S級パーティから追放された幸運な僕、女神と出会い最強になる〜勇者より先に魔王討伐を目指す〜

灰色の鼠

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第4章 ー《ネロ》精霊樹編ー

第42話 『一方、残った仲間達は《リンカ》』

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 ??日。

 私リンカ・トオツキは、魔の大陸に飛ばされていた。

 場所はアルガルベ王都と繋がりがある港町、ノワールの郊外だ。
 しかも、とある薄汚れた小屋の中。
 真っ白い光に包まれてから、あまり記憶はない。
 けど確かなのは私は今、拉致されている。
 誰も居ない、暗い部屋の中で一人。
 手足が縄で縛られていて、椅子に座らせられている状態だ。
 なんとか動ければ問題なく対処可能だけど、胴体には厳重な鎖が固定されていた。

 これじゃ、いくら『薄氷のリンカ』と呼ばれていた盗賊幹部だった私でも、どうしようも出来ない。
 今じゃただの拘束されたか弱い美少女だ。

 そんな事を思っていたら、目の前の崩れそうな扉が急にバーン!  と大きな音を立てて開けられた。 
 特に動揺した様子も示さず、私は真顔で開けられた扉の方に視線を移動させる。

 部屋に大男と小柄という、なんともバランスの悪い体格の2人組が入場。
 あまり鍛えていないのか、2人とも腹が出ていて不快だ。まさに、メタボと言う他ない姿である。

「おっお!  兄貴、どうやら目を覚ましたらしいですぜ」

 鬱陶しいチビだ、と思ったが高い声を出したのが大男の方だった。
 ソプラノだ、どういうことだ。

 兄貴と呼ばれていたのは、四等身のチビの方だった。しかも鼻が真っ赤か。

「ああ、今回の目玉賞品だぞこれは~。美しく整った容姿、うっすら筋肉のついたスレンダーな身体、白銀色の髪も珍しい!  これは高値で売れなければ納得は不可能だ」

「売れなかった場合は、物好きな傭兵団に性奴隷としてコイツを引き渡す。まあ、その前に俺達が味見しておくがな……ゲヘヘ」

 キモッ!  一言でこのチビの印象を表すと 『気持ち悪い』ちっさいクセに私を味見するとか発言しているけど、どうせアソコも小粒なんだろうね。
 第一、私のはこんな安くて汚い男どもの為にあるワケではない。

 いや、そんな事よりこの状況を打開するための術を考えなければ後からじゃもう遅い。
 いい案ではないけど、説得してみるのはどうだろうか?  無理だったら、その時はその時に考えよう。
 けど、まず何を言ったらいいのか?  自分より下等生物には冷ややかな言葉しか浮かんでこない。

「……ねぇ、そこのちっさいの。腕と足の拘束がキツすぎて痛いわ。一旦、コレを解いてくれないかしら?」

 かなり冷たさを控えた感じに要求してみる、こんなのでも我ながらよくやったものだと評価したい。

 しかし一方、要求された『チビ』はポカンと私を見上げていた。
 その視線が悲しいように見えた。

「女、それ俺の事か?」

「……兄貴のことだよ」

 横から質問された相手とは違う、大男が私の代わりに答えてくれた。

「お前に聞いていねぇんだよ!  黙ってろ!」

「でも兄貴、小さい」

「黙ってろ!  図体だけがデカイすっとこどっこい!  俺が質問しているのは、この女だ……」

 イライラとしながらチビが手を伸ばして私の顎を掴んでこようとする。
 難なくチビの手を華麗に避けながら、ついでに奴の指を強く噛んでみせた。

「うぉぉお!!  いだだだだ!! 」

 情けなく痛がるチビの指をすぐ解放すると、私は床にめがけて唾を吐き捨てた。

「汚らわしく素手で触れないでくれる かしら?  私、こう見えても潔癖症だからアンタはお断りよ」

「このアマが!!  ナマイキな事をしやがって!」

 バコ!  鈍い音がしたが、右耳が強い耳鳴りに襲われる。
 どうやら、右頬を激怒したチビ男に殴られてしまったらしい。

 じんわりと口の中で漂う鉄の味を、真顔のまま唾液と一緒に床に吐き捨てた。
 ああ……今のちょっとカチンとしたかも。

 無防備の女の体に触れようとした挙句に、抵抗されたら暴力を振るう。
 まるで昔、奴隷商人の私に対しての行いを連想させるような状況だ。
 もしこの邪魔くさい拘束を外せたら、なんとしてもコイツらに地獄を見せてから殺したいという、恐ろしい思考が私の脳を遮った。

「ちょっ兄貴、品質が落ちるよ……」

「う、うるせぇな!  大人しく出来ねぇ商品はこういう風に調教して黙らせるんだよ!」

 調教?  ……逆にアンタに本物の調教ってものを教えてやるよ。
 誰に喧嘩を売って、人はどういう時に命乞いをするのか………!

