S級パーティから追放された幸運な僕、女神と出会い最強になる〜勇者より先に魔王討伐を目指す〜

灰色の鼠

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第1章 ー愚者編ー

第14話 『幸運なボク、疑惑する』

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『深追の森』は思ったより想像を絶するほどにモンスターの数が異常に多かった。
 進めば進むほど敵が増えていく。

 眠ったフィオラを担ぎながら、前方を走り抜けるリンカを見ながら思った。
 モンスターは多い、けど到底ボク達の相手ではない。

 高い木々の枝を伝いながら逃げていくミミにひたすらフォーカスだ。

「もう、大人しく捕まってくれないのかしら?」

 高い身体能力を持つと言われる獣人族の柔軟な動きはまるでプロフェッショナルなサーカス団のようだ。
 地を走るボクらより木を伝って移動する彼女の方が速い。

「フィオラっ、ね、フィオラ!」

「むにゃ……お母さん……ポテトはもうだめだにょ」

 肩の上でも熟睡しているフィオラの頰をペチペチと叩いて起こそうと試みるが、気持ち良さそうで中々起きてくれやしない。

「ぐきゃあああ!」

 道を阻むかのように並ぶ数10体もの緑色のオークと遭遇してしまった。
 それでもボクのステータスとリンカの戦闘センスにかかればーー

「ギャャャャャャ!!?」

「キモいわよ、死ね」

 銀色から血液色に姿を変えていくリンカの剣がオークらを纏めて切り裂いて、構わず進んでいく。
 一方のボクは弱りきった残党を素手で倒していった。

 多数でかかろうと奴らの実力は下級、訓練用のダミーも当然である。
 ついてしまった返り血を拭い取りながらミミの逃げていった方向を確認する。

 ミミを見失ってしまった。

「ネロ、見失ったわよ」

「いや知ってるよ!? どうすれば……」

「心配無用よ、私の鼻があるわ」

 リンカは頭を抱えて動揺をみせるボクの頭を軽く叩いて笑った。
 そしてミミの逃走していった方向へと顔を向けてリンカは目を閉じてスンスンと鼻を鳴らした。

「盗賊にいた時代、よく頼りにされていたわ。街道を通る行商人を襲う時に身につけた嗅覚で、相手護衛の数や所持している金額を把握する時なんかには使うわ。身なりを整えているほど匂いが増していくの」

「へぇ、便利なんだね……」

 正直に関心してリンカを見てみたが、ボクの視線に気づき「見ないでよ」と睨みつけて彼女は手で顔を覆った。
 恥ずかしいのだろう、乙女だなぁ。

「猫耳の少女の匂いをキャッチしたわ。かなりの速さで私たちとの距離を離していっているけど、そんなに離れているわけではないわ」

 すぐさま先導して前を出るリンカ。
 その手には剣が握られていて、邪魔くさい木々を避けることなく彼女は脳筋方法で幹を切り裂いて、倒す。
 単純そうに見えて、筋力をものすごく使う。

 なんていうか……彼女の印象はスマートというより、脳筋スマート? ギャップの重なった性格が個性的である。
 そして何より冷静かつ状況判断が迅速だ。

 時々、リンカを見て本当に自分がこのパーティのリーダーでいいのかと悩んでしまうことがある。

「ぼーっとしないで、さっさと行くわよネロ」

 それでもリンカの向けるボクへの眼差しは、変わらず信頼に足るようなものだった。
 それだけで、心が和んで不安をかき消してくれた。




 ※※※※※※


  

 シーフのスキル『暗視眼』を発動させると、沼にハマるように動かないミミを発見。

 ジタバタと沼から抜けようと必死にもがいている、これはチャンスだと接近しようとした刹那、リンカにローブの襟を引っ張られる。

「あんた何やっているの? 沼に自らつっこんでいく行く気なの? 馬鹿なの?」

「あ、そうだった。ごめん」

 一言多いリンカの言葉に大きなダメージを受けながら足を止めて引きさがろうとしたが……足が動いてくれない。
 足がハマったかのように全く……ビクとも。

「2度目になるんだけどさリンカ……ごめん」

 下半身まで沼に潜って慌てるミミを見ながら、顎に手を当てて考えるリンカに申し訳なく謝罪した。

「なによ?」

 嫌な予感がしたのか、目を大きく開かせ汗を流してボクを見るリンカ。

 そう、ハマってしまったのだ。
 少し離れた先のミミと同様に、沼地に足をはめて動かなくなってしまったのだ。
 やばいと思い動こうと試みるが、神剣士レインの豆知識を思い出した。

(そうだった! 動けば動くほど沈みが早くなっちゃうんだった!)

