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第1章 ー愚者編ー
第15話 『猫耳の少女ミミの痣』
しおりを挟む今回の依頼対象のミミをなんとか保護するのに成功したボクらパーティは、野営場へと戻った。
「にゃぁ……」
疲れで大人しくなった獣人の少女ミミは、リンカとフィオラに任せてボクはテントの外へと退出。
テントのすぐそばの丸太に座ってボクは、目の前いっぱいに広がっている湖の方を大人しく眺める。
「……珍しいこともあるんだなぁ」
リンカがミミの身体検査を立候補した時は驚いた。
体の痣や傷を確認、その後に手当を行うらしい。
そのため男性は退散しろって指示されて、現に至る。
追い出される時、気の毒そうな目をリンカに向けられたが無論、ボクは変態などではない。
少し誤解されているようだが(特にリンカから)幼女の裸を拝んで興奮するような趣味などない。
ボクはいたって平常である。
「にゃ!? にゃ! 痛っ! 痛いにゃーー!!」
背後のテントから暴れ猫が泣き叫んでいる。
あの様子じゃ、やはりリンカが手当しているのだろうか。
リンカの手荒な光景が頭に浮かんだ。
「もう、乳だけはデカイ癖にまともに抑えられないじゃないか盗っ人女! 回復の息を吹きかけられないじゃないか!」
「う、うっさいわね!
この猫少女が大人しくしてくれないんだから仕方ないでじゃない? それよりアンタも早くこいつの服を脱がせてよ!」
「にゃー!! やだー! その子の息は嫌にゃ!
なんだか冷たくて嫌! おっぱい女も掴んでくる手の力が強いから痛いにゃーー!! 服も剥がないでーー!!」
テントの中にいる女性陣らの叫び声が騒がしい。
テントが大きく揺れたり弾けたり、まさに外から見たらカオスな光景である。
物凄く心配だ。
「にゃー! どうせならにゃ! あの優男のお兄ちゃんに手当てしてもらいたいにゃっ! あの可愛い顔の男の人にゃら、裸を見られたっていいから離してぇ!」
え、と唖然しながらテント凝視している自分がいた。
(え、いいの?)
それを拒否するように割り込む女性陣。
「なっ、ダメダメダメダメダメ!! 女神である私が許さないよっ! 私でさえネロ様に見られたことないのに、抜け駆けは許しません!」
「ふんっ! わたっ……私は別に構わないけど、ミミさん?」
「ミミでいいにゃ」
「アンタはあの優男を知らないから仕方ないけど、本性を目にしたら身震いするわよ? アイツ、実は超悪い変態野郎なのよ?」
(一体、なにを言いだすんだ!)
困惑するボクは、徐々にテントへと接近していた。
失礼な、ボクは変態ではなくフェミ……。
とりあえずボクにはそんな趣味など微塵もない、はずだ。
「にゃ? 変態?」
「そうそう、変態よ。もしアンタが彼に無防備な状態で裸なんて見せたら迷わず理性を失って襲うような奴よ。変態、まさに最低。外道よ外道」
「このデカ乳アマーーー!!! ネロ様をバカにするなああ!!」
激怒したのか、フィオラは怒りまかせにリンカに掴み掛かった……ような気がした。
一方のボクは、リンカに罵られて湧いた感情は怒りではなく悲しみだった。
「そ、そうかにゃ。その、変態なのはよく分からないけど……とりあえず助けてにゃーー!!」
何度も繰り返される連鎖に耳を傾けながら、涙を抑えきれない情けない自分がいた。
※※※※※※
ミミ・クリヴァ。14歳、女、種族「獣人の猫族」
服の下に隠れている痣が特徴的。
日々の暴力によるものだと見えるが、理由は不明。
猫族なのに耳が生えていない。
一旦、静まりかえったテントの外でミミに食料を与えながら詳しい話を色々と聞いてみた。
彼女の最初の言葉が「帰りたくない」だった。
自身が暴走してしまい誰かを傷付けてしまうことに対しての不安なのか、それとも……。
「どうしてなんだい? 君の親御さんたちひどく心配していたよ?」
すでに色々と悪い方向に推測している自分がいたが、ミミから直接な答えが出ない限り確信が持てない。
「それは嘘にゃの」
無表情のリンカに猫耳を触られながら優しくモフモフされているミミの方は、深刻そうに俯きながら答えた。
というか、いつのまにかミミに耳が生えていた。
炎のようにメラメラと揺れていて、とにかく赤い。
平然とリンカが耳を撫でているので、熱くはないだろう。
それよりもミミから発せられた声は、先ほどの活発な威勢を掻き消す程に悲しいものだった。
「嘘? それは、どういうことなの?」
「言いたくなければいいんだよ」とは、とても言えない状況だ。
しっかり詳細を把握しなければこちら側としてはミミを村に返していいのか、それともギルドに経由を説明して彼女を預けるかが検討できない。
「ネロ、彼女の腕と首筋だけじゃなく体のあらゆるところに人の手による切り傷や殴られたかような痣が無数もあったわ」
モフモフをやめると、腕を組みながらリンカは身体検査の結果を細かに報告してくれた。
なんていうか……うん、モフモフの事はツッコまないであげよう。
「実はにゃ、赤の他人には言いにくい話なんだけど……お父にゃんとお母にゃんが殴って出来た傷なの……」
やっぱりそうか。
修道院に預けられた子供たちも同様に、親御たちの暴力によって出来てしまった痣を、いまでも覚えている。
「原因は何よ?」
やはり魔力による暴走が原因なのか、それとも……ミミの頭上に視線を移動させる。
そこには先ほどまで生えていたはずの燃えるような猫耳が、消えていた。
「耳がにゃくて……情けないから」
耳のない頭に手を置きながら、弱気な声でミミはションボリとした。
「耳がにゃい、異端者だと、村の住民たちに恐れられて……両親はボクが生まれちゃったことを酷く後悔しちゃったらしいのにゃ。
だけど村長の血をひいているボクに石を投げつけたり、殴ったりする人はいなかったのにゃ……。けど、やっぱりあの目で見られるのが辛かったにゃ」
ミミは悲痛な表情で産まれた頃から今に至るまで、育てられた思い出を巡らせていた。
自分を否定する村の人々、耳が無いことにより無能や欠落だと罵り暴力を振るう両親。
父の強引な手より望まぬ程の量の魔力を暴走させられ、制御できないほどに理性を失ってしまった状態で傷付けてしまった人たちへの罪悪感。
今に至るまで長い年月、ミミの身体と心はズタボロになっていた。
「やめて、やめて」と訴えても決して止まらない暴力の連鎖。
結果、逃げだしたミミはボクらと出会った。
だけど、理性を失ったことによってボクらに攻撃を仕掛けた事に対してミミは涙をこぼした。
その瞳と雫に反射して映るボクらの姿は、心なしか歪んでいた。
「ごめんにゃっ……ごめんなさいにゃっ」
なにもない頭上から突然生えた真紅色に燃える耳、あれはきっと彼女の魔力により具現化したリミッター解除の合図だろう。
昔、エリーシャの師匠である神剣士レインから聞いたことがある。
かつてこの世界に強欲で卑劣な神が君臨した神話。
ボクらの知っているこの世界の景色はかつて、数千年前までは全て漆黒色に染められていて、生命も大地も存在していなかったらしい。
そんな世界に降り立った神は膨大な魔力を使用して、自分の望む世界を創造した。
この大陸も、その神によって生まれた創造の一部だ。
魔力は時に術者の想いに応えてようと、その人の最も望むような姿へと具現化することが稀にあるらしい。
この少女も、獣人でありながら耳がないことによる不便さに嫌気が差したのか、魔力を膨大に放出させると同時に、耳が生えてくれると望んだかもしれない。
その想いが具現化して、生まれたのがあの獣人の耳だろう。
けど、当人の想像を遥かに絶するほどの代価がこの現実である。
「…………辛い……わね」
泣き崩れるミミを見ながら、銀色の髪を風で靡かせながらリンカは気の毒そうに手を差し伸べる。
微かだが、リンカから珍しい優しい雰囲気が感じとれた。
フィオラも嗚咽を漏らすミミを見て何かを想ったのか、ミミのそばまで近づくとフィオラは優しく身を寄り添い抱きついた。
「ーーーー ネロ様」
フィオラの困惑したような眼差しがまっすぐ、ボクに向けられていた。
とっさに目を逸らして悩む。
立場上、冒険者としての任を果たすべきなのか、それとも人としてミミに手を差し伸べて救ってやるべきなのか。
葛藤が湧いてこない、モヤモヤとした悩みさえすぐに振り払うことが出来た。
よく考えなくとも、答えなんて単純で簡単だ。
ボクも同様に、ミミのそばまで近づいた。
ミミの温かい頰に手を当てて、涙で溢れてしまった彼女の目元を拭う。
そして、真剣な表情で告げた。
「夜が明けたら、キミを村まで連れていく」
「ーーーーっ!?」
ボクを見上げるミミの目から焦りと動揺、大きな絶望感が感じ取れた。平気だ……ミミの思っているような結果にする気は毛頭ない。
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