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学長室からの帰り道。
長い回廊をとぼとぼと歩いていた私は見てしまった。
生徒たちのお気に入りの場所として歴代堂々一位の人気を誇る中庭。
この広い中庭は男女の棟を分ける意味でも重大な役割を担っている。つまり、堂々とデートができたり、出会いが待っている場所。
巨木を中心に、緑の草地と、それを囲む円形に敷かれた美しいタイルの歩道が上から見ても美しい。ベンチでお喋りしたり、草の上に寝転んで昼寝をしたり、木製のブランコで微睡んだり……教員たちの目が届くこの場所ではかなり自由に寛ぐことも黙認されていた。
そこにジュリアンがいた。
「……」
私は足を止め、手摺りに捉まり、彼を見下ろす。
「……」
ジュリアンは巨木の幹に寄りかかり、大人っぽい令嬢と抱きあっている。
新入生とのことだったけれど、身長も私より高いし、スタイルも魅力的だ。とても15才には見えない。肩で切りそろえた艶のある金髪に、驚くほど白い肌。
確かに、その子は美しかった。
表情までは見えない。
けれど、木の幹に寄りかかるジュリアンに大胆に抱きついて甘えている様子は離れていてもよくわかる。
目が逸らせなかった。
ジュリアンはその子の髪を優しく撫でたり、じっと見つめ合ったり、本当に恋人として振舞っている。
やがて二人は、昼下がりの木陰で長いキスを始めた。
「……っ」
耐えられない。
私は走った。
次の授業へ向かわなければならなかったけれど、目的地なんてない。ただこの場から消えてなくなりたい。
私は人気の無い方を無意識に選びながら号泣して走っていた。
薄暗く狭い螺旋階段を上り、こらえきれなくなった嗚咽を洩らしながら逃げ続ける。
学園の構造は中庭を見下ろす教室棟と図書室と食堂、中庭を左右から挟む男女別の寮、教室棟の正面は大小合わせて三つの広間の上階に教員たちの居住区があり礼拝堂と校門に繋がる大階段を有する総称〝エントランス〟と呼ばれる棟で成っており、それらを分ける四つの塔が配置されている。
私は気付くと、塔の一つを上り切っていた。
「……」
見張り台の役目は持っていない。
塔のてっぺんは、美しい飾り窓に囲まれた円形の小部屋。石造りの重厚な屋根から可愛らしいランタンが下がり、狭い空間ながら寛げるような長椅子が置かれ、そこに人が寝ていた。
「…………」
もしかして、秘密の住人?
一瞬、そんな考えが過る。
すぐ正気に戻った私は、その人物が知っている相手だと気づいた。
繊細で美しい顔立ちにしなやかな漆黒の髪がよく似合う、ミステリアスな同級生。行事や図書室では見かけたことのあるくらいだけれど、有名なのでみんな知っている。
孤高のマクダウェル侯爵令息。
初年度にから留年し、私たちより二つ年上で誰とも打ち解けない。
その人の秘密の隠れ家に足を踏み入れてしまったのだ。
「……」
私は抜き足差し足、壁伝いに螺旋階段を下りる為に後ずさる。
次の瞬間。
「こら。逃げちゃうの?」
「!」
なめらかな低い声に呼び止められた。
長い回廊をとぼとぼと歩いていた私は見てしまった。
生徒たちのお気に入りの場所として歴代堂々一位の人気を誇る中庭。
この広い中庭は男女の棟を分ける意味でも重大な役割を担っている。つまり、堂々とデートができたり、出会いが待っている場所。
巨木を中心に、緑の草地と、それを囲む円形に敷かれた美しいタイルの歩道が上から見ても美しい。ベンチでお喋りしたり、草の上に寝転んで昼寝をしたり、木製のブランコで微睡んだり……教員たちの目が届くこの場所ではかなり自由に寛ぐことも黙認されていた。
そこにジュリアンがいた。
「……」
私は足を止め、手摺りに捉まり、彼を見下ろす。
「……」
ジュリアンは巨木の幹に寄りかかり、大人っぽい令嬢と抱きあっている。
新入生とのことだったけれど、身長も私より高いし、スタイルも魅力的だ。とても15才には見えない。肩で切りそろえた艶のある金髪に、驚くほど白い肌。
確かに、その子は美しかった。
表情までは見えない。
けれど、木の幹に寄りかかるジュリアンに大胆に抱きついて甘えている様子は離れていてもよくわかる。
目が逸らせなかった。
ジュリアンはその子の髪を優しく撫でたり、じっと見つめ合ったり、本当に恋人として振舞っている。
やがて二人は、昼下がりの木陰で長いキスを始めた。
「……っ」
耐えられない。
私は走った。
次の授業へ向かわなければならなかったけれど、目的地なんてない。ただこの場から消えてなくなりたい。
私は人気の無い方を無意識に選びながら号泣して走っていた。
薄暗く狭い螺旋階段を上り、こらえきれなくなった嗚咽を洩らしながら逃げ続ける。
学園の構造は中庭を見下ろす教室棟と図書室と食堂、中庭を左右から挟む男女別の寮、教室棟の正面は大小合わせて三つの広間の上階に教員たちの居住区があり礼拝堂と校門に繋がる大階段を有する総称〝エントランス〟と呼ばれる棟で成っており、それらを分ける四つの塔が配置されている。
私は気付くと、塔の一つを上り切っていた。
「……」
見張り台の役目は持っていない。
塔のてっぺんは、美しい飾り窓に囲まれた円形の小部屋。石造りの重厚な屋根から可愛らしいランタンが下がり、狭い空間ながら寛げるような長椅子が置かれ、そこに人が寝ていた。
「…………」
もしかして、秘密の住人?
一瞬、そんな考えが過る。
すぐ正気に戻った私は、その人物が知っている相手だと気づいた。
繊細で美しい顔立ちにしなやかな漆黒の髪がよく似合う、ミステリアスな同級生。行事や図書室では見かけたことのあるくらいだけれど、有名なのでみんな知っている。
孤高のマクダウェル侯爵令息。
初年度にから留年し、私たちより二つ年上で誰とも打ち解けない。
その人の秘密の隠れ家に足を踏み入れてしまったのだ。
「……」
私は抜き足差し足、壁伝いに螺旋階段を下りる為に後ずさる。
次の瞬間。
「こら。逃げちゃうの?」
「!」
なめらかな低い声に呼び止められた。
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