恐ろしい仮面の王妃様 ~妹に婚約者を奪われた私が国王陛下に愛されています~

希猫 ゆうみ

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「私のお腹にいた陛下のお世継ぎを狙ったそうね。お陰様で無事に産まれたわ。元気」

キャタモールを尋問した時と同様の醜悪な悪魔じみた仮面をつけ、私は陛下に並んでいる。

お産の終盤に私は「私を怒らせて」と叫んだらしく、その時、謁見の間で妹がシャーロットを傷つけようとした事件を知らされた。苦労はしたが概ね安産だった。
産後の肥立ちは頗るよく、私は新たな宮廷医師モラレス伯爵夫人を驚かせた。

王子の名はギデオン。古き時代を破壊し世を救った英雄の名を、カールが付けた。私も満足している。
残念ながら双子には恵まれなかったが、私の体はまだ数人の英雄を産みだせそうである。
そして夫を愛している。

さて。
充分に回復した私は快気祝いの宴を催し、翌日、議事堂に妹を連れて来させた。
公の場に復帰し最初にしなければならないのは、この愚かな妹フィオナの処分だ。

「あなた、自分が何をしたか理解しているの?」

大臣たちは固唾を飲んで見守っている。中にはこの場で公開処刑が行われるのではと噂していた者までいるとのこと。
この私が議事堂を汚すと思わないでほしい。見縊られたものだ。

フィオナの方も優雅な幽閉暮らしを送っていたらしく、顔色といい体格といい、草臥れた様子は一つもない。これだけの男に囲まれても媚び一つ売らず、じっと一点を見つめている。
その視線を上げ、私を捉えた。

「お姉様ばかり狡いじゃありませんか。私から何もかも奪い尽くし、ご自分だけ全てを手に入れて」
「それが本音?」
「ええ。傲慢で目障りなお姉様を私の人生から消したかった。ずっと、ずっと……だから後悔はしていません。こんな女を崇めるような国なら滅んでしまえばいいと思います」

議事堂内がざわつく。
姉妹の確執を遥かに超えた悪意という現実を、誰もが受け止めざるを得ない。

私は席を立ち、一歩ずつ、妹の元へと足を運んだ。
フィオナは王妃の妹であり罪人、兵士を侍らせ鎖で繋がれている。

意外だった。
フィオナの眼光の鋭さ、溢れる憎悪と怒り、そして年月が彼女を随分と美しい貴婦人に作り替えている。甘く儚いおっとりとした彼女の面影はどこにもない。

フィオナも仮面を被り生きてきた。
そうでなければ生き延びられなかった。

そういう事だろう。

「陛下」

私を見守っているであろう若き国王へ、妹に目を据えたまま呼びかける。

「女を守る法律ができたのですから、次は、女を罰する法律も作らなくてはなりませんね」
「……」

フィオナが私を睨んだ。
私は告げる。

「あなたのために監獄を建てる。あなたは私と共にその名を歴史に刻み、アレテイト王国で一人目の女囚になるのよ」
「自分の実の妹を檻に閉じ込め貶めるだなんて、随分と恐ろしい仮面の王妃様ですこと!」

鎖を鳴らしフィオナが叫んだ。
私はゆっくりと一歩ずつ妹への距離を詰めていく。劇的に、印象的であるように。

私たちの名が永遠に語り継がれていくように。

「悪魔の仮面がお似合いよ!あんなに気持ち悪い顔になっていた女を妃にするなんて絶対に気の迷いだわ。いつか国王の目が覚めてお姉様も私と同じように檻に放り込まれるでしょうね。その時はもう一番じゃない。だって世界で一番醜い顔の女囚になるのよ。囚われても美しい私とは違ってね!」

どうやらフィオナはキャタモールの陰謀について詳細は知らないらしい。

恐らく、薬師と称しながらシスター・ハンナを探し回っていたキャタモールが、姉への悪意を拗らせた令嬢に薬を売りつけ小金を稼ごうとしたのだろう。せっかく稼いだ小金を濁流で失った腹いせに、丁度よく現れた私を利用してやろうと考えたとしたら、なかなかキャタモールらしいのではないだろうか。

キャタモールは廃人になり、日夜、地獄へ落ちる恐怖に泣き叫んでいて、些末な事実を確かめる術は失われていた。だが構わない。今やこの問題は世継ぎの抹殺未遂であり、王妃殺害未遂。姉妹の確執の範疇を遥かに越えている。

「私の妃が醜かった事など一度もない」

カール陛下が硬質な声で宣言し、フィオナの口を噤ませた。
私はフィオナの前に立ち、仮面を外す。

「……!」

傷一つない私の顔を見たフィオナは瞠目し息を止めた。
私は妹の顔を仮面で塞いだ。

「あげるわ。あなたの方が似合う」


この日の出来事を多くの大臣や貴族が日記、或いは手記に書き残したらしい。
背筋が凍るほど美しい二人の悪女が……や、王妃イデアの美貌に誰もが目を奪われ息を飲んだ……などの記述が散見されたらしいが、それは私の知るところではない。

ちなみにもう一人の美しい女としてシャーロットの名が歴史に刻まれている。
身重の王妃の身代わりを務めた健気な侍女は、リムマーク大公国からの賓客カルネウス王子に見初められ妃になった……と。

それもまた、私たち当事者には知る由もない事だ。
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