 足から膝まで沼に沈んでしまった。
 リンカに助けを求めようとしたが、まず肩に担いでいるフィオラを預けようと彼女を持ち上げてリンカに差し出した。

 無論、スゲー嫌な顔をされた。

 けどリンカは嫌々ながら素直に手を出してくれた。
 フィオラを渡す。

 リンカは手を離す、そのままフィオラは顔から沼に落下して一気に沈んで見えなくなってしまった。

「………っ!?」

「あら、ごめんなさい。手、滑っちゃったわ」

 わざとらしい演技で気の毒そうな表情を披露してからボクを見て無心になるリンカ。

 ミミどころじゃなく、まずフィオラが消えてしまった。

「おーーい!!!?」

 迷わず沼に飛び込んで潜り込む自分がいた。
 顔から着地したせいか息が出来なくなってしまった。

「仕方がないわね、まったくもう」

 リンカは半苦笑いでボクの胴体を掴むと、ものすごい筋力で引っ張り上げた。
 スポッと抜けるボクの頭は泥だらけになってしまっていた。

 その手にはフィオラはいない、助けそこねたのだ。

「フィオラっ! フィオラが!」

「安心してネロ様。私、沼程度じゃ足を取られたりしないから」

「あら、無事だったの?」

 ーーーと思っていたらボクの背中にフィオラが引っ付いていた。

 フィオラの表情を伺ってからボクは、すぐに顔を逸らした。
 ものすごく激怒して、血管が浮かび上がっていた。左目がビクビクと痙攣しているかのように震えていて、赤く発光する眼光が鋭い、さらに笑顔がとっても怖い。

「このアマーーー!!」

 それがすべてリンカに向けられていて、フィオラは彼女にめがけて風魔法を放ってしまった。
 リンカはバックステップで易々と回避してみせたが、吹き荒れる暴風に巻き込まれてしまったボクは沼地の泥と一緒に平たい地面にめがけて吹っ飛ばされてしまう。

 沈みかけそうなミミの頭上を通りすぎる瞬間、吹っ飛ばされままのボクは彼女を掴んだ。

「フニャ!?」

 沼から抜け出すことが出来たボクはミミの小さな体を優しく包み込みながら、硬い地面の上に体を叩きつけてしまった。

「作戦通り」

 遠くからニヤリと笑うリンカの気配を感じ取った。

「う、うぅん……痛い」

 体の上に獣人族を乗せながら仰向けに空を見上げて頭をさすった。
 外傷はないので安心した。
 それよりもーーー

「っ、キミ大丈夫かい?」

 ボクの腕に包まれたミミを見て声をかけた。
 正直また暴走してしまうんじゃないかと心配したが、安否の確認が優先だ。

「ーーーにゃ、ニャンとか……」

「はぁー」とため息を零した猫耳の少女が頰をボクの胸の上に擦って、安心したようにノドを鳴らした。
 習性が完全なる猫だ、暴れたりしない。

 そう思っていたら突然、少女の頭の上に生えた炎の耳がボワッと消滅してしまった。
 可憐で可愛い少女へと変化すると、少女の瞳が潤んだ。

「ニャンとか……うぅっ、うにゃゃああっ! ふにゃあああ! 助けてくれてありがとうにゃああ!!」

 ミミだと思われる少女は胸の中で泣き出してしまった。
 唖然として、口をぱっくりと半開きするボクはリンカたちに目をやった。
 和解はしていないが、フィオラとリンカがボクの方を珍しそうな光景を見るかのように眺めていた。

「そ、そうだね。良かった」

「理性を失ってしまう」。あの村の村長の言葉を思い出してボクは再び少女の方を見て、なんとも言えない気持ちに駆られてしまう。
 辛かったのだろう、意識を乗っ取られて暴れて……きっと不本意だろう。
 彼女の流す大量の涙がソレを物語っているようだ、さぞや怖かったのだろう。

「ふにゃゃゃ……!! ありがとうにゃゃ!」

「……」

 どういう言葉をかけてやれば良かったのかが分からない、それでも無意識に彼女を優しく抱きしめている自分がいた。
 まるで、あまり泣かないエリーシャが泣き崩れてしまったのようで……兄心が彼女を妹だと錯覚したのだろうか。

「………よしよし」

 何がきっかけでこの少女が理性を取り戻したかのかは分からない、けど嫌な予感がした。

 だって……少女ミミの細い腕から白い首元までに、酷く腫れた痣のようなモノが痛々しく広がっているから。

 まるで、人間の手によって叩かれたかのような跡である。
 かつて修道院で育てられた時、預けられる子供たちの大半が同じ痣を作っていたからだ。
 聞けば全員、親のひどい虐待により出来てしまった痣らしい。

 この少女ミミの痣が、あの子たちに付いたヤツに似ている。
 嫌な予想が脳裏を過ぎった。
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