英雄に幼馴染を寝取られたが、物語の完璧美少女メインヒロインに溺愛されてしまった自称脇役の青年の恋愛事情

灰色の鼠

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第2章 主要人物として

第24話 「父親」

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 生きたいと———竜は強く願いながら、自分の罪の数々を思い返すのだった。

 産まれた時から数えきれないほどの命を殺めてきた、破壊してきた。それでも自分は死にたくない、そんな身勝手な想いに竜は支配されていた。どんな贖罪でもやってやるから助けてくれ、誰でもいい。恐怖に駆られながら瞼を閉じないよう抗う。閉じたその瞬間にすべてが終わりそうだから。

 終わりが迎える以上に怖いものはない。
 プライドの高い種族たる竜であろうと、死に直面して命乞いをしてなにが悪いか。

 荒野の真ん中で竜は瀕死になっていた。入ってはいけない領域《テリトリー》に土足で入り、自分よりも遥かに強い生物にやられたのだ。おかげか苦痛で表情を歪ませてしまう羽目になってしまう。上位種族と謳われた竜もこのザマでは通りかかった者に笑われてしまう。それだけは嫌だった。
 だけど現れたのだ。瀕死になった竜の目の前に人間が。

 人間は残酷な生き物だ。この地上に存在する、どんな生物よりも。弱肉強食で争いが起きる世界でその数を増やし、技術と知識を蓄え、強大な武器を作り上げ、今ではどの生物よりも上位に君臨する存在となった。竜は殺されると瞬時に思った。
 逃げなければと筋肉に力を込めるが、必死の抵抗も虚しく動くことのできない状況にまで竜は陥っていた。一方、青年はなにかを期待するかのような眼差しで魔術の詠唱を唱えている。攻撃なら早々に諦めるしかなかったが、それは殺傷ではなく癒す力をもった魔術だった。
 青年は竜に危害を加えることなく治してあげたのだ———






「その青年が……俺の父となんか関係のある人なんですか?」

 医務室のベッドの中で淡々と語るラケル師匠に聞いた。話を途中で止められても顔色一つ変えることなく真摯に彼女は答えてくれた。

「重要人物だよ。だけどもっと重要なのは彼が救った竜の方———」



 救ってくれた謎の青年の背中を竜は追いかけた。まだ警戒はあるものの受けた恩を返したいと思ったからだ。プライドが高いゆえの定め、恩を返すことができれば早々に立ち去ると決めていた竜だったが、そうはいかない。追いかけていた青年が道中倒れてしまった。

 竜は倒れた青年を口に加えて背中に乗せた。飲まず食わずで数日間歩き続けていたからだ。青年がどうして荒野で一人歩いていたかは分からない。だが救う理由があるのなら竜は救おうと思った。


 青年を背中に乗せてたどり着いた先は小さな町である。町の名前は平和町。誰しもが求める汚れのない理想郷と呼ばれた場所だ。
 怖がる人々に竜は敵意がないことを示しながら背中に乗せていたノアを町の者らに見せた。
 それでも不安がる住人らを察した竜はすぐさま立ち去ろうとしたその瞬間、一人挙手する男がいた。牧場を営む男性だった。



 青年は町はずれの牧場で目を覚まし受け入れてくれた男性に感謝をした。なにか手伝いと告げた青年に男性は優しく微笑みながら色々な仕事を与えた。
 柵の補強や、乳搾り、餌やり、そして男性の娘のお手伝いだ。注文された卵や牛乳を町に送り届けるのがお手伝いである。早朝に目を覚まし、荷車に注文の品をのせてから出発する。

 勤勉に仕事に取り組む青年を町の住人らは次第に心を開くようになった。町にやってくると有名人のように扱いもてなし、帰るころにはもう昼食時になったりするのは珍しくなくなっていた。

 数ヶ月後。
 男性は自分の牧場を継いでくれないかと青年に懇願するようになった。青年はまだ留まる竜の鱗を慣れた手つきで撫でながら困った顔で男性に告げた。『僕は旅人だから、居場所を探しているわけではない』と。男性はそれでも食い下がらず娘との結婚も許したが青年は頑なに首を上下に振ることはなかった。

 さらに月日が流れたある日。
 竜は食料調達のため森へと出かけていた。腹を満たせばすぐに牧場に戻る気ではいたが、思ったよりも大玉と遭遇してしまい大幅な時間を浪費してしまった。獲物を喰らい、満腹になったところで竜は翼を広げ空を羽ばたく。我が家へ帰ろうという当たり前の感覚に、ふと竜は違和感を感じた。

 いつからだろう、あの牧場を我が家と受け入れるようになったのは。本来、竜とは血肉に飢えた孤高の生き物。人間の営みとは交わらぬ境界の先にいるはずだ。いつから、一体いつから。 
 疑問を抱きながらも竜は疲れて考えないようにした。ただ自分には帰るべき居場所がある。
 生まれて初めての温かい住処。



 平和町に到着した竜は絶句した。
 いつもの賑わいが嘘のように遮断されたようだったからだ。それだけではない、町一面をたとえ肉食の竜であろうと顔をしかめるほどの鉄臭さが充満していたのだ。
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