45 / 62
第4章 ー《ネロ》精霊樹編ー
第42話 『一方、残った仲間達は《リンカ》』
しおりを挟む??日。
私リンカ・トオツキは、魔の大陸に飛ばされていた。
場所はアルガルベ王都と繋がりがある港町、ノワールの郊外だ。
しかも、とある薄汚れた小屋の中。
真っ白い光に包まれてから、あまり記憶はない。
けど確かなのは私は今、拉致されている。
誰も居ない、暗い部屋の中で一人。
手足が縄で縛られていて、椅子に座らせられている状態だ。
なんとか動ければ問題なく対処可能だけど、胴体には厳重な鎖が固定されていた。
これじゃ、いくら『薄氷のリンカ』と呼ばれていた盗賊幹部だった私でも、どうしようも出来ない。
今じゃただの拘束されたか弱い美少女だ。
そんな事を思っていたら、目の前の崩れそうな扉が急にバーン! と大きな音を立てて開けられた。
特に動揺した様子も示さず、私は真顔で開けられた扉の方に視線を移動させる。
部屋に大男と小柄という、なんともバランスの悪い体格の2人組が入場。
あまり鍛えていないのか、2人とも腹が出ていて不快だ。まさに、メタボと言う他ない姿である。
「おっお! 兄貴、どうやら目を覚ましたらしいですぜ」
鬱陶しいチビだ、と思ったが高い声を出したのが大男の方だった。
ソプラノだ、どういうことだ。
兄貴と呼ばれていたのは、四等身のチビの方だった。しかも鼻が真っ赤か。
「ああ、今回の目玉賞品だぞこれは~。美しく整った容姿、うっすら筋肉のついたスレンダーな身体、白銀色の髪も珍しい! これは高値で売れなければ納得は不可能だ」
「売れなかった場合は、物好きな傭兵団に性奴隷としてコイツを引き渡す。まあ、その前に俺達が味見しておくがな……ゲヘヘ」
キモッ! 一言でこのチビの印象を表すと 『気持ち悪い』ちっさいクセに私を味見するとか発言しているけど、どうせアソコも小粒なんだろうね。
第一、私の初めてはこんな安くて汚い男どもの為にあるワケではない。
いや、そんな事よりこの状況を打開するための術を考えなければ後からじゃもう遅い。
いい案ではないけど、説得してみるのはどうだろうか? 無理だったら、その時はその時に考えよう。
けど、まず何を言ったらいいのか? 自分より下等生物には冷ややかな言葉しか浮かんでこない。
「……ねぇ、そこのちっさいの。腕と足の拘束がキツすぎて痛いわ。一旦、コレを解いてくれないかしら?」
かなり冷たさを控えた感じに要求してみる、こんなのでも我ながらよくやったものだと評価したい。
しかし一方、要求された『チビ』はポカンと私を見上げていた。
その視線が悲しいように見えた。
「女、それ俺の事か?」
「……兄貴のことだよ」
横から質問された相手とは違う、大男が私の代わりに答えてくれた。
「お前に聞いていねぇんだよ! 黙ってろ!」
「でも兄貴、小さい」
「黙ってろ! 図体だけがデカイすっとこどっこい! 俺が質問しているのは、この女だ……」
イライラとしながらチビが手を伸ばして私の顎を掴んでこようとする。
難なくチビの手を華麗に避けながら、ついでに奴の指を強く噛んでみせた。
「うぉぉお!! いだだだだ!! 」
情けなく痛がるチビの指をすぐ解放すると、私は床にめがけて唾を吐き捨てた。
「汚らわしく素手で触れないでくれる かしら? 私、こう見えても潔癖症だからアンタはお断りよ」
「このアマが!! ナマイキな事をしやがって!」
バコ! 鈍い音がしたが、右耳が強い耳鳴りに襲われる。
どうやら、右頬を激怒したチビ男に殴られてしまったらしい。
じんわりと口の中で漂う鉄の味を、真顔のまま唾液と一緒に床に吐き捨てた。
ああ……今のちょっとカチンとしたかも。
無防備の女の体に触れようとした挙句に、抵抗されたら暴力を振るう。
まるで昔、奴隷商人の私に対しての行いを連想させるような状況だ。
もしこの邪魔くさい拘束を外せたら、なんとしてもコイツらに地獄を見せてから殺したいという、恐ろしい思考が私の脳を遮った。
「ちょっ兄貴、品質が落ちるよ……」
「う、うるせぇな! 大人しく出来ねぇ商品はこういう風に調教して黙らせるんだよ!」
調教? ……逆にアンタに本物の調教ってものを教えてやるよ。
誰に喧嘩を売って、人はどういう時に命乞いをするのか………!
