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嘘だと思いたかった。
けれど呆然とする私を一瞥して立ち去ったジュリアンの無慈悲な背中は、完全に私を拒絶していた。

興味がない。
私はもう、ジュリアンにとって価値のない存在になったのだ。

抜け殻のようになってしまった私を周囲は驚いていた。去年まで同室だった子はジュリアンを呼びに走ってくれた。でも、ジュリアンは私を心配する様子はなく、むしろ面倒事を疎むような態度だったそうだ。

じわじわと周囲も私たちに何が起きたのかを察していく。

ジュリアンは我儘で一度言い出したら聞かない。それを幼馴染の私はよく理解していた。

「まあ、気の迷いでしょう」
「すぐ戻ってくるわよ」
「彼は間違っている」
「きっと後悔するわ」

励ましてくれる人にはその気遣いへの感謝しか伝えられない。
私にはもうわかっていたのだ。

元には戻らない。

ベストカップルに選ばれると、学園の顔のひとつとして、今後入学してくる令息や令嬢への手紙の返事を書くというものがある。

こんなに素晴らしい生活ですよ。
学ぶのは大切で有意義ですよ。

そのような自由気ままな暮らしは不可能ですよ。
残念ながら泳げるような湖は敷地内にはありません。

……等の、模範生としての学園案内係。
この手紙の返信という作業は主に夕食後から消灯までの余暇の時間を費やすことになるため、ベストカップルである二人は特別にそれぞれの個室を与えられ、代々引き継いでいた。

私には、励まし、慰めてくれる友人はいる。
けれど夜は独りぼっちで手紙の返信に追われることになった。

「素晴らしい……学園、生活……」

傷ついた心で臨むには辛過ぎた。

頑張らなくちゃ……
私は、貴族令嬢なのだから……

『未来の結婚相手を探すコツはありますか?』
『ベストカップルは私の憧れです』
「……っ」

涙で手紙を汚すわけにはいかない。
私は作業を中断し、ベッドに潜り込んだ。

そんな日が数日続くと、学園内でも少しずつ変化が表れていた。

「由々しき事態です」

侯爵でもあるレフトウィッチ学長に、個別に呼び出された。
長い髭をたくわえた貫禄あるレフトウィッチ学長を前に、私は俯いたまま顔が上げられない。

「はい、申し訳ありません……」

この世の終わりというのは、こういう事だと思った。
けれどレフトウィッチ学長は語調を和らげこう続ける。

「エレノア。あなたに非がないことは誰の目にも明らかだ」
「……」

叱責がない分、救われた思いはした。
けれど私の心は、新たに傷つけられなかった分、更に深く深く沈んでいく。

そう……
私は、何も、間違っていなかったはずなのに……

ただジュリアンを愛し、信じていただけ。
それなのに……どうして……

「……っ」

ぽろりと涙が零れる。
学長室であるまじき事態に、さすがに私も焦って頬を拭った。

「エレノア。こういうことは、暫しあるものだ」
「……」
「今年のベストカップルの役目は、汚名返上の見本を示すこと」
「……はい……っ」

残酷な名誉。
こんなことになるなんて、夢も思わなかった。

「私たちはできる限りあなたを支える。エレノア、難しいことではあるが、あなたは理不尽に傷つけられようと曇る事のない美しい貴族の誇りを皆に知らしめるのだ。わかったね?」
「……」

はい、と。
答えなくてはいけない。

そう頭ではわかっているのに、私の唇は硬く結ばれたまま嗚咽を押し殺している。
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