 非常に鋭利な視線を、私を殴ったチビに向ける。
 強い視線を感じたチビは、ビクリと大きく肩を震わせながら話すのを止めた。
 微かだが、汗を流している。

「ひっ……!?」

 私と目を合わせた瞬間、チビは怯えながら床に思いっきり尻もちつく。

 情けない、威力を込めた眼光で睨みつけただけなのにこの様とは。
 前、ネロにうっかりこの視線を向けた時は、彼は決して怯えたりはしなかった。
 むしろ、心配しながら私に気を遣ってくれたのだ。
 その瞬間、胸が高鳴っていくのを感じたけど気のせい、緊張してしまっただけで深い意味なんて微塵もない。

「兄貴、大丈夫かぁ?  もう一回、この女を殴るか?  品質落ちるけど……」

 大男が拳を作る、多分この情けないチビよりかは威力がありそうだ。
 瞬時にチビ男が大男を怯えながら制する。

「よ、よせ!  お前の言う通り、売り物だから傷をつけちゃいけねー!  あ、そうだ。確かまだ昼飯食ってなかったから行こうぜ!  俺、奢るからよ。な?」

「……兄貴、太っ腹だなぁ。分かった、行こう。丁度、俺もお腹空いていたところなんだよ~」

 ガタガタと震えるチビ男は、冷汗を垂らしながら大男の背中を強引に押して急かす。

 私の方を決して見ない。
 まるで私の存在事態が無いかのよう態度だ、よっぽと怖いのだろう。

 そう思うと、嬉しさでニヤけてしまう自分がいた。

「ひぃ……!」

 チビ男は私を監禁している部屋から、勢いよく飛び出していった。
 バタン!!  と扉が強く閉められてしまう。

 そして一人、取り残される私。

 安堵はしていないが、肩を落としながらホッと息を吐いた。

「……さて、後はここを切り抜ける手立てを考えなきゃね。あんな汚い奴らに振り回されていたら、コッチの身がもたないわ」

 呆れながら、私は鎖を鳴らす。
 やはりこの魔の大陸産の鎖は硬い。
 ファンブル大陸と違って魔の大陸の原料はやはり優秀だ。

 主に大型のモンスターや魔物を捕らえる為の道具として使用されているが、人間を拘束するというケースは一度も聞いた事がない。

 あの二人は相当の馬鹿なんだろう。
 万が一に外せなかったりしたら、私が危うい。
 なんとかせねば。



 数分後。
 一人で考えていると、目の前の扉がゆっくり開けられる。
 顔を上げて睨んでやろうとしたその瞬間、部屋に新たなルームメイトが投げ込まれてきた。
 それも、かなり騒がしそうな女が。

「ぎゃうぃ!」

 縄で全身を縛られた小さなそいつは、無造作に床を転っていた。

「痛っいなあ!  小さな女の子は丁寧に扱ってよ、もう!」

 あまりに鬱陶しいので、私は彼女を足で踏みつけるように動きを止め、ボコボコにされた彼女の顔を覗き込む。

 見慣れた顔、まるで先日会ったばかりのようだ。

「あら、誰かと思いきやいつぞやの貴女じゃない?  こんな所で何しているのよ?」

「うわぁああん!!  助けてよぉ!  誰かー!」

 泣き出してしまった、自称エセ女神の餓鬼が。
 幽霊のような存在の彼女がーーーネロくんの配下的存在の『フィオラ』が大声で泣いてしまった。

 どうしてフィオラがこんな所にいるのだろうか、それに私を見てもどうして反応を示してくれないのだろうか。
 泣きじゃくる彼女を見ながら、いくつもの疑問が浮上する。

「うるさいわねぇ、相変わらず。フィオラ、私よワタシ」

「そんなの知っているから助けを求めているんでしょうか!   誰かー!  こんな奴と一緒なのは嫌だよー!」

 仮にここに剣があったら、真っ先に容赦なくコイツをぶった斬ってやりたいところだ。
 だけど武器は取り上げられたらしく、手元にはない。

「ていうか、どうしてリンカが捕まっているのよ!  盗賊の幹部だったんでしょ!  戦いなよ!」

「出来るなら最初っからここ一面を血の海にしているわよ。縄抜けぐらい数時間あれば余裕だけど、この厳重な鎖は私じゃどうしようもないわ」

 それを聞いた途端、フィオラの目が絶望的になる。 
 まるで迷宮でお花摘んでいたら、強力な魔物に取り囲まれ摘んでしまったような……うん、笑えないわね。

 この状況じゃ仕方ない、フィオラに頼るか。

「ねぇ、自称女神さん」

「自称じゃないやい!  正真正銘の女神族だよ!」

 華麗に無視しておくとしよう。

「女神なら、この状況をどうにか出来ないのかしら?  例えば、魔法攻撃で壁に穴をこじ開けたり、私のこの鎖を解除したり……」

「ムリムリ。あくまでフィオラは力を与えるだけで、戦うことは出来ないの。それに、物理魔法なんて物騒で使うの怖いわ!」

「風魔法を使った事があるじゃない?  ぶっ放してよ」

「そんな物、両手の拘束を解いてからやりたいよ!  もぉ!」

 虫のようにゴロゴロとまた床に転がりだすフィオラ。
 そう、つまりフィオラも使い物にならないと……。


 うーん、もしこのまま大人しく奴隷商人なんかに売られたりしたら、後先が面倒だ。
 それに私ら二人には身内が居ない。
 親族が居ない者を強引に捕まえ奴隷にしても、性的暴力なことを行なっても魔の大陸では問題がないという。

 そうならない為、その前になんとか逃げ出さなければならない。

「………」

 さて、足手まといが増えたこの状況をどうするか?  勿論、フィオラを見捨てたりはしない。


 そんな事を考えていると、建物の外から大きな笑い声が聞こえた。
 まるで悪魔のような、恐ろしい甲高い声が………。

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