序・思わぬ収穫?

七月 優

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四歳

春が訪れる前④

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 ヤニュスの月が終わり、フェブリエの月となりました。
 前世の二月に相当する月とあって、こちらでも一番寒い気がします。
 それでも、吐く息が白くなることはない程度の寒さですけどね。残念なことに、今いる場所は冬でも雪が降らない温暖な気候でもありました。

 雪が降らない冬なんて……。私には、苺のないショートケーキと同義です。同じ季節でたとえるのであれば、梅・桜のない春、雷雨伴う夕立のない夏、金木犀の香りない秋のようなものですよ。実に物足りませんね。
 雪かきするほどじゃなくていいので、せめてちらつくだけでも雪が姿を現してくれればいいのに。

 そんな切なさを紛らわすべく、私は図書館で冬や雪が描かれた絵本を読むばかり。
 今、私は孤児院の子たちと共に、この国の首都の図書館に来ていました。

 孤児院の外から見える栄えている集落は、なんとこの国の首都だったんですね。その事実を知った時は、本当にびっくりしました。

 私たちのいる国は、ルミエル国。この世界の中でも、小さな島国となります。
 ルミエル国の東部中央に、首都があります。
 孤児院は、首都の西郊外に位置していました。

 首都というだけあって、大きな外壁の中は、私の予想以上には賑わっていましたね。
 往来も激しく、人族以外の種族の特徴を持つ者たちも見かけます。住居も店も所狭しと並び、都市といっても過言ではありません。

 ですので、図書館も三階建てで結構な広さ。蔵書量も中々のものです。
 読書スペースもばっちり完備され、個室スペースがあるのは特にいいですね。言語の勉強、主に文字の習得練習がしやすいです。

 当初は、こちらの世界の言語の近くに日本語をばっちり紙に書いてしまっていましたが……。
 冷静になると、完全アウトですよね。
 その考えに至った瞬間、すぐにそんなアホの所業はやめましたとも。

 こちらの世界に輪廻転生の考えがあるか、定かではありませんし。
 そもそも、普通であれば、前世の記憶があるなんて理解しがたいし、気味悪がる人だっているはずです。しかも、こちらの世界の前世の記憶ならともかく、全く異なる世界で生きていた記憶があるなんて……、尚更許容できないでしょう。

 お か し い 。
 そんな具合に異端と見なされて、最悪排除されることだって考えられます。
 そんなの、ごめんこうむります。
 またいろんなこと経験できないまま死ぬのは、嫌ですよ。
 
 一応、なんだかんだ幼児ってことで、誤魔化せなくもないでしょうが。
 いつか必ず限界は来ます。
 時が流れている限り、子どものままではいられません。
 だったら、今のうちから注意を払っておくに越したことはないでしょう。

 もう今までにそこそこやらかしてしまったことは……どうしようもありません。覆水盆に返らず。
 反省を次に生かし、ポジティブシンキングでやってくっきゃありませんね。

 私の奇行を見てしまった者たちも、いずれその記憶は風化していくはずです。幼児の珍事なぞ、いつか忘れられることを願うだけ。
 おそらく孤児院関係者とは、長く付き合うこともないでしょう。あってもほんの一握りな気がします。
 長く関わりを持たなければ、私なんてすぐ記憶から抹消されるに違いないのです。

 さて、個別読書スペースで、今日も新しい言葉を覚えていきませんとね。
 個別読書スペースは、人二・三人分ほどの間隔が空き、等間隔で設置されています。左右と正面に板のような仕切りが机に取り付けられており、勉強するのにいい感じ。
 仕切りという遮断要素を大いに活用し、図書館では近くに人がいない限り、前世の文字をも紙に記す私がいるのでした。
 読めない&意味が分からないここで出会った未知の単語などは、後々マリエラや院長先生たちにそれとなく訊こうと思います。


 * * *
 

 私の勘ですが、孤児院ではプチ強制的に、年上の子が特定の年下の子の面倒を見ているように思います。
 サーダーの日に私を図書館に毎回同行させてくれるのは、孤児院の中でも年長組に属する少女です。
 率先して面倒を見る中の一員に私が入っているであろう彼女は、見た目中三くらい。長い茶髪を三つ編みに結んだ、鼻周辺の薄っすらそばかすがチャームポイント。
 優しく気の利くいい子なんですよね。副院長の私への過剰な対応に、気丈に制止を求めてくれたこともありました。
 そして、真面目に勉学に励んでいる姿をよく見かけます。

 こちらの世界も、受験的なものがないとは限りません。
 彼女が勉強に熱を入れているのは、受験のためとも考えられるんですよね。
 ですので、私だけでなく、孤児院の他の子たちも、極力彼女の勉強の邪魔をしないように気を遣っています。彼女の事情を察するはずもない、幼い年齢の子は別ですけどね。

「リース。そろそろお昼にしましょう」
「はい」

 今日も、お昼などすっかり頭から消え失せていた私を、彼女はわざわざ探し出して呼びに来てくれました。私はそそくさと、その場を片します。

「行こう、リース」
「うん」

 近くにマリエラもいて、三人で図書館から移動しました。
 
 私たちが到着したのは、図書館に隣接された休憩所です。円いテーブルと椅子が所々置かれたそちらは、飲食可となっています。しかも、セルフで自由に水やお茶が飲めるサービスもあります。
 小休憩や食事休憩するのには、とてもいい場所なのです。
 私たち孤児院のメンバーでなるべく固まって、そこで昼食となりました。
 昼食は、サンドイッチなどのフィンガーフード。孤児院で用意した、簡易版お弁当ですね。図書館に赴く年長組が作ってくれたので、味は安心安全です。

「おいしいね」
「うん」

 サンドイッチを頬張った後、無邪気に笑うマリエラ。
 マリエラはきっと、私のようなどす黒い悪意や他意はないに決まってます。

 何はともあれ、過度な気遣いも逃亡もせずに済む、束の間の心の安寧を、堪能しませんとね。
 孤児院での私の心の平静と平和は、いつになったら長く持続してくれるのやら。
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