非常に鋭利な視線を、私を殴ったチビに向ける。
強い視線を感じたチビは、ビクリと大きく肩を震わせながら話すのを止めた。
微かだが、汗を流している。
「ひっ……!?」
私と目を合わせた瞬間、チビは怯えながら床に思いっきり尻もちつく。
情けない、威力を込めた眼光で睨みつけただけなのにこの様とは。
前、ネロにうっかりこの視線を向けた時は、彼は決して怯えたりはしなかった。
むしろ、心配しながら私に気を遣ってくれたのだ。
その瞬間、胸が高鳴っていくのを感じたけど気のせい、緊張してしまっただけで深い意味なんて微塵もない。
「兄貴、大丈夫かぁ? もう一回、この女を殴るか? 品質落ちるけど……」
大男が拳を作る、多分この情けないチビよりかは威力がありそうだ。
瞬時にチビ男が大男を怯えながら制する。
「よ、よせ! お前の言う通り、売り物だから傷をつけちゃいけねー! あ、そうだ。確かまだ昼飯食ってなかったから行こうぜ! 俺、奢るからよ。な?」
「……兄貴、太っ腹だなぁ。分かった、行こう。丁度、俺もお腹空いていたところなんだよ~」
ガタガタと震えるチビ男は、冷汗を垂らしながら大男の背中を強引に押して急かす。
私の方を決して見ない。
まるで私の存在事態が無いかのよう態度だ、よっぽと怖いのだろう。
そう思うと、嬉しさでニヤけてしまう自分がいた。
「ひぃ……!」
チビ男は私を監禁している部屋から、勢いよく飛び出していった。
バタン!! と扉が強く閉められてしまう。
そして一人、取り残される私。
安堵はしていないが、肩を落としながらホッと息を吐いた。
「……さて、後はここを切り抜ける手立てを考えなきゃね。あんな汚い奴らに振り回されていたら、コッチの身がもたないわ」
呆れながら、私は鎖を鳴らす。
やはりこの魔の大陸産の鎖は硬い。
ファンブル大陸と違って魔の大陸の原料はやはり優秀だ。
主に大型のモンスターや魔物を捕らえる為の道具として使用されているが、人間を拘束するというケースは一度も聞いた事がない。
あの二人は相当の馬鹿なんだろう。
万が一に外せなかったりしたら、私が危うい。
なんとかせねば。
数分後。
一人で考えていると、目の前の扉がゆっくり開けられる。
顔を上げて睨んでやろうとしたその瞬間、部屋に新たなルームメイトが投げ込まれてきた。
それも、かなり騒がしそうな女が。
「ぎゃうぃ!」
縄で全身を縛られた小さなそいつは、無造作に床を転っていた。
「痛っいなあ! 小さな女の子は丁寧に扱ってよ、もう!」
あまりに鬱陶しいので、私は彼女を足で踏みつけるように動きを止め、ボコボコにされた彼女の顔を覗き込む。
見慣れた顔、まるで先日会ったばかりのようだ。
「あら、誰かと思いきやいつぞやの貴女じゃない? こんな所で何しているのよ?」
「うわぁああん!! 助けてよぉ! 誰かー!」
泣き出してしまった、自称エセ女神の餓鬼が。
幽霊のような存在の彼女がーーーネロくんの配下的存在の『フィオラ』が大声で泣いてしまった。
どうしてフィオラがこんな所にいるのだろうか、それに私を見てもどうして反応を示してくれないのだろうか。
泣きじゃくる彼女を見ながら、いくつもの疑問が浮上する。
「うるさいわねぇ、相変わらず。フィオラ、私よワタシ」
「そんなの知っているから助けを求めているんでしょうか! 誰かー! こんな奴と一緒なのは嫌だよー!」
仮にここに剣があったら、真っ先に容赦なくコイツをぶった斬ってやりたいところだ。
だけど武器は取り上げられたらしく、手元にはない。
「ていうか、どうしてリンカが捕まっているのよ! 盗賊の幹部だったんでしょ! 戦いなよ!」
「出来るなら最初っからここ一面を血の海にしているわよ。縄抜けぐらい数時間あれば余裕だけど、この厳重な鎖は私じゃどうしようもないわ」
それを聞いた途端、フィオラの目が絶望的になる。
まるで迷宮でお花摘んでいたら、強力な魔物に取り囲まれ摘んでしまったような……うん、笑えないわね。
この状況じゃ仕方ない、フィオラに頼るか。
「ねぇ、自称女神さん」
「自称じゃないやい! 正真正銘の女神族だよ!」
華麗に無視しておくとしよう。
「女神なら、この状況をどうにか出来ないのかしら? 例えば、魔法攻撃で壁に穴をこじ開けたり、私のこの鎖を解除したり……」
「ムリムリ。あくまでフィオラは力を与えるだけで、戦うことは出来ないの。それに、物理魔法なんて物騒で使うの怖いわ!」
「風魔法を使った事があるじゃない? ぶっ放してよ」
「そんな物、両手の拘束を解いてからやりたいよ! もぉ!」
虫のようにゴロゴロとまた床に転がりだすフィオラ。
そう、つまりフィオラも使い物にならないと……。
うーん、もしこのまま大人しく奴隷商人なんかに売られたりしたら、後先が面倒だ。
それに私ら二人には身内が居ない。
親族が居ない者を強引に捕まえ奴隷にしても、性的暴力なことを行なっても魔の大陸では問題がないという。
そうならない為、その前になんとか逃げ出さなければならない。
「………」
さて、足手まといが増えたこの状況をどうするか? 勿論、フィオラを見捨てたりはしない。
そんな事を考えていると、建物の外から大きな笑い声が聞こえた。
まるで悪魔のような、恐ろしい甲高い声が………。
0
あなたにおすすめの小説
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる