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第一部
No.14 夕食と写真
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「おかえりー」
食堂に戻るなり、ルカが俺らにそういった。
「ただいま」
ドレットが机に食材が入った袋を置きながら返す。
俺も机に食材をそっと置く。なぜなら、案の定帰るとハシントとトレンツが机に突っ伏して寝ていたからだ。タオルケットが二人にかけられているが、多分ルカがかけてやったのだろう。静かに寝息を立てている二人を見て
「この二人が寝てると静かだな」
ぼそりと一言。
「確かにそれはいえるな」
ドレットが苦笑いして同意する。
「それよりお腹すいちゃった。俺も手伝うから、早く作ろうよ」
ルカが椅子から立ち上がり大きく伸びをして言うと
「気が利くな。じゃあ、野菜とか切るの手伝ってくれ」
俺が袋からこれから切らなければいけない食材を出していく。
「うわ、何これ鼻水みたい」
ルカが率直な感想を言う。
無理もない。ルカが今しているのは、買ってきた楕円形の茶色い芋の皮を全部むき、すりおろすという作業だ。芋はすりおろすと、粘り気がありとろとろのクリーム色ものになり、その粘り気はなんとも言えない独特なものがあるで、初めての感想としてルカの感想は妥当だろう。
「食べる前からまずくなるようなこというなよ。嫌なら変わるぞ。手、かせるかもしれないし」
苦笑いしながらそう提案すると
「いいよ別に。それよりリュファスも早くそのよくわかんない野菜千切りにしてよね」
ルカはあっさり断った。ちなみにルカがいったよくわかんない野菜とは、葉が何層にも重なったこの国の黄緑色の野菜のことである。
「はいよ」
俺がそう返事をすると
「リュファス、魚介類とか肉切り終わったけど、次どうするんだ?」
真ん中にいるルカの左にいるドレットの声が飛んでくる。
「あー、そのままにしといて。全部さっき作った生地にぶち込むから」
生地は小麦粉に卵、時間がなかったので間に合わせで作っただし汁を混ぜ合わせたものだ。
「火通さなくて大丈夫なの?」
ルカが芋をすりながら訊ね
「あぁ、平気。フライパンで焼いたあと、ふたして結構蒸らすから。ドレットいわく今日買ってきた食材はどれも新鮮らしいから、臭みも出ないだろうし、多分大丈夫」
「へぇ、蒸すんだ。なんか変な料理だね」
ルカが言って
「いくら見たことない食材だからって、いいやつと悪いやつの区別ぐらいつくっての! つーか、蒸すだけでほんと平気かよ」
ドレットが手を洗いながら言った。
「ま、見てなって」
俺はそう言うと、先ほど刻み終わった野菜たちとルカがすり終わった芋をドデカイ生地の入ったボールに入れ、菜ばしで下から上へ持ち上げながら混ぜる。だいたい混ざったところで、最後に魚介や肉を入れ先ほどのように空気を入れるように混ぜていく。
そしてそれらを、油を引いて熱したフライパン三つにそれぞれお玉一杯分を入れ表裏が軽くきつね色になるまで焼きあとは蓋をして待つ。
出来上がったホットケーキのように膨らんだものを見て
「見た目はおいしそうじゃないね」
野菜や魚介や肉やらが焼けた生地からはみ出して見えているのを見てか、ルカが一言言った。
「まぁ、見た目はそんな上品じゃないけど。この上に、買ってきた香辛料とソース各種をかけてと・・・・・・」
俺はぱらぱらと青々とした香りのいい葉を乾燥させ細かくしたものや、緑色や茶色、白といったソースをかけていく。
「そのコケみたいなの本当に食えるんだろうな?」
ドレットが座りながら疑わしい目で俺を見て
「あぁ、アガサンパスでよく見られる虫だっておいしくてこれの生の葉食ってるぞ」
淡々とそう言うと
「虫も食べないものはまずいって確かに言うけどさー」
ルカがハハッと呆れた。
「つべこべ言ってないで、一口食えよ。まぁ、食べないなら食べないでお先に」
俺がフォークで端の方を切り、一口食べた。二人はじっと俺のほうを見て
「どうなんだよ?」
「うまい?」
ドレットとルカがそれぞれ言った。
毒見役に回されたことを怒る気にもなれないほど
「うまい、まじうまい。市販の粉買ってもよかったけど、これだけうまく作れるならかわなくて正解だったな。いや、久しぶりだけど、こんなにうまく作れるなんて」
それを聞いたドレットがまず
「市販の粉売ってたんかい」
その方が安全で簡単だったといわんばかりに言って
「よく久しぶりに作るのに本も見ないで作る気になるよね」
ルカがそういいつつ一口ほおばる。
「え、え、ドレット。真面目にいけるよ、これ」
俺の正面にいるルカが右隣に座るドレットの肩を掴むと
「なんかいいにおいがする」
俺の左隣で机に突っ伏していたトレンツが上半身を起こしだした。そしてトレンツの左隣で
「メシだっ! メシッ!」
まるで先ほどまで寝ていたとは思えない口調でガバッとハシントが上半身を一気に起こした。目覚めがいいというか、よすぎだろ。
トレンツがあくびをしながら、テーブルに並ぶおそらく今日のメイン料理であろうものを見て
「なにこれ? 失敗?」
「見た目わりぃな」
ハシントも思ったことを口にし
「またこのやりとりかよ、めんどくせぇな」
俺は小さくつぶやいた。
結局俺の作った料理は見た目はともかく味は好評で、五人できれいに平らげてしまった。ルカが茶色と白のソースが一番おいしいと言ったり、トレンツは茶色のソースだけの方がいいといったり自分なりに好きな味にしていき、とてもにぎやかな夕食となった。
片付けは珍しく、トレンツとハシントがやってくれるというので、その言葉に甘えて俺は甲板で夜風に当たっていた。空はすっかり闇に包まれ、ところどころに星が輝いている。
「ルカがお茶入れたから飲まないかってさ」
後ろを振り向くと、ドレットがいた。
「あぁ、今行くよ」
俺がドレットの方に歩いていく。ドレットと目が合うと、どうしたわけかドレットはふと目を逸らした。俺が首をかしげ不思議がっていると
「お前、いいのか? このまま、この国出て」
真剣な面持ちで言った。
「なんだよ急に」
目を閉じながらドレットの右隣に、すれ違うような形で立ち止まる。
「俺が、無理やりこの船に連れてきちまったからな。別に、いつ抜けてもいいんだぞ。お前はお前の好きなことすりゃいい。それに、お前こういう職業むいてないから、性格上」
ドレット・・・・・・。そんなこと考えてたのか。
・・・・・・これはちゃんといったほうがいいよ、な。俺は深呼吸すると、
「俺はドレットに感謝してるよ。あんな腐ってた俺を、この船の一員にしてくれて。そりゃまだまだ未熟だけどさ。後悔はしてない。それにもうこの国に俺の居場所はないからな。それでも出てけって?」
「そうはいってねぇけど。・・・・・・分かったよ」
ドレットはそう言うと、ようやく俺と顔を見合わせた。
「早く行こうぜ、俺ぬるいお茶嫌いだからさ」
それを聞くとドレットは笑って
「だな」
食堂に向かう途中、ハシントが書類を抱えてこちらに向かっていた。
「なにそれ?」
俺が訊ねると
「次の仕事でいろいろ集めた情報。盗みに入るのにいらないやつだから捨てに行くんだよ」
「ふーん。にしても、情報収集早かったな。入国時の夜と翌日の朝までで見取り図までそろえちゃったんだろ?」
何気なく言ったその言葉に
「まぁなー、俺様とドレットがいりゃこんなもんよ。特に俺に使用人の女たちがいろいろ親切に話してくれたからさー、おまけに何の疑問も持たずにこうやって個人情報というか屋敷の情報まで提供してくれて」
確かにこの二人なら顔はいいからそうなるか。呆れた話だけどな。
「つーか、その屋敷にちょうどお付き合いのあるこれまたおんなじくらいの金持ち一家が使用人連れて大勢で泊まりに来てたからやりやすかったのもあるけどな。その屋敷の使用人は俺らを泊まりに来た使用人だと思うだろうし、逆もまたしかりって感じで。使用人のふりしなきゃいけなかったから、かつらは辛かったけど」
ドレットが小さくあくびをしながらいって
「だよなー。全員、黒髪や茶髪ばっかだから、俺も茶髪にしなきゃなんなかったし」
ハシントが溜め息交じりに同意する。
確かにこの国は茶髪や黒髪が多いから、地毛じゃないがハシントの金髪も別に世界的に珍しくないのだがこの国では目立つだろうし。ドレットの珍しい地毛の青髪はなおさらだ。
「お疲れさん」
俺がそういうと、ハシントの書類から紙が一枚落ちた。
「悪い、それとって」
ハシントがそう言うと
「はいはい」
俺がそれを取り上げた。別にそこまで興味はなかったが、落ちた紙を裏返しにしてざっと見てみる。写真が左上に小さく乗っており、いろいろ個人情報が載っている。履歴書みたいなもんか・・・・・・。俺は、すぐハシントに渡そうとして、その際写真の人物が目に入った。
薄暗くてはっきりとは見えないが、肩ぐらいの髪のおそらく女。どこかで見た気がした。
そんな違和感が何か突き止めようと
「二人のどっちか、ライトかなんかないか?」
そう訊ねた。
「持ってろよ」
ドレットが呆れて言うと、ペンライトのようなもので紙を照らしてくれた。
「てか、そんなもん常備してんのお前ぐらいだって。準備よすぎだろ」
ハシントもドレットの用意の周到さにほとほと呆れた。
「サンキュ」
俺はそう言うと、写真に目を向けた。
あれ・・・・・・?
俺は驚きを隠せなかった。写真に写っているのは、間違いなく自分が知っているものの顔だった。
ハシントが近寄ってきて写真を見ると
「あぁ、お寝つけ役の子か・・・・・・」
追い討ちをかけるかのようにいった。
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