S級パーティから追放された幸運な僕、女神と出会い最強になる〜勇者より先に魔王討伐を目指す〜

灰色の鼠

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第3章 ー離別編ー

番外 翼の折れた黒い鳥達

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 魔の大陸から送られる刺客の魔物をファンブルに通させないための防衛区画。
 その最前線の砦に、錬金術によって張られた巨大な壁が魔物の進行を抑えていた。


 壁を錬金術した女性「カレン・バレンタイン」は今でも壁を崩されないように魔力を込めている途中だった。


「………くっ!  ダメだわ、数が多すぎて………これ以上、押さえられないわっ」


 息切れた彼女は錬成した壁から手を離して、地面に膝をつけて大量の汗を垂らす。
 その間、壁に次々と亀裂が入り、次第に崩れていく寸前だった。


 そうならない為、カレンの後方で待機していた多勢の防衛隊の兵士たちが動いた。


 その中、魔道士の服装をした物静かそうな女性が地面に膝をつけるカレンの元まで駆け寄り、肩を貸す。
 カレンは親友である彼女「アリシア・ヴァリエ」に嫌な顔1つ見せずに自分を預けて、そのまま前線から後退する。


「ありがと……心配をかけたわ」


 俯きながらカレンは申し訳なさそうに謝ったが、アリシアは「どうって事ないよ!」といった顔で頷いた。
 基本アリシアは喋ったりしない無言な女だが、親友であるカレンには何故か彼女の表情を見るだけで何を言いたいのかが読み取れるのだ。


 びーえふえふぱわー?  そんなところだと、カレンは深く悩んだりはしなかった。


「カレン!  平気か!」


 後退した先には、砦を背にしている残った多勢の兵士に「サクマ・エルドラゴ」がいた。
 サクマ自身、戦闘に特化している訳ではないのでバックアップに呈している、その代わり過去契約したことのある強力な幻獣を召喚しては最前線の兵士らと戦わせている。
 今回サクマが召喚したのは黒いグリフォン、魔物の黒魔力を喰らいつても理性を保てられ、さらに相手の力を得られる有能な幻獣である。


 錬成した壁はもうそろそろ崩壊する。
 魔力切れしたカレンに行動はもう無理だった。アリシアは周囲の魔道士を率いながら敵と戦っていたので、そんな消耗はしていない。
 しかし余裕があるワケではない、もう既に大半の魔道士が魔力切れを起こしているのだ。


 兵士達も魔の大陸から攻めてきた『ミノタウロス』を相手に苦戦を強いられている。
 放ったスキルを反射する鎧、ミノタウロスはそれを駆使しながら魔道士の攻撃を凌ぎ、さらに兵士の中にいる剣士の動きをもコピーして学習していた。


 第1防衛ラインは壊滅寸前だと、強大な敵を前にして逃げていく連中もいる。


「ちっ、役立たずばかりが。なんで俺らをあんな腰抜けた隊に編成したか……」


 どさぐさに紛れて逃げていく兵士らを目にしながら、怪訝な顔でサクマは嫌味を吐き捨てた。
 カレンも同じだ。かつて王国の命により組んでいたパーティから抜けてから、カレンらは良い仕事にありつけるようになった。


 けど、それを良く思わなかった国王はカレンらを招集して玉座の前に並ばせ、事の原因を偽りなく説明させた。
 元凶はすべて玉座の前にはいないトレスだと、3人は揃って王に訴えた。


 王は頭に手を当てながら、驚いた様子もなく「やはりそうか……」と呆れた口調で苦笑いしていた。完全に絶望したような目をしていると、逆に反省させられるカレン達。


 王はトレスの捻くれた性格に、悪い方向へと進んでいく志しを前々から承知していた。
 勇者の候補として彼の名前が世界中に上がってから、不安は募るばかりで王はお腹を痛くさせていた。


 カレンとアリシア、サクマには非はない。
 自分に忠義を必死に尽くしてくれる3人だと、王は特に責めたりはしなかった。
 しかしパーティを無断で解散して報告をしなかった罰を与えなくてはならない、王の威厳に関わるのでそうせざるを得なかった。


 よってカレンらは魔の大陸から進行してくる魔物らを防ぐ役割を担う「防衛隊」に編成し、最前線に送ることにした。
 それを口にした王、常人なら動揺して嫌がっているところだが、貢献できるならと揃ってカレンらは胸に手を当てて了承してくれた。


 そして現に至り、カレンらは非常に後悔した様子で顔を青ざめていた。
 戦場というものは初めてだった。
 初日は、誰も死ぬとは思えない和やかな1日を過ごしていたはずだったが、魔物の攻撃が始まった途端にすべてが一変する。


 それを目にしたカレンが特に動揺した面をみせて、アリシアを心配させていた。
 倒すたびに震えていく両手、切っても減らない敵の数。


 自分なら容易いと舐めてしまったツケが回ってきたのか、ほぼカレンは行動を出来なくなってしまっていた。
 頼れるのはサクマとアリシアという苦楽を共にした仲間の2人だけだ。


 誰かが倒れれば手を貸し、1人で抱え込まずに仲間に頼る、それが彼女らのルールだ。


 あの日から、カレンは部屋で1人で悩んでいた。
 阿保のトレスと打って変わり、思考がすぐ回る彼女には薄々気づいていた。
 メンバーの1人である追放してしまったネロの事を、陰から彼は自分らを支えてくれていたことを。


 ……知っていたはずなのに。
 と、今になって後悔という感情をカレンは抱いていた。
 それが次第に罪悪感という言い表せられないものに変化していった。


 同時にカレンは決意した。
 もしこの防衛戦が終われば、王都に戻って追放したネロを探し出そう、と。


 面とむかって謝りながら頭を下げて、この胸に溜まっていくモヤモヤを解消しよう。


「アリシア」


 治療を受けながら、カレンは自分の側にいてくれるアリシアに呼びかけた。
 無言だが、嬉しそうにアリシアはカレンの方を見てニッコリ笑う。


「私に新しい目的が出来たわ、だからここじゃ死ねない。だから、生きるの……」


 この防衛戦は試練だ、カレンに対してのだけではない。
 無言のアリシア、動物好きのサクマも同様に死んではいけない試練だ。


「………わかってるよ」


 アリシアが答え、カレンは彼女の声を耳にして目を見開いたのだった。




 ※※※※※※




 数週間もの防衛の末、魔物の進行は止まった。


 最前線の砦が崩れてしまい窮地に陥る人族の軍だったが、寸前に『魔術の勇者』の率いる援軍が戦場に到着し魔物の優勢を劣勢へと覆してみせたのだった。


 それでも、戦いはさらなる過酷さに突入。
 その中、カレンらも紛争して魔物の攻撃を凌いでいたが、途中アリシアは敵の強力な攻撃を受けてしまい生死をさまよう。
 いわゆる昏睡状態である。


 サクマは瀕死になってしまった黒グリフォンを回収するべく敵陣の懐へと単独で突撃。
 敵の攻撃を受けて片腕を失ってしまうが、黒グリフォンの回収を成功した。


 最後の記録では、行方不明の兵士の名簿に「カレン・バレンタイン」の名前が記されていた。
 優秀な錬金術師として敵の囮役を担った彼女だったが、忽然とその消息を絶ったと姓名の下記に細かに説明されていた。
 数日、捜索班により彼女の衣服等が発見されたが肝心の遺体は発見されず、敵の魔物により捕食されたと判断される。


 生存したサクマは王都へと帰還して、国王に報告。
 報酬に『英雄』の称号、貴族としての地位を与えられたが、それをすべて自分ではなくて行方不明のカレンに与えてくれとサクマは王に主張した。


 サクマは信じていたのだ、必ずカレンは何処かでまだ生きていることを。
 自らを犠牲にしようとした、英雄に値する『カレン・バレンタイン』を。


 王は涙を流すサクマの願いを聞き入れ、すべての功績を生きているのかも分からない人物に与え、サクマと昏睡状態のアリシアに王城での常住を許した。


 それから数週間が経過し、サクマに新たな仕事が告げられる。
『剣の勇者』を乗せた船の到着する港に、サクマは王の命により派遣。
 仕事の内容は『勇者の儀』が開催するまでに勇者の護衛を務めること。


 それを知ったサクマはいいチャンスだと、港まで出発する日より早く自ら旅立っていってしまった。
 方法は、飛行できる幻獣を召喚して乗るだけ。



 かつて、仲間であったネロの妹と会うためにサクマは到着を急いだのだった。
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