼もまた快諾した。
「その時あなたが仮面を被っているなら都合がいい」
カルネウスは自白剤を調合し、私には有効な尋問の手順を教えてくれる。チチェスター伯爵夫人は空になった香水の瓶を提供してくれた。
当然カール陛下もその日を心待ちにしている。
「万が一、陛下が噴射された自白剤を少量浴びたところで、私への愛を囁くだけでいつもの陛下とそう変わらないわ」
「いけません。廃人になる恐れが」
「そう。では、機会は一度きりなのね」
では私らしく完璧にやり遂げるまで。
カルネウスの丁寧な診察の傍らで、シャーロットが自作の美しいマスクの内側に薬を塗布している。未だ私の顔は美しくないが、シャーロットが作ってくれた蝶のようなレースのマスクをつけると気分がいい。いつものように紐を耳に掛け、私の顔を労わりながら優しく圧迫するところまでシャーロットは丁寧にしてくれる。
「ありがとう、シャーロット」
伝えると、シャーロットは微笑み、これくらいなんでもないというように首を振った。
彼女は宮廷に残り、チチェスター伯爵夫人と共に私の身の周りの世話をしてくれている。
故郷にいる例の約束をした人物とは、養母であるらしかった。将来を約束した恋人というのは私の早とちりだったのだ。養母恋しさに故郷へと帰ったシャーロットは、その養母に送り返された。私の話をした際に、そんなに感謝しているなら私に誠心誠意仕えるようにと窘められたらしい。
シャーロットは私に感謝しているそうだが、私は自分が生き延びる為に教育係としての務めを果たしたに過ぎない。今の私への献身の方が、余程、感謝に値する。ましになってきたが、私の顔は自分で見ても恐ろしい。
いつまでも私の元に縛り付けてはおけないと思いながら、私は新しい関係の中で共に過ごす時間を愛し始めていた。
健気で可愛い努力家のシャーロットがまるで本当の妹のように思えた。
シャーロットは私の顔が完治するまでカルネウスの治療を受けないと言っている。キャタモールが残した鼻の傷の為にカルネウスは薬を調合済で、シャーロットにも渡してあった。それを大事にしまい込んでいるのだ。
早くよくならなくては。
「あら、お揃いですね」
チチェスター伯爵夫人が現れ、仮縫いの時を告げる。
もう少し顔がましになり痒みが引いた私に待っているのは、極悪非道な中年鷲鼻男の尋問だけではない。
結婚式。
婚約発表を省略し、私はアレテイト国王カール陛下の妃になるのだ。
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