籠の鳥、雲を慕う

七月 優

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第一部

No.13 買出しの帰りにて

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「なんだあいつ?」
 トレンツがリュファスが去った後ぼそりつぶやいた。
「やっぱり、今日あってた女の子と何かあったんじゃない?」
 ルカが頬づえをついていって
「かもな」
 ハシントがどうでもよさげに言った。
「つーかさ、祭りの後に仕事ってだるくね。だったら、祭りの前か最中にして欲しいんだけど」
 トレンツが頬を膨らませ文句を言うと
「仕方ねーだろ。お袋が何の根拠かその方が盗みやすいって言うんだし」
 ハシントがトレンツにあきらめろとでもいうようにいい放つ。
「まぁ、祭り行けるだけいいんじゃない?」
 ルカのその言葉に
「かもな」
「そりゃな」
 ハシントとトレンツがそれぞれ返した。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 城下町の市場は祭りの前日でもありどこも賑わい、様々なものが売られていた。
「なぁ、リュファス」
 ドレットが呼びかけ
「ん?」
 俺が後ろにいるドレットに振り向く。
「この材料で、お前一体何作る気だ」
 心配そうにいうドレット。
 まぁ、無理もない。買った材料は、小麦粉・卵・肉・魚介類・芋・食物繊維が豊富そうな葉が何層にも重なったこの国の黄緑色の野菜に香辛料やソース類。見たことがあまりない野菜や香辛料にドレットは
「これ本当に食えるのか?」
 そう聞いたほどである。
「まぁ、この国じゃ結構知られてる料理で味もそこまで癖ないから、そう心配すんなよ」
「なら、いいけど・・・・・・」
 あ、信用してねぇ。目を逸らしていうドレットを見て、俺はそう思った。
「別に期待できないなら無理に期待しなくてもいいけどさ」
 前を向きへそを曲げた俺に
「そういや、お前今日会ってた子に金返さないの?」
 唐突に訊ねた。
 その質問に俺は立ち止まり、ドレットが俺の左横に来て立ち止まる。
「何でそんな質問・・・・・・」
 再び歩き始め顔をあわせられない俺に横付けしながら
「だって、お前優しいからな。なんだかんだいって。それに、お前の性格上からしてあいつらのせいで金脅し取っちゃって罪悪感感じてるだろ? 俺がお前だったら、返すだろうなって思ってさ」
 ドレットが微笑んでいった。
「・・・・・・俺ってそんなわかりやすい?」
 俺が思い切ってそう訊ねると
「まぁ、俺からしたらな。船員(クルー)の中じゃ一番付き合い長いし」
 横にいるドレットを少し見上げると、どこか遠くを見ているようだった。そんな俺に目もくれずドレットは続けて
「てか、お前惚れたんじゃない?」
 その一言に俺は顔をゆがめ
「はぁ?」
 すっとんきょんな声を上げた。
「あれ違うの?」
 ドレットが俺に顔を向けからかうようにいって
「何言ってんだよ、それじゃまるで俺があいつに気があるみたいじゃねぇか」
 俺が目を丸くして少しむきになって返した。
「そう言ってんだよ、まぁいわゆる一目ぼれ?」
 臆面もなくドレットが言うと
「恥ずかしいこというなよっ! つーか、もう明後日あたりにこの国たってもう二度と会えないようなやつに誰が・・・・・・」
 最後のほうは少し呆れながら言うと、俺のほうを見ながらドレットが
「そんなの関係ないだろ。別に二度と会えないわけじゃないし。つーか、お前もそろそろ彼女の一人ぐらい作ってもいい年だろ」
 半ば呆れ、半ば説教のように言った。
「・・・・・・ドレットはどうなんだよ? 俺ドレットに彼女いたなんて、生まれてこのかたひとっことも聞いたことないけど」
 嫌みをきかせてそう言うと
「あぁ、だって俺興味ないし」
 淡々とドレットが言った。その言葉に俺が驚愕し
「それってやっぱりハシントたちの言うとおり、女に興味ないってことか」
 恐る恐る訊ねた。
「あー、ちがうちがう。本命以外にってことだよ。てかハシントたちの言うこと真に受けんなよ」
 ドレットがうっかりしていたといわんばかりに言ったその一言目に俺はほっと胸を撫で下ろすが、
「ん? 本命ってことは誰か好きな人いたの?」
「え、あぁ、まぁ、な・・・・・・」
「誰だよ?」
 何気なく俺が訊ねると、ドレットは上を見ながらしばらくして
「秘密」
 ぼそりと一言。
「・・・・・・もしかして俺知ってたりする?」
 ニヤニヤしたいのを必死に抑えて平然としたふりをしてそう訊ねた。
「さあな」
 さらりと逃げるドレットに
「なんだよ、ケチ」
 俺が素直にそう言ってしまい、ドレットが呆れたように笑いながら
「まぁ、ずっと片思いってことだけは教えといてやるよ」
 本当か冗談かわからない口調で言った。
「ドレットが片思い? まじ?」
 それには俺は本当に心底驚いた。本当だとしたら、どんな女(やつ)だろう。ドレットはまず背が高いし、アナイスのとこのお店の女の子たちが体格はいいし顔もいいと絶賛するほどで、男の俺からしてもカッコいいかカッコ悪いと言えばカッコいいと思えるのに。性格も悪くないし、何でずっと片思い? よっぽどすごい女なのかな?
 そんなことを考えていると、
「さぁなー、まぁ俺のことはいいとして、結局今日の子は友達止まりなわけか・・・・・・」
 しみじみというドレットに
「いや、友達にもなってない気がするけど・・・・・・。つーかさ、出会いが悪すぎるだろ。むこうにしてみりゃ金無理やり取られたようなもんだしさ」
 はぁと溜め息一つ。
 そんな俺を見てかドレットが
「でも、公園デートしてたじゃん」
「デートに見えた?」
 実際次会う待ち合わせ場所をあそこにして休んでただけなんだけどね。
「見えた見えた。相手の子の顔はよく見なかったけど、お前が初対面の女の子にあんなに楽しそうに話してるの初めてみたなぁ」
 ドレットにとってほほえましく言ったつもりであろうその言葉に
「へっ?」
 俺は恥ずかしくなってそう口にしてしまう。俺どんな顔してたんだ?
「俺、そんな楽しそうに見えたのか?」
「まぁ、うん。だからてっきり俺お前があの子に惚れたのかななんて・・・・・・」
 頭をかきながらドレットがいって
「いや、ちょっと積もる話があったというか・・・・・・。落ち着いたら、話すよ」
 言い訳がましく俺はそう言うしかなかった。実際、セラのことをちゃんと話すとしたら自分の過去も少しは明かさなければいけないだろうから。まだ、やはりドレットとはいえ話す気にはなれなかった。
「そうか」
 ドレットもドレットでそれ以上のことは深く聞かない。ドレットのそんなところが俺は気に入っていた。
「でもさ、お金取られたようなもんなのに、お前と数時間一緒にいたわけだろ? よっぽど変わってるか、馬鹿なほど世間知らずないい子ちゃんかー」
 ドレットが苦笑い気味に言っている途中で
「多分どっちもだな」
 俺も苦笑い気味に返す。俺も変わっていると思ったし、お人よし過ぎるほどバカないい子ちゃんと確かに言えるかもしれない。そんなとこが、あいつの長所でもあるのかもしれないけど。
「それか、お前に気があるかだよなー」
 ドレットが俺に顔を向ける。対する俺は
「いや、それはないなー」
 落ち着いていえた。
 セラの俺に対する態度はそういうんじゃなくて、初めてのものに対する好奇心というか、そんなものに近い気がする。
「そうかな。ま、気がないにしても仲良くなりたくないやつと俺は一緒にいたくないけどな」
 そう、だよな。確かに、それはいえる、けど、素直に喜びたいのになんか喜べないんだよな。ドレットは俺のこといってるわけじゃないとは思うけど、どっちかっていうとやっぱりイロイロ気になって一緒にいたかったのは俺な気がしてならない。
 あー、もうこの話から少しでもはなれよう!
 俺はそんな考えを払拭するかのように首を鳴らし
「ところでさー、結局、ドレットの本命って誰なんだよ!」
 もうドレットの答えなんてどうでもいいからそう言うと
「んー、じゃあ、お頭?」
 それに俺はふきだし
「なんで疑問系でそんな嘘つくんだよ! 笑えるけど笑えねぇぞ」
「いやいや、俺はゆくゆくはトレンツたちの父親に・・・・・・」
 ドレットは眉をくっつけんばかりに、悩ましげでそう演技して言う。
「もういいって」
「あ、そう? ま、正直年上そんな俺は興味ないけどね」
 本心であろうその言葉に
「まぁ俺もそんなに年上いいとは思わないけど。上下(うえした)関係なく、年より俺は相性の方が大事な気がするな」
 俺の正直な意見に
「お前はそうだよな」
 ドレットがアハハと笑った。失礼な。
「つーかさ、ラナ語だからついこんな話ししたけど」
 俺が呆れてそう言うと、言葉をつなぐように
「あぁ、アガス語だったら俺らほんっとに恥ずかしい話オープンで話してる馬鹿に見えただろうな」
 ドレットがぼそりと同意する。
「ここがアガパンサスで良かった」
「だな」
 そう、ここアガパンサスは自国の言葉アガス語しか喋れない人がほとんどだ。まぁ、それは他の国でもいえることなんだけど。この国は特にひどいと言う噂で、他の国の言葉を書けても、話せないのだ。
 多分、セラも・・・・・・。あれ、どうなんだろう? あいつ、アナウンスみたいなきれいな標準語喋ってたしな。実はラナ語とか話せたり? 明日会えたらちょっとからかってやろうかな・・・・・・。





 オレンジ色の夕暮れから、空はじきに夜の帳がおりようとしていた。




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